変形性股関節症(股OA)のリハビリ治療について解説していきます。
この記事の目次はコチラ
変形性股関節症の概要
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変形性股関節症は名前の通りに股関節に変形をきたしている総称で、具体的には、関節軟骨が磨耗して関節腔が狭小化した状態を指します。
有病率は1〜4%で女性に好発し、基礎疾患として先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が半数以上に存在しています。
変形性股関節症の前期は運動後に違和感や疲れを感じていることが多く、関節に炎症が生じることで次第に痛みとして認識します。
日常生活においては、股関節の屈曲制限にて階段昇降や靴下の着脱が難しくなり、鼡径部の痛みとして訴えることが多いです。
股関節はなぜ変形するのか
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股OAを発症する患者の多くは先天的な臼蓋形成不全があり、関節の受け皿(関節窩)が浅い状態になっています。
臼蓋形成不全が存在するうえに、中殿筋の弱化などで股関節内転位荷重となっているケースでは股関節外上方への負担が増加します。
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股関節外上方へのストレスが加わり続けることで、徐々に大腿骨頭は変形していき、変形性股関節症を招くことにつながります。
場合によっては、不安定な状態をカバーしようと徐々に臼蓋の外上方に骨棘が形成されたり、骨硬化していくこともあります。
荷重が集中している場所は表層の軟骨が削られていき、大腿骨頭を扁平化させて接する部分を拡大していきます。
症状が進行すると軟骨損傷部から関節液が骨に侵入し、骨が溶けてしまって穴が空き、骨嚢胞が発生することもあります。
骨嚢胞は例外ですが、骨棘の形成や骨頭の扁平化は不安定な関節を安定化させるために修復した結果ともいえます。
疼痛発生のメカニズム
痛みが発生する理由について、軟骨がすり減って骨同士がぶつかっているから痛いと説明している場合がありますが、これは正しくありません。
関節軟骨や関節下骨(軟骨の下にある骨)には神経が存在せず、神経がないということは痛みを感じないということです。
骨折したら痛みが起こるのは、骨の骨幹部(関節面以外)は神経を豊富に含んだ骨膜で覆われており、そこが損傷されることで激痛が起こります。
骨膜で感じる痛みは人体で最大レベルの痛みともいわれており、それが結果的に骨は痛いという認識につながっています。
骨膜は関節面の手前で関節包に移行してしまうので、骨の関節面には骨膜がなく、痛みを感じる神経はありません。
しかし、骨膜の延長組織である関節包は骨膜同様に神経を含んでいるため、関節包が刺激されることで痛みが生じます。
これらの理由から、実際に痛みを感じているのは関節包や関節周囲の組織(筋肉や靭帯)であり、それらが刺激を受けて痛みは起こります。
また、よく説明される原因として「骨棘があるから痛い」とする内容ですが、この表現もあまり正しくありません。
基本的に骨棘は関節窩を広げるために作られており、関節を安定化させるために働いています。
そのため、骨棘が悪さをしていることはそれほど多くなく、骨棘があるから痛いというのはほとんどの場合が間違いです。
部位別の疼痛と原因
股関節の痛みは主に、①股関節前方(鼠径部)、②股関節後方(殿部)、③股関節側方(大転子)に現れます。
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股関節前方の痛みは、股関節伸展位をとりやすいヒトで現れやすく、具体的には骨盤後傾位や骨盤前方位に好発します。
股関節伸展位になると股関節屈曲筋が攣縮するため、歩行などで遠心性収縮することで痛みを起こします。
股関節側方の痛みは、歩行時にトレンデレンブルグ徴候や骨盤側方動揺があるヒトで現れやすく、中殿筋や小殿筋といった外転筋群の攣縮で生じます。
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股関節後方の痛みは、膝が内向き(股関節内旋位)にあるヒトで現れやすく、股関節外旋筋群の攣縮で生じます。
過度な前捻角が存在すると、大腿骨頭を安定させるために股関節を内旋させることになり、結果的に内股となります。
手術療法(人工股関節全置換術)
