概要

咬筋(masseter)は、下顎角〜下顎枝の外側から頬骨弓に付着する強力な閉口筋。咀嚼時の主動作筋で、食いしばり・歯ぎしり・長時間の噛みしめ癖で**過緊張やトリガーポイント(TP)**を形成しやすく、顎関節症状や頭顔面痛の一因となります。
鏡の前で歯を噛み合わせると、**耳たぶの前(頬骨弓の下)**で咬筋が硬く隆起するのがわかります。
主な症状・関連痛(TPの特徴)
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顎関節周囲の痛み・だるさ、開口時痛、開口制限(はが指2本未満しか入らない等)
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歯の過敏感様の痛み(上下の複数歯に広がることがある)
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頬・目の下・眉上の鈍痛/圧迫感(副鼻腔炎様の不快感と紛らわしいことがある)
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耳症状:耳の奥の痛み、耳閉感、耳鳴り(顎運動で増減する場合は咬筋由来を疑う)
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見た目・触診:頬の張り、押すと小さく鋭い圧痛点、こわばり
鼻汁やくま等の顔面症状と併発することもありますが、他疾患の可能性もあるため、症状が強い・持続する場合は耳鼻科/歯科で鑑別を。
よくある誘因
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就寝時の歯ぎしり(ブラキシズム)・食いしばり
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ストレスや集中時の無意識の噛みしめ
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咀嚼負荷の偏り(片噛み)、硬い食品の習慣的摂取、長時間のガム
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不適合な咬合・欠損歯、長時間のうつむき姿勢(頸前傾で噛みしめ増)
触診のコツ(安全に)
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体位:座位で背すじを軽く伸ばす。
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ランドマーク:耳たぶ前の頬骨弓下〜下顎角へ向かい、歯を軽く噛み合わせて隆起を確認。
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確認:力を抜いた状態で、筋腹を指腹で縦横に軽圧。歯・頬・耳周囲への再現痛があればTPを示唆。
セルフケア(やさしい強度で/衛生重視)
① 外側からのマッサージ(推奨)
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指腹で頬の咬筋を痛気持ちいい程度に30–45秒持続圧→ゆっくり解除。
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上下方向→前後方向に位置を少しずつ変える。1日1–2回、合計2–3分。
② ストレッチ(反動なし)
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口を“少し”開ける→下顎を左右に小さくスライド(各3–5回)。
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開口は痛みゼロ〜違和感程度に留める(大開口は悪化要因)。
③ 生活調整・習慣の見直し
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ガム・爪噛み・氷かじり・歯で袋を開けるなどを避ける。
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日中は「上下の歯は離す/舌先は上顎に軽く」を合言葉に**“ノークランチング”**習慣。
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就寝時の歯ぎしりが疑われる場合は歯科でナイトガードを検討。
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ストレス対策:鼻呼吸・腹式呼吸、頸肩の力み抜き(肩を上げ下げ→脱力)。
④ 口腔内(内側)からの圧迫について
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清潔手袋・清潔ガーゼ必須。自己流で強圧は推奨しません(粘膜損傷・感染リスク)。
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実施するなら歯科/有資格のセラピスト指導下で。
受診の目安
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口が開かない/顎が引っかかる・音が強い、左右で開口軌跡が歪む
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しびれ・発熱・腫脹など炎症所見、歯の拍動痛や冷温での強い痛み
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耳鳴り・めまいが持続、鼻症状が長引く/悪化 など
よくある質問(Q&A)
Q1. 咬筋の痛みと歯の痛みはどう見分ける?
A. 複数歯に境界不明瞭な痛みが出て、顎のマッサージで和らぐなら筋由来の可能性。一歯に拍動痛や冷温痛が強いなら歯科的病変を先に鑑別。
Q2. 片噛み癖は治すべき?
A. はい。両側で噛む練習と食品の硬さ調整を。義歯・噛み合わせに課題があれば歯科調整を。
Q3. 耳鳴りや耳閉感は咬筋で起こる?
A. 顎運動で増減する耳症状は筋・顎関節由来のことがあります。まず耳鼻科で鑑別し、異常なければ顎関節/咬筋の介入を検討。
Q4. どのくらいの強さで押せばいい?
A. 痛気持ちいい〜軽い圧。青あざや翌日の強い痛みが出る圧は逆効果です。
まとめ
咬筋は咀嚼の主役であり、食いしばり・歯ぎしりでTPと過緊張を生じやすい筋。
外側からの短時間の持続圧→小さな顎運動のストレッチ→“歯は離す”習慣化→必要に応じ歯科でナイトガードの順で整えると、症状の軽減と再発予防に役立ちます。