総論(原法の考え方と臨床的位置づけ)
Brunnstromによるアプローチは、中枢性麻痺の回復過程で出現する**「共同運動」を軸として考える治療体系**です。これは、「中枢神経系疾患に見られる運動は、個々発生的発達に見られる運動パターンの発達過程の逆過程で崩壊していく」というJacksonの進化と解体説に基盤を置いています。
国内の臨床において、BRSは脳卒中患者の運動麻痺の程度を評価する標準的なバッテリーとして広く活用されており、その使用頻度と汎用性は非常に高いと評価されています。効果判定の指標としての活用度はそれほど高くないと指摘される一方で、入院時のBRSと最終自立度には明らかな相関があることや、歩行能力との関連性も示されています。また、PASS(脳卒中姿勢評価スケール)やMFS(脳卒中上肢機能検査)など、他の機能評価指標との間にも有意な関連性があることが報告されています。
【ステージの全体像】
- Stage I:弛緩。自発運動なし。
- Stage II:わずかな随意性、**共同運動(シナジー)**の出現開始、痙縮発現。
- Stage III:共同運動内での随意運動が可能、痙縮最強。
- Stage IV:共同運動外の分離運動が一部可能、痙縮減弱。
- Stage V:より複雑な分離運動へ拡大。
- Stage VI:分離運動がほぼ正常、協調性良好、痙縮ごく軽微~消失。
Stage I(弛緩期)
- 目的:連合反応の有無を確認
- 方法例:非麻痺側の肘伸展に徒手抵抗を加え、麻痺側大胸筋の収縮(連合反応)を触診・視認。
- 判定:収縮なし=Stage I / あり=Stage II-1以上
- ポイント:強刺激は反射的共同運動を誘発しうるため、安全な抵抗量で行う。
Stage II(痙縮出現・シナジー出現期)
- 目的:随意収縮の“芽”を捉える
- 方法例:麻痺側の手に「反対側の腰へ」(伸筋共同運動)を指示。
- 判定:目に見える運動がなくても随意収縮が触診で確認できれば Stage II-2以上
- ポイント:わずかな筋腹の張り・腱の緊張変化を触診で丁寧に確認する。
Stage III(共同運動内の随意性)
共同運動とは、意図した運動を行おうとした際に、単関節での運動が不可能で、他の関節にも同時に共同して運動が起こってしまう現象(脊髄レベルの原始的パターン)です。例えば、肘を屈曲しようとする際、必ず肩や前腕、手の運動を伴ってしまう状態を指します。
- 判定規則(2課題×2点法):不可能=0 / 不十分=1 / 十分=2 合計でⅢ-1~Ⅲ-4を運用します。目安ランドマークは同一肢位で評価し、体幹代償は不可とします。
| 判定 | 伸筋共同運動 | 屈筋共同運動 |
|---|---|---|
| Ⅲ未満 | 不可 | 不可 |
| Ⅲ-1 | 不十分 | 不可 |
| Ⅲ-2 | 不十分 | 不十分 |
| Ⅲ-3 | 十分 | 不十分 |
| Ⅲ-4 | 十分 | 十分 |
1)伸筋共同運動:「反対側の腰へ」
- 十分:臍下まで移動
- 不十分:臍上~乳頭下
- 不可:乳頭上で停止
2)屈筋共同運動:「反対腰 → 同側耳へ」
- 十分:乳頭上まで
- 不十分:乳頭下~臍上
- 不可:臍下
目安ランドマークは同一肢位で評価。体幹代償は不可。
Stage IV(共同運動外の分離運動が一部可能)
- 判定:3課題中1つ十分=Ⅳ-1 / 2~3つ十分=Ⅳ-2
- 肩内旋(結帯):背中へ回し、体幹代償なし・1動作。棘突起から5cm以内に到達で十分。
- 肩屈曲(~90°):肘屈曲≦20°、水平内外転±10°以内。60°以上で十分。
- 前腕回内:肘90°±10°屈曲・体側固定で50°以上回内できれば十分。
1)肩内旋(結帯)
2)肩屈曲(~90°)
3)前腕回内
Stage V(より高度な分離運動)
- 判定:3課題中1つ十分=Ⅴ-1 / 2つ=Ⅴ-2 / 3つ=Ⅴ-3
- 肩外転:肘屈曲≦20°、肩屈曲≦20°。60°以上で十分。
- 肩屈曲(~180°):肘屈曲≦20°、水平外転≦30°。130°以上で十分。
- 前腕回外:肩60~90°屈曲・肘伸展位、肘屈曲≦20°、50°以上回外で十分。
1)肩外転
2)肩屈曲(~180°)
3)前腕回外
Stage VI(ほぼ正常の分離・協調)
- 判定:2課題のいずれか1つ十分でStage VI
- 肩挙上テスト:手先→肩に触れて真上へを10回。
- 条件:肘屈曲≦20°、肩屈曲≧130°
- 十分:麻痺側タイムが非麻痺側の1.5倍以内(例:非麻痺側20秒 → 麻痺側≦30秒)
- 肩外転テスト:外転10回。
- 条件:肘屈曲≦20°、外転≧60°、水平内転≦20°
- 十分:同上、1.5倍以内
- 肩挙上テスト:手先→肩に触れて真上へを10回。
※反復計測は痛み・痙縮の増悪に配慮し、休息を挟んで行います。
1)肩挙上テスト
2)肩外転テスト
評価時の共通注意
- 代償の管理:体幹の傾き、肩甲帯の挙上・回旋、手指の屈曲拘縮による見かけの到達を「不可」と判定します。
- 疼痛・関節可動域:痛みが閾値やROM制限を左右するため、先に痛み管理とROM準備を行います。
- 再現性の担保:一貫した肢位とランドマークでの評価を徹底します。
- 多職種連携への配慮:サブステージ(Ⅱ-1/Ⅱ-2、Ⅲ-1~Ⅲ-4など)は臨床運用上の便宜であり、原法の公式区分ではない点を患者・多職種に明示します。
よくある質問(Q&A)
Q. ブルンストロームは“筋力テスト”ですか?
A. ちがいます。共同運動の影響下での随意性・分離性の段階評価です。筋力そのものを表す指標ではありません。
Q. 痙縮が強いとStageは必ず低いですか?
A. 相関はありますが必ずしも一致しません。Stage IIIでも共同運動内での随意性は高まり得ます。
Q. サブステージ(Ⅳ-1/Ⅴ-2等)は必須ですか?
A. 任意の運用基準です。経時的変化を細かく追う目的で有用ですが、原法はI~VIの6段階です。
Q. 代償で“到達”した場合はどうなりますか?
A. 「不可」扱いにします。体幹代償・肩甲帯代償は分離性の判定を歪めるためです。
Q. 訓練はStageに合わせてどう進めますか?
A. Brunnstromのアプローチでは、運動感覚を常に重視しながら治療を行います 。
- I–II(弛緩・痙縮発現期):随意運動に乏しい時期には、反対側(非麻痺側)の反射的現象(連合反応など)を利用して、まずは共同運動の完成を目指します。
- III(共同運動期):共同運動内で反復を行い、随意性を高めます。
- IV–V(分離運動期):共同運動が強い時期にはそれを抑制し、共同運動から離脱した分離運動を促進して、随意的な運動(課題指向型)を確立させていきます。
- VI(協調性期):協調・速度・二重課題へと移行します。
最終更新:2026-07-13









