変形性股関節症のリハビリ治療

変形性股関節症(股OA)のリハビリ治療について解説していきます。

変形性股関節症の概要

変形性股関節症2

変形性股関節症は名前の通りに股関節に変形をきたしている総称で、具体的には、関節軟骨が磨耗して関節腔が狭小化した状態を指します。

有病率は1〜4%で女性に好発し、基礎疾患として先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が有病者の半数以上に存在しています。

変形性関節症はあらゆる部位で起こりますが、その中でも股関節は4番目に多い関節とされています。

順位 部位
1 膝関節
2 肘関節
3 第1中足趾節関節
4 股関節
5 肩関節

変形性股関節症の経過

変形性股関節症の初期にはFAIを発生しているケースが多く、股関節の可動性については評価しておくことが重要です。

上の記事にも書いていますが、女性は股関節の不安定性を有しやすく、動かした際に周囲組織を挟み込んで強い痛みを起こします。

FAIが発生していない場合も、初期は運動後に違和感や疲れを感じていることが多く、関節に炎症が生じることで次第に痛みとして認識します。

日常生活においては、股関節の屈曲制限にて階段昇降や靴下の着脱が難しくなり、鼡径部の痛みとして訴えることが多いです。

炎症が強くなると安静時や夜間時にも痛みが起こり、歩く際には体重を支えきれずに跛行が起こすことになります。

股関節はなぜ変形するのか

変形性股関節症が発症する患者は先天的な臼蓋不全が根底にある場合が多く、関節の受け皿(関節窩)が浅い状態になっています。

受け皿が浅いと大腿骨の骨頭は不安定となり、しっかりと力を発揮できなくなったり、一カ所に荷重が集中します。

荷重が集中している場所は表層の軟骨が削られていき、次第に深層の骨部分が衝撃に耐えられるように骨硬化していきます。

また、浅い関節を安定化させるために骨棘を形成して関節窩を広げたり、大腿骨頭を扁平化させて接する部分を拡大します。

症状が進行すると軟骨損傷部から関節液が骨に侵入し、骨が溶けてしまって穴が空き、骨嚢胞が発生することもあります。

骨嚢胞は例外ですが、骨棘の形成や骨頭の扁平化は不安定な関節を安定化させるために修復した結果ともいえます。

疼痛発生のメカニズム

痛みが発生する理由について、軟骨がすり減って骨同士がぶつかっているから痛いと説明している場合がありますが、これは正しくありません。

関節軟骨や関節下骨(軟骨の下にある骨)には神経が存在せず、神経がないということは痛みを感じないということです。

骨折したら痛みが起こるのは、骨の骨幹部(関節面以外)は神経を豊富に含んだ骨膜で覆われており、そこが損傷されることで激痛が起こります。

骨膜で感じる痛みは人体で最大レベルの痛みともいわれており、それが結果的に骨は痛いという認識につながっています。

骨膜は関節面の手前で関節包に移行してしまうので、骨の関節面には骨膜がなく、痛みを感じる神経はありません。

しかし、骨膜の延長組織である関節包は骨膜同様に神経を含んでいるため、関節包が刺激されることで痛みが生じます。

