リハビリで実施するバランストレーニングについて再考していきます。
この記事の目次はコチラ
バランスを実現する三つの因子
平衡バランス(平衡感覚)を実現するためには、①前庭感覚、②体性感覚、③視覚の三つが満たされている必要があります。
これらのひとつにでも障害が起きると、いわゆる「バランス能力が低下した状態」と評価することができます。
実際には、筋力や関節の状態なども関連していますが、ここでは平衡感覚を中心に考えていくことにします。
平衡感覚を向上する方法
平衡バランスを改善する方法は、①機能低下の改善、②他部位での代償、③新しい感覚への適応(慣れ)の三つがあります。
前庭感覚の障害
前庭感覚が障害された場合、まずは前庭感覚そのものを改善するトレーニングを実施していきます。
具体的には、頭部を前後左右に動かしながら、紙に書いてある文字を読み続けるといった練習などがあります。
前庭障害では頭部の偏移でめまいが出現しますので、体性感覚を向上してフラつきを改善したり、視覚を高めて目で対象物を追うようにします。
そうした他部位の代償によって前庭感覚の機能低下を補うことができます。
前庭感覚の障害によるめまいは、慣れによって軽減することがわかっており、めまいが起きるからといって頭部を動かすことを避けていたら慣れることはありません。
慣れるまではつらいとは思いますが、慣れることでめまいが減少することをしっかりと説明し、積極的に動くようにしていただくことも大切です。
![]() |
体性感覚の障害
体性感覚は、末梢の固有感覚から中枢の大脳(感覚野)までで構成されており、その伝導路上に問題が起きることで障害を受けます。
また、体性感覚は加齢、過緊張、疼痛、交感神経の過活動、筋委縮などで低下することが報告されています。
体性感覚の低下は二次的な要因が大きいので、疼痛や過緊張の緩和、筋力の強化や発火速度の改善を主に実施していきます。
他部位での代償では、例えば、片麻痺で右下肢の感覚が低下している場合、左手で杖をつくことで、左手からの感覚入力にて補うことができます。
新しい感覚への適応では、徐々に脳が現在の状態を把握することにより、フィードフォワード機構が働いていきます。
そうすることで、危険な動作などは事前に避けることができるようになり、結果的に転倒が予防されます。
視覚の障害
高齢者では視力低下がバランス障害に直結しているケースも多いため、まずは眼鏡などで矯正ができないかを検討するべきです。
もう老人だから仕方がないとひとりで解決している場合もあるので、かならず専門医と一度は相談していただいたほうがいいでしょう。
他部位での代償として、ヒトはひとつの部位が損傷を受けると、別の部位で代償しようとする働きがあります。
先天的に視覚障害を持つ人がその他の五感が鋭くなるように、他部位への依存は大きくなることを理解しておくことが大切です。
そのため、視覚に障害がある人はより体性感覚や前庭感覚が低下しないように努める必要があり、できる限りに強化しておくことが求められるといえます。
バランストレーニングの効果
臨床でもよく実施されているバランストレーニングをもとに考察していきます。
目隠しの効果
バランス練習の代表である片脚立位を実施する際に、開眼と閉眼で実施する場合がありますが、これらの違いはどこにあるのか。
それは視覚によるバランス機構を排除するかどうかの違いといえます。
閉眼で実施するということは視覚によるフィードバックがありませんので、その分だけ前庭感覚や体性感覚が重要となります。
言い換えたら、視覚を排除することで、より前庭感覚や体性感覚を集中的に鍛えることが可能というわけです。
このような視点を持っているかどうかで効果も大きく変わってきますので、是非とも頭に入れておきたい部分です。
スイスボールを使用した効果
不安定性を作り出すバランスボールやバランスディスクなどは、効率的に前後左右への傾きを作り出すことができます。
そのため、姿勢反射をより多く引き出すことができ、効果的に前庭感覚を強化することが可能と考えられます。
体性感覚では、とくに筋紡錘からの入力が大切ですが、その中でも姿勢保持に重要なインナーマッスルの感受性を高められます。
![]() |
筋力トレーニングの効果
体性感覚は筋紡錘からの入力が大切であるのと同時に、筋力低下そのものがバランス能力の低下に関与している場合もあります。
筋委縮は体性感覚を低下させる要因にもなりますので、通常の筋力トレーニングを実施することでバランス能力を改善することも可能となります。
こちらはとくにアウターマッスルへのアプローチが中心になります。