概要

上腕二頭筋は短頭(烏口突起起始)と長頭(肩甲骨関節上結節起始)の2つの腱頭からなり、前腕の肘屈曲と前腕回外を助け、肩では挙上の補助と上腕骨頭の安定化に関与します。
トリガーポイント(TP)は主に筋腹中央部(短頭・長頭いずれにも)に形成され、肩前面や肘外側の痛み・だるさの原因になります。
症状(関連痛パターン)
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痛みの主座:肩前面/肘外側(橈側)に深い鈍痛~ズキズキ。筋腹自体が痛むことも。
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放散:肩後方(棘上筋部)に曖昧な痛みを感じることがある。
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機能低下:肘を伸ばして前腕回内のまま物を保持・押す動作がつらい/肘屈曲・回外の持久力低下。
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誤診されやすい:腱炎・滑液包炎などの炎症疾患と混同されやすい。
よくある誘因
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過負荷・反復:チンニング/カール類/懸垂、手のひら上向きでの重量物の挙上。
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スポーツ・演奏:投球、テニス、バイオリン(左は指板保持で短縮持続、右は弓操作で反復)。
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姿勢・緊張:職場での持続的緊張、肘屈曲位での作業長時間。
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サテライト:棘下筋・鎖骨下筋のTPから二次的に活性化することがある。
触診のコツ
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肘を軽く曲げ、前腕を回外。上腕前面の筋腹中央を母指+補助指でつまみ上げて探索。
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**等尺肘屈曲(5秒)**で下にある索状硬結が浮き立つ。そこに圧痛+関連痛が走ればTP陽性の目安。
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注意:肩前面痛=すぐ二頭筋を強圧はNG。**長頭腱溝(結節間溝)**直上の過圧は炎症悪化リスク。
自分でできる対処(痛み0–3/10の範囲)
1) 生活・フォーム調整
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重量物は前腕回内でのロングリーチを避け、体幹に近づけて保持。
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プル/カールは反動禁止・ROM控えめ、頻度を下げて様子見。
2) やさしいリリース
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筋腹中央の軽圧持続:2–3/10圧で15–30秒→離す×3–5回。
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クロスファイバー摩擦:筋線維に対し直角にやさしく10–15回。
※しびれ・鋭痛が出る、肩前面が強く悪化するなら中止。
3) ストレッチ
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立位で壁に手掌を当て、肘を伸ばし肩を軽く後方へ。前腕を回内して二頭筋を穏やかに伸張。
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20–30秒×2–3回/日。鋭痛は中止。
4) 低負荷エクササイズ(再発予防)
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等尺回外:肘90°・体側で前腕を外へ回そうとし、反対手で止める(5秒×8–10回)。
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テンポカール(軽負荷):3秒上げ/3秒下ろし、痛みゼロ基準で8–12回×2–3セット。
セラピスト向け要点(簡潔)
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先に棘下筋・鎖骨下筋の評価と処置(サテライト対策)。
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二頭筋長頭腱溝周囲は炎症の有無を判定し、炎症期は摩擦系回避+疼痛管理を優先。
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肩甲帯の後傾・下制をつくり、肩前方の圧縮を減らしてから肘屈曲系の再学習へ。
鑑別のヒント
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上腕二頭筋長頭腱炎:溝部の限局圧痛、挙上時の前肩痛。
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肩インピンジメント:ペインフルアーク、Neer/Hawkins陽性。
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頸椎由来:頸部肢位で症状変動、神経学的サイン。
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**肘外側痛(上腕骨外側上顆炎)**との区別:手関節伸展抵抗での再現痛は伸筋群優位。
受診の目安(レッドフラッグ)
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夜間痛が強い・安静でも増悪、急な力が入らない、断裂音/急性腫脹・内出血、外傷直後の可動不能、発熱や広範腫脹が続く場合は整形外科へ。
よくある質問(Q&A)
Q1. 肩前が痛いので二頭筋を強く揉んでいい?
A. NG。長頭腱炎があると悪化します。軽圧短時間か、まず棘下筋・鎖骨下筋の評価を。
Q2. どれくらいで良くなる?
A. 使い方の修正と負荷調整がはまれば数週間で軽快する例が多い。炎症合併は医療的疼痛管理併用で短期改善も。
Q3. カールは中止すべき?
A. 痛み期は重量を半減し、テンポ重視・反動なし。痛みゼロで可動域を徐々に拡大。
まとめ
上腕二頭筋TPは肩前面・肘外側の鈍痛と肘屈曲/回外の持久力低下が手掛かり。
サテライト源(棘下・鎖骨下)への配慮、長頭腱溝の炎症判定、軽圧・短時間の介入とフォーム修正で再発を抑えやすくなります。