手術療法では、関節温存手術と関節置換手術が適応されます。
関節温存手術とは、骨を切って整えることにより、股関節の形や負荷のかかる方向を改善させる手術になります。
関節置換手術とは、変形している大腿骨頭や骨盤関節窩を人工のものに取り替えてしまう手術になります。
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人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)の寿命は約20年で、再置換術の困難さを考慮して適応は60歳以上とされています。
しかし、日常生活における障害の程度によっては、40歳以上で他に方法がない場合に限り、例外的に適応となる場合もあります。
THAは合併症の頻度も高いため、それらのリスクを理解したうえで手術を受けるかどうかは決めることが大切です。
合併症 | 発生率 |
深部静脈血栓症 | 20-30% |
脱臼(再置換術後) | 5-15% |
脱臼(初回) | 1-5% |
神経障害 | 1% |
深部感染 | 0.2-1.0% |
リハビリテーション
変形性股関節症は大腿骨頭の不安定性が原因のひとつですが、臼蓋形成不全などの骨自体の問題にリハビリでアプローチすることはできません。
重要なのは、「股関節の内転位荷重」を防ぎ、股関節の外転モーメントを減少させることです。
外転モーメントを減少させるためには、片脚立位時に骨盤や質量中心が外方変位せず、骨盤を水平位に保てることが必要です。
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具体的な方法としては、片脚時に立脚側の骨盤を押し下げると同時に対側の骨盤を引き上げ、背骨を伸ばすように意識させます。
動きができている場合は頭部の位置が高くなりますので、患者の頭の上に手を置いて、手を押し上げるように実施してもよいです。
この運動は片麻痺患者にも非常に有効であり、しっかりと骨盤の位置を保持できるということを施術者も患者も常に意識しておきます。
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変形性股関節症では鼡径部(股関節前方)の痛みを訴えることが多いですが、その原因のひとつに大腿直筋の攣縮があります。
大腿直筋は下前腸骨棘(直頭)と寛骨臼上縁(反回頭)の2箇所から起始していますが、その枝分かれする場所に問題が生じやすいです。
腸腰筋には疑似臼蓋作用があり、歩行の立脚後期(股関節伸展位)に遠心性収縮することで大腿骨頭は臼蓋の求心位を保てます。
このメカニズムを理解したうえで鍛えることが重要であり、腸腰筋は求心性収縮ではなく、遠心性収縮を主としたトレーニングが有効となります。
腸腰筋ではなく大腿直筋が働きすぎると攣縮し、股関節前方痛の原因となるので、歩行時に股関節伸展位となりすぎないように注意が必要です。
関節軟骨の修復
摩耗した関節軟骨を修復するために、効果的とされている方法が貧乏ゆすり(ジグリング)です。
ジグリングは患部である股関節に負担をかけることなく、関節液を循環させることで栄養を行き渡らせ、効率的に修復を促せます。
ただし、この方法を選択すると股関節を可能な限りに免荷する必要があり、さらに少なくとも1年以上はジグリングを継続しなければなりません。
そのため、臨床的にはあまり現実的ではなく、軟骨を再生させることは実質的には困難といえます。
歩行補助具を使用した免荷歩行
歩行時の痛み(炎症)を緩和するためには患部の安静が第一であるため、痛みがある間は歩行補助具を利用した免荷歩行を推奨します。
以下に、代表的な歩行補助具と免荷の割合について記載します。なお、歩行器はつま先のみを接地した場合になります。
方法 | 免荷 |
歩行器 | 80% |
松葉杖 | 67% |
ロフストランド杖 | 33% |
Q杖(四点杖) | 30% |
T杖(一本杖) | 25% |
若い人では杖の使用に抵抗があるかと思いますが、トレッキングポールなどは健康目的で使用している人もいるので抵抗感も少ないかと思います。
また、歩行補助具とともに大切なのが一日の歩行量で、どれだけ免荷していても歩く量が多すぎると膝関節の負担は増してしまいます。
股関節の疲労感や違和感が出現した時点で量が多すぎるということなので、運動後や翌日に症状が出ない範囲で実施していきます。
診療ガイドライン
変形性股関節症の診療ガイドライン(2016年版)は無料公開されていますので、そちらもぜひご参照ください。