概要
上腕三頭筋は長頭・外側頭・内側頭の3頭からなり、肘伸展の主働筋。長頭は肩甲骨(関節下結節)に起始し、肩関節の安定化にも寄与します。
TPは少なくとも5か所で生じやすく、部位ごとに異なる関連痛パターンを示します。
症状と関連痛パターン(5タイプ)
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TP1(長頭・内縁寄り上部)
痛み:背中〜肩後面〜肘外側へ。悪化で僧帽筋上部や頚基部にも波及。

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TP2(肘近位・外側頭遠位の薄い部)
痛み:肘外側が主。ときに前腕後面へ拡がる。上腕外側・肘周囲の“テニス肘様”痛の鑑別に。

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TP3(上腕後面中央の隆起部)
痛み:上腕後面の局所痛。硬結が橈骨神経を圧し、母指側までの放散・しびれ様の訴えを伴うことあり。

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TP4(肘頭直上/内側頭遠位)
痛み:肘の過敏化。肘置き・デスクエッジがつらい。

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TP5(長頭内側〜内側頭近位)
痛み:肘内側〜上腕内側へ。時に**“ゴルフ肘”様**に誤認される。

共通所見:上腕後面の強い圧痛、肘伸展・屈曲の力低下、薬指〜小指側への放散を訴えることがある。
典型的な誘因
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反復・高負荷の伸展動作:ディップス、プッシュアップ、投球、打撃、押し動作の反復
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等尺性保持・ぶら下げ:荷物を長時間手提げで保持
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ワークタスク:高い位置への荷役、押し込み・突き出し動作の繰り返し
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サテライトTP:広背筋・上後鋸筋・棘下筋など他筋由来痛に続発することも
自分でできる評価・触診
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ランドマーク:上腕後面を縦走する筋腹を指腹でスキャン。
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収縮確認:肘を伸ばす方向へ軽い抵抗を加えると三頭筋が張る。
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TP探索のコツ
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TP1:上腕内側寄り・長頭上部の索状硬結を縦ならい。
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TP2/4:肘近位外側・肘頭近くの薄い層を丁寧に。
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TP3:上腕中央の硬い隆起(神経圧に注意)。
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TP5:上腕内側溝~肘内側へ沿って点状圧痛を探る。
※橈骨神経・尺骨神経に配慮し、しびれ・電撃痛が出たら中止。
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セルフケア(痛み0–3/10の範囲で)
1) 生活・フォーム調整
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荷物は前腕を体側に寄せて保持、長時間のぶら下げを回避。
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押し/突き出し動作は肩・体幹と分担(肘だけで頑張らない)。
2) リリース(1セット1–2分・1日2–3回)
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テニス/ラクロスボールを壁と上腕の間に挟み、
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TP1/3:上腕後面中央〜内縁を縦方向スローに。
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TP2/4:肘近位の薄い層は軽圧で小さく往復。
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TP5:内側は強圧NG。点押し→離すを繰り返す。
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指関節(ナックル)での短いストローク摩擦も有効(皮膚刺激に注意)。
3) ストレッチ(20–30秒×2–3回)
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オーバーヘッド三頭筋ストレッチ:片腕を頭上で肘屈曲、反対手で肘を頭側へ軽く誘導。
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肩甲骨は下制+軽い後退で首すくみを防止。肘関節前面や神経症状が出たら中止。
4) 低負荷エクササイズ(痛みゼロ基準)
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等尺伸展:肘90°で手のひらを壁に押し5–8秒×5回。
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ケーブルトライセプス・プレスダウン/軽負荷キックバック:反動なしでゆっくり、特にエキセンリック(戻し)3–4秒。
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可動増やすときは肩→肘の順に整える(肩前方化・腰反り代償を抑制)。
鑑別のヒント
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テニス肘(外側上顆炎):握力・手関節背屈で外側上顆に局在痛。三頭筋TP2は肘近位外側の筋腹に圧痛。
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ゴルフ肘(内側上顆炎):掌屈・回外で内側上顆に痛み。三頭筋TP5は内側上腕〜肘内側の筋腹に圧痛。
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頸椎・末梢神経:しびれ優位、スパーリングやTinel陽性などは神経評価を。
受診の目安(レッドフラッグ)
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安静時・夜間の強い痛みが持続、腫脹・発熱を伴う
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力が急に入らない、肘の可動が著しく低下
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しびれ・筋力低下が進行、ボール圧で電撃痛が走る
よくある質問(Q&A)
Q1. 三頭筋の痛みが肘外側に出ます。テニス肘ですか?
A. 可能性はありますが、TP2でも肘外側痛を生じます。握力/手関節背屈での局在痛と、三頭筋筋腹の圧痛を両方みて判別を。
Q2. ほぐすとすぐ戻ります。コツは?
A. 生活誘因の遮断(荷物保持・押し動作の見直し)+等尺→低負荷エキセンリックの順で“再学習”。1–2週間は頻度重視で。
Q3. どのくらいの圧でリリースすべき?
A. 目安は痛み3/10以下。痺れ感・鋭痛が出る圧は過剰。肘近位の薄い層(TP2/4)は微圧で十分です。
Q4. 長頭由来か見分けられますか?
A. 肩伸展やオーバーヘッド後の痛み増悪、上腕内縁上部の索状硬結がヒント。肩甲骨・胸郭運動の再学習も併用を。
まとめ
上腕三頭筋のTPは部位別に5つの痛みパターンを示し、肘痛の鑑別で頻出。
原因動作の修正→やさしいリリース→等尺→エキセンリック強化の順で整えると、再発を抑えつつ機能回復が見込めます。
神経症状や夜間痛が強い場合は早めの医療評価を。