概要(まず押さえる3点)
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特発性側弯症(AIS):原因がはっきりしないタイプが全体の約8割。診断はCobb角≥10°(X線)で行います。
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進行しやすい時期:学童後期〜思春期の成長スパート期。とくに早期に見つかったカーブは、二次性徴以降に進みやすい。
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保存療法の位置づけ:**装具療法(ブレース)**は成長期の進行抑制に有効な科学的根拠があり、運動療法(PSSE:シュロス法など)は補完的に用いられます(矯正=“元どおり”ではなく進行抑制と機能改善が主目標)。
進行のからくり(なぜ呼吸がカギになるの?)
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側弯は側屈+回旋の3D変形。脊柱が傾き下側に剪断力がかかり続け、肋骨も回旋します。
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その結果、胸郭の拡張が非対称になり、横隔膜ドームや肋間筋の動きも左右差が固定化。
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「呼吸そのものが変形を進める」と断言はできませんが、“いつも同じ側だけ拡がる呼吸”は不利。
→ だから呼吸パターンを“矯正方向”に再教育するのがシュロス法の中核です。
シュロス法(Schroth法)のエッセンス
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3Dセットアップ:体位・骨盤・肩帯を用いてカーブを事前に整える(凸側を減じ、凹側を開く向きへ)。
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回旋角呼吸(RAB):凹側の胸郭に吸気を“入れる”意識で前上外方/後上外方へふくらませ、凸側は長くゆっくり呼気。
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自動化トレーニング:その形のまま、日常動作でも無意識に維持できるよう反復。
※カーブの**型(例:右胸・左腰型など)で“入れる方向”が変わります。**以下は一例です。個別評価が前提。
例:右胸椎カーブが主のケース(一般例)
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右胸郭:前上方+外上方へ吸気を誘導(凸の“後方”に偏らないよう前寄りに広げる)。肩甲帯を水平牽引して胸郭前面を開きやすく。
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左胸郭:後上方+外上方へ吸気を誘導(左の凹みを背側に“膨らます”意識)。
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呼気:凸側(右背側)は長く吐いて沈静化、腹部は軽いドローインで胸郭を“戻す”。
自宅でできる安全な呼吸ドリル(汎用版)
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準備:鏡の前、壁に背を預け骨盤を軽く後方へ引く(体幹が前に逃げない)。
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セット:凹側肋骨の**前側 or 後側の“へこみ”**に手を当て、その手を押し返すように吸う。
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吸気4秒:当てた手の方向へ胸郭を立体的にふくらませる(肩はすくめない)。
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呼気6–8秒:凸側は丁寧に長く吐く。肋骨が内下方へ戻るのを感じる。
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10呼吸×2–3セット、1日2回目安。痛みやめまいがあれば中止。
呼吸は**“へこんでいる側へ入れる”が合言葉。フォームに迷ったら専門家の評価**を。
全体治療のロードマップ(成長期を意識)
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観察:Cobb 10–20°、骨成熟が進んでいる→経過観察+運動。
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装具:Cobb **25–40°**かつ成長余地あり→装具療法+PSSE。
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手術相談:45–50°以上や急速進行、機能障害が強い場合。
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運動の役割:姿勢-呼吸パターン再教育、体幹・股帯の対称性、胸郭・胸椎の可動性確保。
よくある質問(Q&A)
Q1. 呼吸だけでカーブは“元に戻せますか”?
A. 戻す(矯正)というより“進行抑制と機能改善”が現実的目標。呼吸再教育は姿勢の自己コントロール力を高めます。
Q2. 装具と運動、どちらが大事?
A. 成長期で進行リスクが高いなら装具が第一選択。そこにシュロス系運動を足して相乗効果を狙います。
Q3. どのくらいの頻度でやればいい?
A. 毎日数分×複数回が理想。短時間でも正しいフォームを反復するほうが効果的。
Q4. 呼吸で左右差を強めてしまう心配は?
A. **“凹側に入れて、凸側は静める”**原則を守ればOK。痛み・息苦しさが出たら中止し、専門家に確認を。
最終更新:2025-09-20

