変形性股関節症(股OA)の姿勢変化や異常歩行について解説していきます。
股OAの特徴的な姿勢
まずは変形性股関節症における特徴的な立位姿勢について図を掲載します。
![]() |
![]() |
なぜこのような姿勢変化が起きるかについてですが、ひとつひとつの変化には必ずそこに理由が存在します。
それを理解しておかないことには、その患者に必要な治療は提供できません。なので、ここではひとつずつ原因を解説しながら進めていきます。
変形性股関節症の原因
股OAを引き起こす先天的な要因として、臼蓋形成不全があります。臼蓋とは、大腿骨頭がはまり込む関節窩のことです。
臼蓋が浅い又は狭くなっている場合は、関節を安定させることができず、通常よりも関節への負担が増して摩耗しやすい状況にあります。
![]() |
![]() |
股関節における臼蓋は、30-40度ほど前側方を向いているため、伸展および外旋位で骨頭のはまり込みが浅くなり、脱臼しやすい状態にあります。
腸腰筋が短縮して骨盤が前傾位となるのは、骨頭を脱臼しにくい後方に安定させることで、少しでも不安定性から逃れるためといった理由があります。
![]() |
骨盤が後傾している場合
変形性股関節症では腸腰筋が短縮して骨盤が前傾位となっている場合が多いのですが、ときには骨盤が後傾位となっている方もおられます。
その場合、股関節は伸展している状態と同じなので、関節の形成面積が減少して不安定となってしまいます。
その場合は、姿勢を矯正するための訓練(骨盤後傾の改善)を実施して、関節の安定化が必要となります。
![]() |
![]() |
![]() |
中殿筋が萎縮する理由
次に中殿筋が筋委縮をきたす理由ですが、痛みや運動量の低下に伴う股関節周囲筋の低下による影響が大きいです。
また、頚体角の減少や大転子高位といった形状の変化に伴い、中殿筋の距離が短縮して張力を失うといった問題の影響もあります。
![]() |
![]() |
中殿筋の筋力が低下すると、それを補うために起立時などでは内転筋の活動が増大することになります。
そうやって常に緊張状態を強いられた内転筋は硬くなり、過緊張や短縮といった状態を起こします。
股関節の内転運動は骨頭を関節窩から引き離して関節を不安定とするため、実際は内転の動きも制限するように調整されます。
![]() |
屈曲以外の方向が制限される
上記の理由によって、徐々に股関節周囲筋は短縮や萎縮が起きていき、結果的には屈曲以外の動きがすべて制限されることになります。
ただし、これらの制限は関節を安定させるために起こっている代償的な制限の部分も多いので、可動域の改善を目指す際は安定性への配慮が必要です。
股OAはやみくもにアプローチすると悪化させてしまうリスクが非常に高いため、問題を改善させる理由を明確に持って実施してください。
大殿筋が低下した歩行
変形性股関節症の発生初期では、歩行速度の低下と股関節伸展運動の低下が起こります。
伸展運動の低下は、腸腰筋の短縮や大殿筋の萎縮が関与しており、股関節の拘縮が存在している可能性があります。
![]() |
股関節が伸展できない場合は、可動範囲を補うためには骨盤が前傾し、骨盤が前傾すると運動連鎖で腰椎の前弯が増すことになります。
また、立脚中期から後期が障害されるために膝関節伸展がしっかりと出すことができず、歩行速度が低下していきます。
中殿筋が低下した歩行
中殿筋に問題がある場合は、トレンデレンブルグ歩行とデュシェンヌ歩行といった異常歩行が出現します。
トレンデレンブルグ歩行 | デュシェンヌ歩行 |
![]() |
![]() |
トレンデレンブルグ歩行
トレンデレンブルグ歩行では、患側立脚期に健側の骨盤が下がるのですが、これは中殿筋が骨盤を平行に保てないことで起こります。
また、内転筋の短縮や過度な収縮が骨盤を傾斜させている可能性も考えられます。
教科書的には中殿筋の筋力低下で起こるとされていますが、実際は筋力低下よりも、筋力が発揮できるまでの時間(反応)が遅れていることに起因します。
反応速度が低下する理由としては、筋萎縮や筋張力の問題、拮抗筋の過緊張、痛みなどの理由が挙げられます。
デュシェンヌ歩行
大腿骨頭の上に臼蓋を乗せるようにして、中殿筋の収縮を求めずに歩く方法をデュシェンヌ歩行と呼びます。
トレンデレンブルグ歩行のように中殿筋に過大な負荷を与える心配はありませんが、その分だけ関節で支えることになるので骨の負担が増します。
ここは意外と重要で、どこかにかかる負担を減らすと、それはかならず別のどこかに負担が移ることになります。
そうやって上手い具合に分散されながらヒトは動いていますので、代償歩行がどのような利点と欠点をもたらすのかは常に考えたほうがいいですね。