僧帽筋のトリガーポイント(TP)

概要

僧帽筋は後頭骨〜頸椎〜鎖骨〜肩甲骨に広く付着し、肩甲骨の位置制御と上肢機能の土台を担う大筋。過緊張やトリガーポイント(TP)ができると、緊張型頭痛や後頭部痛、側頸部・顎周囲の痛みなど多彩な関連痛を引き起こします。本稿は、僧帽筋に生じやすいTP1〜TP4の症状像・誘因・鑑別・ケア方法を、臨床とセルフケア双方の視点で整理します。


症状と関連痛パターン(要点)

TP1(上部線維・肩上部)

  • 見つけ方:首根元〜肩上部の表在線維をつまむと糸状・針状の硬結を触れることが多い。

  • 関連痛こめかみ痛が主。顎角部・耳後部・側頸部・眼窩深部まで広がることがある。

  • 備考:多くの人に一過性に出現。緊張型頭痛の一因になりやすい。

TP2(上部線維の深部、肩上で2–5cm離れた部位に1–2点)

  • 関連痛後頭骨底部痛(後頭部・頸部痛として感じる)

  • 衛星TP:背部・頸部にサテライトTPを誘発しやすい。

TP3(下部線維・肩甲骨内縁沿いに複数点)

  • 見落とし注意:頻出だが見逃されやすい。

  • 関連痛後頭骨底部痛、さらに僧帽筋上部への痛みを誘発→頭痛に波及。

  • 誘因例:長時間の前方リーチ作業(PC、楽器演奏、肘支持なしの姿勢)で中背部の圧迫感・痛み。

TP4(中部線維・肩甲骨内縁近くの広い帯状領域)

  • 関連痛:脊柱沿い〜その周辺への焼けるような痛み、上腕後側への放散、鳥肌感覚(皮膚科症状様の違和感)など。

誤診に注意:椎間板障害・脊髄狭窄・滑液包炎・神経痛、さらには片頭痛/群発/血管性/頸椎症性頭痛と混同されやすい。圧痛点と関連痛の再現が示唆所見。


よくある誘因・背景因子

  • 不良姿勢:前かがみ・うつむき姿勢の持続、猫背による胸筋短縮→肩前方牽引→僧帽筋過活動。

  • 支持の欠如肘かけ無し・腕を前方に伸ばし続ける作業(PC、調理、製造、演奏など)。

  • 精神的緊張:肩を挙上してしまう習癖。

  • 荷重因子:重いバッグ・片掛け、重いリュック、乳房重量(女性)による慢性負荷。

  • 反復動作・過用:肩甲骨挙上・上方回旋を繰り返す動作全般。


鑑別のポイント(簡易)

  • こめかみ・眼窩痛+肩上TPで再現 → TP1を疑う。

  • 後頭部痛が主/頸マッサージで一時軽減も再燃 → TP2・TP3を検索。

  • PC・前方リーチ後の中背部圧迫感 → TP3/TP4を重点評価。

  • 頸椎所見と痛みが一致しない、画像所見が説明しきれない→筋膜性疼痛を積極評価。


セルフケア/臨床介入(安全第一で段階的に)

1) 触診と圧迫(自己管理)

  • TP1:首根元〜肩上の表在線維をつまみ、母指〜中指で小さく転がす

    • 再現痛(こめかみ痛など)が誘発される圧で30–60秒、呼気で力を抜く。

  • 工具活用:ラクロス/テニスボール、壁との間に挟んで肩甲骨内縁(TP3/4)を縦or横方向へロール。

    • 過敏なら柔らかめのボール→順応したら硬めへ。

  • フック系ツール(セラケイン等):対側手で湾曲部を保持し、押圧量を微調整。肌は布越しが無難。

2) 伸張・モビライゼーション

  • 僧帽筋上部の穏やかな伸張胸筋・鎖骨下筋のリリースで肩前方牽引を軽減。

  • 肩甲骨の下制・内転の誘導で、上部線維の過緊張を相対的に抑制。

3) 姿勢・環境設定

  • 肘支持を確保(肘かけ椅子/机面支持)。

  • 画面は目線やや下、キーボードは肘90°前後、肩をすくめない配置へ。

  • 荷重要因を低減:バッグは左右交互、重量分散、ストラップ幅広推奨。

4) 運動療法(再発予防)

  • 肩甲帯の協調:下部僧帽筋・前鋸筋の活性化(壁スライド、Y/T/Wドリル)。

  • 頸部の等尺性安定化:深頸屈筋の軽負荷トレ、長時間作業前のマイクロブレイク(30–60分に1回)

  • 呼吸再学習:胸郭挙上(肩すくめ)優位を避け、腹側・側胸部の拡張を意識。

注意:強い圧痛でしびれ・脱力・吐き気などが出る場合や、夜間増悪・発熱・外傷歴がある場合は医療機関へ。


使い分けのコツ(現場メモ)

  • 頭痛中心:まずTP1→TP2を評価、再現性で確度を上げる。

  • 肩甲骨沿いの重だるさ/PC後の中背部痛:TP3/4と作業環境を同時に是正。

  • マッサージ直後は軽いのに再燃姿勢と肘支持の修正が未達のことが多い。

  • 衛星TPが多発→負荷分布を変える運動(下部僧帽筋・前鋸筋)を組み込む。


まとめ

  • 僧帽筋のTPは頭・首・顎・背部に多彩な関連痛を作る。

  • TP1〜TP4の分布と再現痛を手掛かりに、姿勢/支持/反復動作を是正することが本質的な解決につながる。

  • セルフケアは安全な圧・短時間・呼吸同調、そして作業環境の見直しをセットで。