これらの理由から、実際に痛みを感じているのは関節包や関節周囲の組織(筋肉や靭帯)であり、それらが刺激を受けて痛みは起こります。

また、よく説明される原因として「骨棘があるから痛い」とする内容ですが、この表現もあまり正しくありません。

基本的に骨棘は関節窩を広げるために作られており、関節を安定化させるために働いています。

そのため、骨棘が悪さをしていることはそれほど多くなく、骨棘があるから痛いというのはほとんどの場合が間違いです。

部位別の疼痛と原因

股関節の痛みは主に、①股関節前方(鼠径部)、②股関節後方(殿部)、③股関節側方(大転子)のどこかに現れます。

股関節前方の痛みは、FAI(インピンジメント症候群)、股関節炎、腸腰筋や恥骨筋の攣縮、大腿神経の絞扼などで生じます。

股関節の前方関節包は大腿神経に支配されており、その刺激が同じ神経支配である腸腰筋や恥骨筋に問題が起こりやすい原因になります。

腸腰筋や恥骨筋に攣縮が起こることで、股関節の伸展や内転に可動域制限が生じ、大殿筋や中殿筋の筋力低下を生じさせます。

大腿神経と腸腰筋

腸腰筋に腫脹が起こると、鼡径靭帯と腸腰筋の隙間を通過する大腿神経が絞扼されて、股関節前方の痛みが起こります。

恥骨筋や股関節内転筋群の攣縮で股関節内転拘縮が起こると、中殿筋や小殿筋に伸張痛が生じます。

そのため、変形が重度に進行している患者で股関節側方の痛みは訴えることが多いです。

股関節後方の痛みは膝が内向き(大腿骨内旋・骨頭後方偏位)にある状態で現れやすく、股関節外旋筋群に伸張痛が生じます。

大腿筋膜張筋が硬くなっているケースが多く、短縮に伴って骨盤の前傾も強くなっています。

画像検査による診断

変形性股関節症|重度

変形性股関節症の診断は、単純X線写真(レントゲン写真)のみで可能です。

確認すべきポイントとして、①関節裂隙の狭小化、②骨硬化、③骨棘、④骨嚢胞、⑤骨頭の扁平化、⑥骨萎縮が挙げられます。

病期の分類においては、疼痛や関節可動域を含めて判定していきます。

病期 状態
前期 疼痛はあっても関節裂隙の狭小化はない
初期 関節裂隙の狭小化がある
進行期 関節裂隙の狭小化は著しく、骨硬化や骨嚢胞がある
末期 関節裂隙の狭小化は消失、骨頭は扁平化、関節可動域は著しく制限

近年は関節裂隙の狭小化がない前期症状に、大腿骨頭の肥厚や寛骨臼の過被覆による股関節インピンジメントが痛みの原因の多くを占めていることが指摘されています。

病期分類はあくまで参考程度であり、手術の適応については疼痛の強さや日常生活動作の障害度で判断されます。

手術療法(人工股関節全置換術)

手術療法では、関節温存手術と関節置換手術が適応されます。

関節温存手術とは、骨を切って整えることにより、股関節の形や負荷のかかる方向を改善させる手術になります。

具体的な方法として、寛骨臼回転骨切除、骨盤骨切り術、内反骨切除、外反骨切除などがあります。

関節置換手術とは、変形している大腿骨頭や骨盤関節窩を人工のものに取り替えてしまう手術になります。

人工股関節全置換術2

人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)の寿命は約20年で、再置換術の困難さを考慮して適応は60歳以上とされています。

