人工肩関節置換術と人工骨頭置換術のリハビリ治療

この記事の要点

  • TSA(解剖学的人工肩関節置換術):関節リウマチや変形性肩関節症などの関節面破壊に対して行う、関節窩と上腕骨頭の全置換。
  • HA(人工骨頭置換術):高齢者の上腕骨近位端粉砕骨折などで骨頭のみ置換する術式。大結節・小結節の確実な整復固定が成否を左右する。
  • RSA(リバース型人工肩関節置換術):修復不能な腱板断裂や腱板断裂性肩関節症などに対して用いられる。関節窩と上腕骨頭の凹凸を反転させた設計で、三角筋主導で挙上を獲得する。
  • 術後リハの基本:TSAは肩甲下筋修復部の保護(外旋・伸展の制限)、HAは結節癒合が最優先される。一方、RSAは脱臼肢位(内転+内旋+伸展)の回避と、三角筋の機能獲得が鍵となる。

手術の概要と違い

1.解剖学的TSA(Total Shoulder Arthroplasty)

  • 適応:関節リウマチ、変形性肩関節症などの関節面破壊 。
  • 進入:三角筋‐大胸筋間(デルトペクトラルアプローチ)から展開 。
  • 手順:肩甲下筋を切離して関節内に進入し、上腕骨骨頭の切除・ステム設置と、関節窩へのポリエチレン臼の固定を行う 。最後に肩甲下筋を小結節へ厳重に再縫合する(これが術後の外旋・伸展制限の根拠となる) 。

変形性関節症に対する人工関肩節置換術

2.人工骨頭置換術(Hemiarthroplasty, HA)

骨折に対する人工骨頭置換術

  • 適応:高齢者の3–4 part骨折や脱臼骨折など、強固な内固定が困難な例 。
  • 要点:グレノイド(関節窩)は置換せず、人工骨頭のみを挿入する 。停止部である大結節・小結節を解剖学的に正常な位置へ強固に整復・固定することが、腱板の緊張を得るための鍵となる 。

3. リバース型人工肩関節置換術(Reverse Shoulder Arthroplasty, RSA)

  •  適応:従来の解剖学的TSAでは適応外だった、修復不能な腱板断裂や腱板機能不全を伴う関節症など 。
  • 要点:解剖学的な肩関節とは逆に、関節窩側が凸型、上腕骨側が凹型のコンポーネントを用いる 。腱板が機能していなくても、三角筋の力を効率よく利用して腕を挙上できる設計になっている。

術後リハの流れ(目安)

※医師の指示・術式の詳細が最優先されます。以下は一般的な目安です。

【解剖学的TSA / HAの場合】

  • 0–3週(保護・初期可動域期) 開始:振り子運動や自動介助運動を開始 。術後3日で他動屈曲90〜120°、他動外旋10〜15°を目標とする 。 禁止/注意:肩甲下筋を再縫合しているため、術後3週までは伸展および外旋運動を制限し、慎重に行う 。
  • 3–8週(可動域回復期〜移行期) 自動運動(伸展・外旋も含める)を徐々に開始し、可動域を拡大していく 。 HAでの注意:結節の骨癒合が最優先。強い抵抗運動は癒合が確認されるまで控える。
  • 8週以降(筋力期) セラバンドなどを用いて、腱板(内旋・外旋)、肩甲骨固定筋、三角筋の漸増抵抗運動を開始する 。 「肩すくめ」などの代償動作を防ぎ、肩甲帯の正しいアライメント(求心位)を獲得することが重要 。重作業は術後3ヶ月(12週)以降を目安とする 。

【RSA(リバース型)の場合】

  • 初期保護:腱板による支持が期待できないため、TSAとはプロトコルが全く異なる。特有の脱臼肢位である「内転+内旋+伸展」の組み合わせ(ズボンの後ろポケットに手を入れるような動作)は初期禁忌として厳重に避ける。
  • 筋力強化:挙上の主動作筋となる「三角筋(特に前部・中部)」の機能回復・強化を主体としたリハビリテーションを展開する。

具体的エクササイズ(代表)

  • 可動域・モビリティ(術後早期〜)
    • 振り子運動:痛みのない範囲で小さく円運動。
    • 自動介助運動:滑車や棒体操などを利用した前方挙上。
  • 腱板・肩甲骨周囲筋・三角筋(8週以降目安)
    • 外旋・内旋:下垂位でセラバンドを用いた低負荷(例:20回1セット×3セット)の抵抗運動。
    • 肩甲帯安定化:肩甲骨の正常な位置を学習させ、代償動作のない正しい運動方向を誘導する。

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合併症と注意

  • 肩甲下筋再断裂(TSA/HA):術後3週までの早期に、過度な外旋・伸展ストレスをかけることで発生リスクが高まる。
  • 結節不癒合/転位(HA):大・小結節の癒合が不十分な時期に外旋・外転の抵抗訓練を行うと転位を招く。
  • 脱臼(特にRSA):RSAは構造上、後方への脱臼リスクがあるため、着替えやトイレ動作などでの「内転+内旋+伸展」の合併位には十分に注意する。

よくある質問(Q&A)

Q. 振り子運動はいつから始めますか?
A. 術後早期(術後翌日〜3日以内)から開始することが一般的です 。痛みのない小振りが原則です。

Q. 外旋はどこまで回していいですか?
A. TSA/HAの場合、術後3日目の目標として他動外旋10〜15°程度が目安です 。肩甲下筋修復部の保護のため、術後3週間は外旋・伸展方向の運動は制限されます 。

Q. チューブトレーニング開始の目安は?
A. 目安は術後8週以降です 。ただしHA(人工骨頭)の場合は、結節の骨癒合が確認された後に開始します。

Q. RSAと言われた場合、TSAと同じリハビリでいいですか?
A. いいえ、異なります。RSAは解剖学的な関節構造を反転させており 、三角筋を主体として腕を挙上させます。また、脱臼しやすい危険な肢位(内転+内旋+伸展)がTSAとは異なるため、必ずRSA専用のプロトコルと禁忌事項に従ってください。


最終更新:2026-07-11