バランスを実現する3つの感覚とアプローチ

バランス能力は

  1. 前庭感覚(耳の奥=前庭器官)

  2. 体性感覚(関節位置覚・足底感覚・筋紡錘など)

  3. 視覚
    の3系統に加え、筋力・関節可動域・認知(注意・判断)が総合して成り立ちます。
    いずれか1つでも機能低下があれば、全体としてバランス低下
    が起こります。


改善の基本戦略はこの3つ

  1. 機能低下そのものの改善(原因へ直接アプローチ)

  2. 他システムで代償(不足分を別の感覚で補う)

  3. 新しい状態への適応(慣れ)(曝露で脳が再学習)


前庭感覚の障害

1) 機能改善

  • VORトレーニング:頭を左右/上下に小刻みに振りながら、壁の文字や●印をピントがぶれない範囲で読み続ける。
    目安:1セット30–60秒、1日2–3回。軽いめまいは許容、強い悪心・回転感は中止

  • 頭位変換練習:安全環境下で、座位→立位、頭部前屈/後屈/回旋などを段階的に。

2) 代償を高める

  • 足底入力の強化:裸足での重心移動、足趾把持、薄底シューズでの立位課題。

  • 視覚の活用:注視目標を固定し、目線先行で体を動かす

3) 適応(慣れ)の促進

  • 動かさないと慣れない」ことを説明。症状許容範囲で少し不快→回復の繰り返しが改善を生む。

  • 安全第一:転倒リスクがあれば壁際・手すり・同伴者。


体性感覚の障害

1) 機能改善

  • 固有感覚ドリル:片脚立位→不安定面(クッション)→ミニスクワット。

  • 足底感覚の再学習:足裏3点荷重(母趾球・小趾球・踵)を自覚し、重心を前後左右へ小さく移動。

  • 妨げ要因の除去:疼痛・過緊張・浮腫・過度の交感緊張を温熱・マッサージ・呼吸法で低減。

2) 代償

  • 感覚低下側の下肢を**杖(健側手)**で補助し、上肢からの入力を増やす。

  • 視覚フィードバック:鏡前でアライメント確認、床マークで足位置を明確化。

3) 適応

  • 現在の感覚低下を脳に学習させるため、日常の反復課題(立ち上がり・段差昇降)を安全条件付きで継続。


視覚の障害

1) 機能改善

  • まず矯正:眼科での視力矯正・白内障/緑内障の評価を最優先。暗所・眩光環境の是正も。

2) 代償

  • 閉眼課題で前庭・体性感覚への依存を意図的に増やす(例:開眼片脚30秒→閉眼10秒)。

  • 触覚入力の追加:指1本で壁に触れるだけでも姿勢安定が向上。

3) 適応

  • 夜間は照度・コントラストを上げ、段差・敷居・絨毯端に視認性の高いマーキング


バランストレーニングの進め方(安全版)

  1. 安定面・両脚・開眼から開始

  2. 片脚 → 不安定面 → 目標追視 → 頭部回旋を加える

  3. デュアルタスク(数唱・物品キャッチ)で現実環境に近づける

  • 原則:ゆらぐが転ばない難易度、1課題30–60秒×3、週3–5回

  • 中止基準:回転性めまい・悪心・視界の揺れが強い、歩行不安


よくある質問(Q&A)

Q1. めまいが出るので頭を動かしたくありません。
A. 完全回避は回復を遅らせます。許容範囲の軽い症状を引き起こす負荷で短時間反復が最も効果的です。安全確保のうえ段階的に。

Q2. 片脚立ちが全然できません。何から?
A. 両脚で重心移動→前後ランジの小可動→片脚で“指1本支え”→片脚の順。足裏3点荷重を常に意識。

Q3. 開眼だとできるのに閉眼で崩れます。
A. 視覚依存が高いサイン。閉眼課題を短時間から入れ、並行して足底・股関節の固有感覚を強化しましょう。

Q4. 高齢で視力が落ちています。運動より先に何を?
A. まず眼科受診と矯正、屋内の照明・コントラスト最適化、転倒ハザード除去(段差・滑りやすいマット)。

Q5. どのくらいで効果が出ますか?
A. 個人差はありますが、2–4週の継続で多くの方が静的課題の向上を自覚します。週3–5回の反復が鍵です。


最終更新:2025-10-08