ギラン・バレー症候群のリハビリ治療

ギラン・バレー症候群のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

Guillain-Barre症候群の概要

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre-Syndrome:GBS)は、消化器や呼吸器の細菌・ウイルス感染に続発して発生する自己免疫性の脱髄疾患です。

感染症に続発するため、原因は細菌やウイルスにあると考えられていますが、まだ原因は完全には解明されていません。

神経の髄鞘(ミエリン鞘)が障害を受けるため、運動神経及び感覚神経に伝導障害が発生します。稀な疾患であり、年間の発病率は10万人当たり1,2人程度と報告されています。

経過

ギラン・バレー症候群の約70%に症状発生の1-2週間前に感染による上気道炎や急性腸炎などによる感冒症状や消化器症状を示します。

神経症状は1-3週間で急速に進行し、4週間以内に最大まで悪化します。その後、穏やかに改善していき、症状は3ヶ月以内に回復を示し、約80%の症例は4-6ヶ月でほぼ回復します。

しかし、軸索変性を伴う重症例では、1-4年程度の経過で徐々に回復するか、または障害が残存します。約30%が呼吸不全を呈し、それが契機となって2-18%の患者が死亡します。

脱髄障害の解説

再発率について

約10%に不完全回復後の再燃がみられ、2-3%に回復後の再発が起こります。

一般的に予後は良好とされていますが、軸索障害型では予後が不良となりますので、再発を念頭に置きながら治療を進めていくことが大切です。

欧米では軸索型は全体の10%であると報告されているのに対し、日本では38%、中国では65%と報告されています。

このことから、日本においては予後良好とは言えず、特定疾患に認定された指定難病に属します。

Guillain-Barre症候群の症状

弛緩性麻痺

  • 麻痺は下肢遠位部から上行して中枢側や上肢に拡大する
  • 深部腱反射の低下または消失がみられる

呼吸機能障害

  • 体幹の呼吸筋麻痺による発生する
  • GBSの最大の死因は気道感染である

感覚障害

  • 筋力低下より先に出現する場合が多い
  • 四肢末梢に手袋及び靴下型の感覚障害や痺れが生じる
  • 大腿部や臀部、腰背部に痛みを訴える

脳神経麻痺

  • 約50%に顔面神経麻痺(片側又は両側)、約30%に球麻痺、約10%に外眼筋麻痺が出現する
  • 正中固視、瞳孔散大、眼球運動障害、嚥下障害、構音障害などがみられる

自律神経障害

  • 約50%に自律神経障害が出現する
  • 起立性低血圧、一過性高血圧、徐脈又は頻脈、局所性無汗、浮腫、膀胱直腸障害などがみられる

ギラン・バレー症候群の診断基準(NINCDS)

