ギラン・バレー症候群のリハビリ治療

ギラン・バレー症候群の概要

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は、急性・進行性に上行性の運動麻痺を呈する末梢神経障害です 。多くの場合、先行感染(上気道炎や急性腸炎)から1〜2週後に自己免疫的な機序によって末梢神経が障害されます 。

  • 病態の分類: 主な病態は脱髄型(AIDP)ですが、日本を含む東アジアでは軸索障害型(AMAN/AMSAN)の比率が欧米より高い傾向にあります(日本約38%、中国約65%)。軸索障害型は回復が遅延し、重症化しやすい特徴があります。
  • 神経損傷の性質: 末梢神経の損傷は、Seddon分類において、神経の連続性が保たれる「一過性神経伝導障害(neurapraxia)」から、軸索が断裂する「軸索断裂(axonotmesis)」、あるいは神経全体が断たれる「神経断裂(neurotmesis)」の段階に分けられますが、GBSの重症例では軸索断裂の病態を呈し、回復には長期間を要します 。
  • 過用性弱化(Overwork Weakness)の概念: GBSのリハビリテーションにおいて最も留意すべきは、**過度の身体活動がさらなる筋力低下を招く「過用性筋力低下」**です 。これは、脱神経または再神経支配の過程にある筋線維や末梢神経終末が、過剰な負荷によって二次障害を起こすメカニズムと考えられています 。

脱髄障害の解説


臨床症状と評価のポイント

  • 運動機能: 遠位下肢から始まる対称性の弛緩性麻痺と深部腱反射の低下・消失が特徴です 。筋力低下の原因を評価する際、下位運動ニューロン障害による筋萎縮(筋原性とは異なる)を伴う場合があります 。
  • 感覚機能: 手袋・靴下型のしびれや痛覚異常がみられます。評価には、触覚、痛覚、温度覚、位置覚、振動覚(音叉を使用)などの神経学的診察が不可欠です 。
  • 電生理学的検査: 診断の確定には末梢神経伝導検査が重要です。脱髄型では「神経伝導速度の遅延」や「伝導ブロック」がみられ、軸索障害型では「複合筋活動電位(CMAP)の振幅低下」が顕著になります 。また、神経根などの近位部の障害を評価するためにF波の潜時を確認することが有用です 。
  • 髄液検査: 発症1週間以降に、細胞数が増加せず蛋白のみが増加する**「蛋白細胞解離」**を確認します 。

診断基準と重症度

診断にはNINCDS基準が世界的に用いられます。必須項目は「1肢以上の進行性運動麻痺」と「深部腱反射の消失・低下」です。重症度判定にはHughesのGBS Disability Scale(Grade 0〜6)を用い、歩行能力や呼吸器補助の必要性で段階付けます。


治療と急性期管理

  • 第一選択: 免疫グロブリン大量静注(IVIg)または血漿交換(PE)が標準治療であり、効果は同等です。
  • 合併症予防: 長期臥床に伴う**深部静脈血栓症(DVT)**の予防が不可欠です。弾性ストッキングの着用や間欠的空気圧迫法の使用 、さらに早期からの足関節底背屈運動(カフパンピング)による静脈還流の促進が推奨されます 。

理学療法戦略

原則として、症状の進行が停止したことを確認してから負荷を漸増させます 。

1)急性期(進行期〜極期)

  • 呼吸理学療法: 呼吸筋麻痺による無気肺や肺炎を防ぐため、体位ドレナージやスクイージング、ハフィング(強い呼気による排痰法)を実施します 。
  • ポジショニング: 褥瘡予防と関節保護のため、頻繁な体位変換と適切なクッションの配置を行います 。
  • 関節可動域(ROM)練習: 神経の牽引を避け、痛みを出さない範囲でゆっくりと全関節を動かします 。過度なストレッチは神経損傷を悪化させるリスクがあるため禁忌です。

2)回復初期〜後期

  • 筋力強化の進め方: 低負荷・高頻度の設定とし、**Borgスケール(RPE)で11〜13(楽である〜ややきつい)**程度を目安にします 。翌日に疲労や痛みが残る場合は負荷が過剰と判断し、強度を下げます。
  • 効率的な収縮: 筋出力を高めるために、筋を軽度伸張させた肢位(長さー張力曲線の理論)から収縮を開始させることが効果的です 。
  • バランス・歩行練習: 自立度の評価には、Berg Balance Scale(BBS) やTimed Up and Go test(TUG) を用い、動的バランスを確認しながら装具や歩行補助具を選定します 。

最終更新:2026-05-22