上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のリハビリ治療

上腕骨外側上顆炎の概要

上腕骨外側上顆炎について

上腕骨外側上顆炎は、一般に「テニス肘」として知られる肘関節外側の疼痛疾患です。30~50歳代に好発し、有病率は人口の1~3.8%程度と報告されています。名称に「炎」とつきますが、病態の本態は炎症よりも、**短橈側手根伸筋(ECRB)の腱付着部症(腱変性や微小断裂)**であるという見解が一般的です。

テニスが直接の原因となる例は全体の10%強と少なく、多くは重量物の運搬や手作業を伴う職業、家事、コンピュータの多用などが原因となります。類似疾患の「ゴルフ肘」は上腕骨内側上顆炎を指しますが、テニスのフォアハンドでも内側を傷めることがあり、これらを使い分けて呼称する場合もあります。

テニス肘とゴルフ肘の違い

上腕骨外側上顆へのストレス

外側上顆には前腕伸筋群の起始部が集中しており、牽引ストレスが集中しやすい構造をしています 。ストレスの要因は主に2つの軸から整理されます。

  1. 上腕(近位)からの影響 肘関節屈曲筋(上腕筋、腕橈骨筋など)の過使用により、これらが付着する外側筋間中隔を介して外側上顆へ強い牽引が伝わります 。
  2. 前腕(遠位)からの影響 手関節背屈筋の過使用(バックハンドストローク、キーボード入力、重い物の持ち上げなど)により、起始部へ負荷が増大します 。

影響しやすい筋肉(1)

  • 上腕側:上腕筋(brachialis)と腕橈骨筋(brachioradialis)

これらは上腕外側の厚い筋膜隔壁である外側筋間中隔に起始・付着を持ちます。特に上腕筋は、肘関節屈曲時に大きな力を発揮するだけでなく、深頭が関節包を牽引する役割も担っており、滑走不全は肘前面のつまり感や疼痛に波及します。

上腕中央断面では、外側筋間中隔は上腕筋と上腕三頭筋外側頭の間に位置。

影響しやすい筋肉(2)前腕型

  • 前腕側:短橈側手根伸筋(ECRB)

外側上顆起始部における変性の主座です。ECRBは他の伸筋と比較して生理的断面積が大きく筋線維長が短いため、手関節伸展時に大きな力を発生させやすく、その分、付着部へのストレスも高まります。

肩から肘に痛みが拡がるメカニズム

肘の機能障害は、しばしば近位の肩関節機能不全と関連しています。

例えば、肩関節周囲炎などにより肩の可動域が制限されると、前腕の過回内などで動作を代償することになり、結果として伸筋群の過緊張と外側上顆へのストレスを招きます。

また、三角筋が過緊張すると、その停止部から外側筋間中隔へ牽引が伝わり、肘外側の痛みを助長することがあります。したがって、肩甲骨周囲筋や回旋筋腱板を含めた肩〜肘の一連の評価が不可欠です。

画像診断と所見の活かし方

  • MRI・超音波検査: MRIは除外診断や変性の程度を確認するために有用です 。超音波検査では、ECRB腱の起始部からの剥離、低エコー像、石灰化などが観察されます 。

  • 病期評価: 炎症が強い時期は安静と負荷管理を優先します。変性が主体の慢性期では、組織への適切な機械的刺激(手技や運動)が回復を促します。

リハビリテーション戦略

  1. 患者教育と生活指導
    • 疼痛を誘発する反復作業(重い道具の操作や繰り返しの動き)を一時的に調整します 。
    • 物を持ち上げる際は、**「手のひらを上に向ける(前腕回外位)」**ことで、伸筋群の負担を減らすよう指導します 。
    • エルボーバンド(テニスバンド)は、起始部への張力を分散させる目的で検討されますが、効果は限定的であるため他療法と併用します 。
  2. 組織リリース(徒手療法)
    • 軟部組織モビライゼーション: 筋膜リリース、フリクションマッサージ、MulliganのMWM(Mobilization with Movements)などの手技が、短期的には疼痛緩和や握力改善に寄与します 。
    • ターゲット: 上腕筋、ECRB、伸筋支帯周囲に加え、運動連鎖上の円回内筋や旋後筋の硬結も評価・介入の対象となります 。
  3. エクササイズ
    • ストレッチング: 肘伸展・前腕回内・手関節掌屈の肢位で20〜30秒保持します 。
    • 段階的強化: 疼痛耐容内での等尺性収縮から開始し、慢性期には遠心性(エキセントリック)収縮トレーニングを取り入れることが、求心性運動よりも疼痛軽減や機能向上に効果的とされています 。
  4. 医療介入(難治例)
    • ステロイド注射: 短期的な除痛効果は高いものの、長期的な再発率上昇や腱の脆弱化のリスクがあるため慎重に検討されます 。
    • 体外衝撃波療法(ESWT): 6ヶ月以上の保存療法に抵抗する難治例において、除痛と組織修復を目的として検討されます 。

よくある質問(FAQ)

Q. 自分でできるケアは?
A. 伸筋群のストレッチ、手掌を上にして物を持つ習慣、痛みのない範囲での段階的な筋力トレーニングが基本です 。

Q. どのくらいで良くなりますか?
A. 治療内容に関わらず、6ヶ月以内に90〜95%で改善が得られるとされていますが、重症例では数年以上続くこともあります 。

Q. 完全に休むべき?
A. 強い炎症期を除き、完全休止よりも「悪化させる動作を回避」する相対安静が推奨されます 。許容範囲内での適切な運動負荷が組織の回復を助けます 。


最終更新:2026-05-02