上腕二頭筋のトリガーポイント(TP)

概要

上腕二頭筋は短頭(烏口突起起始)と長頭(肩甲骨関節上結節起始)の2つの腱頭からなり、前腕の肘屈曲前腕回外を助け、肩では挙上の補助上腕骨頭の安定化に関与します。
トリガーポイント(TP)は主に筋腹中央部(短頭・長頭いずれにも)に形成され、肩前面や肘外側の痛み・だるさの原因になります。


症状(関連痛パターン)

  • 痛みの主座:肩前面/肘外側(橈側)に深い鈍痛~ズキズキ。筋腹自体が痛むことも。

  • 放散:肩後方(棘上筋部)に曖昧な痛みを感じることがある。

  • 機能低下:肘を伸ばして前腕回内のまま物を保持・押す動作がつらい/肘屈曲・回外の持久力低下

  • 誤診されやすい腱炎・滑液包炎などの炎症疾患と混同されやすい。


よくある誘因

  • 過負荷・反復:チンニング/カール類/懸垂、手のひら上向きでの重量物の挙上

  • スポーツ・演奏:投球、テニス、バイオリン(左は指板保持で短縮持続、右は弓操作で反復)。

  • 姿勢・緊張:職場での持続的緊張、肘屈曲位での作業長時間。

  • サテライト棘下筋・鎖骨下筋のTPから二次的に活性化することがある。


触診のコツ

  1. 肘を軽く曲げ、前腕を回外。上腕前面の筋腹中央を母指+補助指でつまみ上げて探索。

  2. **等尺肘屈曲(5秒)**で下にある索状硬結が浮き立つ。そこに圧痛+関連痛が走ればTP陽性の目安。

  3. 注意:肩前面痛=すぐ二頭筋を強圧はNG。**長頭腱溝(結節間溝)**直上の過圧は炎症悪化リスク。


自分でできる対処(痛み0–3/10の範囲)

1) 生活・フォーム調整

  • 重量物は前腕回内でのロングリーチを避け、体幹に近づけて保持。

  • プル/カールは反動禁止・ROM控えめ、頻度を下げて様子見。

2) やさしいリリース

  • 筋腹中央の軽圧持続:2–3/10圧で15–30秒→離す×3–5回。

  • クロスファイバー摩擦:筋線維に対し直角にやさしく10–15回。
    ※しびれ・鋭痛が出る、肩前面が強く悪化するなら中止。

3) ストレッチ

  • 立位で壁に手掌を当て、肘を伸ばし肩を軽く後方へ。前腕を回内して二頭筋を穏やかに伸張。

  • 20–30秒×2–3回/日。鋭痛は中止

4) 低負荷エクササイズ(再発予防)

  • 等尺回外:肘90°・体側で前腕を外へ回そうとし、反対手で止める(5秒×8–10回)。

  • テンポカール(軽負荷):3秒上げ/3秒下ろし、痛みゼロ基準で8–12回×2–3セット。


セラピスト向け要点(簡潔)

  • 先に棘下筋・鎖骨下筋の評価と処置(サテライト対策)。

  • 二頭筋長頭腱溝周囲は炎症の有無を判定し、炎症期は摩擦系回避+疼痛管理を優先。

  • 肩甲帯の後傾・下制をつくり、肩前方の圧縮を減らしてから肘屈曲系の再学習へ。


鑑別のヒント

  • 上腕二頭筋長頭腱炎:溝部の限局圧痛、挙上時の前肩痛。

  • 肩インピンジメント:ペインフルアーク、Neer/Hawkins陽性。

  • 頸椎由来:頸部肢位で症状変動、神経学的サイン。

  • **肘外側痛(上腕骨外側上顆炎)**との区別:手関節伸展抵抗での再現痛は伸筋群優位。


受診の目安(レッドフラッグ)

  • 夜間痛が強い・安静でも増悪、急な力が入らない、断裂音/急性腫脹・内出血、外傷直後の可動不能、発熱や広範腫脹が続く場合は整形外科へ。


よくある質問(Q&A)

Q1. 肩前が痛いので二頭筋を強く揉んでいい?
A. NG。長頭腱炎があると悪化します。軽圧短時間か、まず棘下筋・鎖骨下筋の評価を。

Q2. どれくらいで良くなる?
A. 使い方の修正と負荷調整がはまれば数週間で軽快する例が多い。炎症合併は医療的疼痛管理併用で短期改善も。

Q3. カールは中止すべき?
A. 痛み期は重量を半減し、テンポ重視・反動なし。痛みゼロで可動域を徐々に拡大。


まとめ

上腕二頭筋TPは肩前面・肘外側の鈍痛肘屈曲/回外の持久力低下が手掛かり。
サテライト源(棘下・鎖骨下)への配慮、長頭腱溝の炎症判定、軽圧・短時間の介入とフォーム修正で再発を抑えやすくなります。