Ⅰ.診断に必要な所見
A 1肢以上の進行性の運動麻痺:軽度の失調はあってもなくてもよいが、運動麻痺の程度は、下肢のごく軽度の筋力低下から、四肢筋の完全麻痺、体幹、球、および顔面麻痺、さらには外眼筋麻痺に及ぶ
B 深部腱反射消失:通常は全般的に消失するが、遠位部で消失していれば上腕二頭筋や膝では低下していてもよい
Ⅱ.診断を強く支持する所見
A 臨床所見(重要な順番に呈示)
1 進行性:運動麻痺は急速に進行し、4週間以内に止まる
2 比較的対称性
3 軽度の知覚障害
4 脳神経障害:顔面神経麻痺は約50%に生じ、しばしば両側性である
5 回復:進行が止まってから2-4週間で回復し始める
6 自律神経障害:頻脈や他の不整脈、起立性低血圧、高血圧など、変動するかもしれない
7 神経症状発生時には発熱がない
(非定型的例)
1 発症時の発熱
2 痛みを伴う強い知覚障害
3 4週以上に及ぶ進行
4 括約筋障害
5 中枢神経障害:強い小脳性失調、構音障害、バビンスキー反射、境界不明瞭な知覚障害
B 髄液所見
1 髄液蛋白:発症1週間以降に蛋白が増加
2 髄液細胞:単核球が10/μL以下
(非定型的例)
1 発症後1-10週間でも蛋白が増加しない(稀)
2 細胞数が単核球で11-50/μL
C 電気診断学的所見
1 症例の約80%に、経過中のある時期に神経伝導遅延やブロックがある。伝導速度は普通、正常の60%以下であるが、その過程はまちまちであり、すべての神経が障害されるわけではない。遠位潜時は正常の3倍まで延長することがある。F波はしばしば神経幹の近位部や神経根での遅延がみられる。約20%の症状では正常の伝導所見を示す。伝導検査は発症後数週間にわたり以上をきたさないこともある。
Ⅲ.診断に疑問を投げかける所見
A 1 著明かつ持続的な非対称的筋力低下
2 持続的な膀胱直腸障害
3 発症か存在する膀胱直腸障害
4 髄液単核白血球の50/μL以上の増加
5 髄液中の多形核白血球の存在
6 明確な境界をもつ知覚障害レベル
Ⅳ.診断を否定する所見
A 1 最近のヘキサカーボン乱用の既往歴
2 急性間欠性ポルフィリン症
3 最近のジフテリア感染の既往あるいは所見
4 鉛ニューロパチー
5 純粋な感覚障害
6 しばしばGuillain-Barre症候群と間違われるポリオ、ボツリヌス中毒、ニトロフライトインや有機リン中毒による中毒性ニューロパチーなど

治療方法

一般的に免疫グロブリン大量静注療法、単純血漿療法が効果的とされています。

これらの有効性はほぼ同じですが、治療法が簡単ということで前者が臨床では選択される場合が多いです。

治療による症状改善後に再燃した場合は、初回治療にかかわらず同様の治療を実施することで再度改善を図ります。

発症早期から二次的障害の予防を図るため、廃用予防や呼吸リハビリテーションを実施していきます。

GBSの機能的重症度分類

Grade 状態
0 健康
1 わずかの徴候および症状
2 歩行器などの介助なしに5m歩行可能
3 歩行器などの介助で5m歩行可能
4 臥床あるいは車椅子(歩行器などの介助でも5m歩行不可能)
5 補助換気を必要とする(少なくとも1日の一部)
6 死亡

予後予測

時期 状態 予後
発症初期 発病時年齢が30代以下で、極期に不全四肢麻痺 早期回復群となる可能性が高い
発病時年齢が40代以上で、極期に完全四肢麻痺 回復遅延群となる可能性が高い
発病後1ヶ月 起座・起立が自立し、かつ握力の回復あり 早期回復群となる
起座・起立が不能で、かつ握力の回復なし 回復遅延群となる可能性が高い
発症後2ヶ月 起座・起立が自立し、かつ握力の回復が著明 早期回復群となる
起座・起立が自立しているが、握力の回復なし 中間群となる
起立が不能で、かつ握力の回復なし 回復遅延群となる

※早期回復群は発病後6ヶ月以内にほぼ完全回復する症例、中間群は発病後1年でほぼ完全回復する症例、回復遅延群は発病後1年以上経過してもなお筋萎縮を伴う著明な筋力低下が残存した症例になります。

リハビリテーション

関節可動域運動

  • 1日2回各関節を可動全範囲に3-5回動かす
  • 末梢神経の再生を障害する場合もあるため過度な運動は伸展は禁忌

筋力強化

  • 軽症例では低負荷・高頻度の筋力強化を実施する
  • 症状進行が停止してから開始することが望ましい
  • 局所にとらわれず、全身運動にちかい形式で行う

呼吸管理

  • 呼吸不全による無気肺や肺炎の予防を図る
  • 体位変換による排痰や腹式呼吸の指導
  • 徒手による呼吸介助を加えた呼吸運動を実施する

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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