しかし、日常生活における障害の程度によっては、40歳以上で他に方法がない場合に限り、例外的に適応となる場合もあります。

THAは合併症の頻度も高いため、それらのリスクを理解したうえで手術を受けるかどうかは決めることが大切です。

合併症 発生率
深部静脈血栓症 20-30%
脱臼(再置換術後) 5-15%
脱臼(初回) 1-5%
神経障害 1%
深部感染 0.2-1.0%

リハビリテーションの考え方

変形性股関節症のリハビリを考えるうえで、痛みを起こしている原因がどこにあるかを把握することが重要です。

股関節に炎症が生じている場合は、炎症が落ち着くまで無理な負担を与えないことが重要であり、痛みのない範囲で関節運動が必要です。

周囲筋の攣縮が疼痛の主な原因なら、攣縮を取り除くことがリハビリには求められます。

股関節の炎症

炎症とは損傷した組織を修復するための作業のことで、①熱感、②疼痛、③腫脹、④発赤といった四大徴候が出現します。

炎症が起きている関節(組織)は安静時痛が起きたり、疼痛閾値の低下によって歩行時にも痛みを訴えることになります。

この時期に痛みを無視して関節に負担をかけ続けると、修復が失敗したり、炎症が長引いて関節が変形したりします。

変形をできる限りに抑えて炎症を早期に消失させるためには、患部に負担をかけすぎないことと、関節軟骨に栄養を与えることが必要です。

摩耗した関節軟骨を修復するためには、股関節のミルキングが有効であり、そのための効果的な方法が貧乏ゆすり(ジグリング)です。

ジグリングは患部である股関節に負担をかけることなく、関節液を循環させることで栄養を行き渡らせ、効率的に修復を促せます。

炎症による痛みが強い場合は、抗炎症薬やステロイド注射が有効となるため、それらを活用しながらの疼痛コントロールが効果的です。

腸腰筋や恥骨筋の攣縮

股関節屈曲時に前方関節包がインピンジメントされやすいことは前述しましたが、それによって支配神経である大腿神経が刺激されます。

大腿神経は腸腰筋や恥骨筋も支配しているため、それが原因で支配筋は攣縮を起こすことにつながります。

攣縮を起こしている場合は筋肉に圧痛が認められるので、軽い筋収縮やマッサージでリラクゼーションを図ります。

また、腸腰筋が腫脹することで大腿神経が絞扼されると、大腿前方から膝関節前内側、下腿内側にかけての痛みを起こします。

大腿神経・伏在神経の支配領域

股関節不安定性の改善

変形性股関節症は腸腰筋や大殿筋の収縮不全によって、股関節に不安定性を伴っている可能性が高いです。

収縮不全を起こす原因には、前方関節包に過剰な可動性があって腸腰筋が延長していたり、ハムストリングスの優位や大腿筋膜張筋の短縮による大殿筋の機能不全などが挙げられます。

股OA患者の股関節周囲筋の萎縮度合いを評価した研究では、大殿筋、中殿筋、小殿筋の順に萎縮率が大きかったことが報告されています。

そのため、殿筋群と腸腰筋の機能不全を改善することは関節不安定症を改善するうえで重要となります。

歩行補助具を使用した免荷歩行

歩行時の痛み(炎症)を緩和するためには患部の安静が第一であるため、痛みがある間は歩行補助具を利用した免荷歩行を推奨します。

以下に、代表的な歩行補助具と免荷の割合について記載します。なお、歩行器はつま先のみを接地した場合になります。

方法 免荷
歩行器 80%
松葉杖 67%
ロフストランド杖 33%
Q杖(四点杖) 30%
T杖(一本杖) 25%

若い人では杖の使用に抵抗があるかと思いますが、ノルディックポールなどは健康目的で使用している人もいるので抵抗感も少ないかと思います。

また、歩行補助具とともに大切なのが一日の歩行量で、どれだけ免荷していても歩く量が多すぎると膝関節の負担は増してしまいます。

股関節の疲労感や違和感が出現した時点で量が多すぎるということなので、運動後や翌日に症状が出ない範囲で実施していきます。

異常歩行の種類と特徴

変形性股関節症に合併する異常歩行の多くは、筋萎縮が起こりやすい大殿筋や中殿筋の弱化、関節可動域の制限によって起こります。

股OA患者ではトレンデレンブルグ徴候やデュシェンヌ現象が発生しやすく、これらの跛行は股関節外転筋の弱化に起因します。

トレンデレンブルグ徴候は、立脚側の下肢が骨盤を水平の位置に保持できず、立脚期に反対側の骨盤が下がる状態です。

デュシェンヌ現象は、立脚期に体幹を側屈させることで、弱化している中殿筋にかかる負荷を逃がすようにしています。

トレンデレンブルグ徴候は健常者でも発生しますが、デュシェンヌ現象や逆トレンデレンブルグ徴候は明らかな問題となります。

そのため、第3代償が最も軽度であり、第1代償が最も重度の状態です。


vc

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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