概要
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**大円筋(teres major)と広背筋(latissimus dorsi)**は上腕骨近位前面(小結節稜付近)へ合流する“内転・伸展・内旋”グループ。
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どちらも腕を下ろす/後ろへ引く動作で主働し、オーバーヘッド動作の**制動(ブレーキ)**にも関与。短縮やTPで肩の可動が狭くなりやすい。
主訴・関連痛パターン
大円筋

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痛み:肩後外側~三角筋後部の鋭い局所痛。
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誘発動作:棚上の物を取る背伸び・前傾、肘を机に置く姿勢、手を後方へ回す。
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機能所見:水平外転・外転・外旋がつらい/終末域でつっぱる。
広背筋

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痛み:肩甲骨下角中心の上中背部の鈍痛~灼熱感。
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放散:腕の内側~尺側(小指側)、時に側腹部へ放散。
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誘発動作:腕を強く下方へ引く、物を引き寄せる、反復のローイング/懸垂、長時間の前傾。
よくある誘因
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反復の引く動作/荷重作業(荷物の引き上げ・庭仕事・ローイング系トレ)。
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オーバーヘッド作業や頻回のリーチ→帰り動作(降ろす側)で遠心負荷が蓄積。
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姿勢:猫背+肩前方化で腱走行が窮屈になり短縮固定。
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急性要因:牽引・転倒・ぶつけるなどの外傷。
鑑別の要点
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三角筋後部痛のみなら大円筋TPを優先評価。
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肩甲骨下角~内側縁痛+腕尺側放散は広背筋TPを示唆。
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肩後面の限局痛は小円筋・棘下筋のTPとも重なるため、**外旋抵抗での痛み(腱板)と内転・内旋抵抗での痛み(大円・広背)**で分ける。
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肋骨沿いの鋭い圧痛は前鋸筋TPの“紛れ込み”に注意。
触診・セルフチェック
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体位:立位または側臥位。肩を軽く内転・内旋して筋束を張らせる。
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大円筋:肩甲骨外側縁下部~下角外側の筋腹を母指で把持。
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広背筋:肩甲骨下角から腋窩下~側胸部へ走る厚い筋束を肋骨に押し当てるように触診。
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再現痛:狙った圧痛で**三角筋後部(大円)や尺側前腕~小指側(広背)**へ“じわっと拡がる”と陽性所見。
セルフリリース
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道具:ラクロス/テニスボール、フォームローラー、壁。
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大円筋:壁と体の間にボールを挟み、肩甲骨外側縁~下角外側を縦方向にゆっくり数cmストローク。
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広背筋:側臥位でローラーを腋窩下~肋骨外側に当て、呼気に合わせて体重を預ける(肋骨圧痛に注意)。
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強さ:**痛気持ちいい(3/10)**を上限。30–60秒×2–3回/部位,1日1–2セッション。
ストレッチ(安全第一)
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共通:骨盤・肋骨をひねらず、肩はすくまない。痛みは3/10以内。
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チャイルドポーズ変法(広背筋)
手を遠く前へ→骨盤は後ろ、長い呼気で側胸部を沈める。 -
壁スライド+外旋(大円筋)
壁に前腕を当て、肘90°でスライドしながら前腕を外旋(手の甲を外向き)→肩後下方の伸張を感じる。 -
側屈呼吸ストレッチ(広背)
立位で患側腕を頭上、体幹を反対側へ軽く側屈し鼻吸気→長い口呼気。
使いすぎを減らすフォーム修正
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引く動作:肘を背中側へ引く意識を減らし、胸郭を起こして肩甲骨の後退・下制を先に作る。
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オーバーヘッド:上げる前に胸椎伸展+前鋸筋・下部僧帽筋で上方回旋を準備。
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PC作業:肘は体側・支持あり、キーボードは肘高、マウスは近くに。
エクササイズ(痛み軽度のとき)
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等尺内転・内旋:タオルを胸と腕で挟んで軽く押す(5秒×8–10回)。
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ロープーリーの減負荷リトレーニング:フォーム優先(胸椎伸展、肩甲骨下制、腰反り過ぎNG)、軽重量・高回数。
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外旋・外転の補助トレ(腱板・前鋸・下部僧帽):拮抗筋の協調で過緊張を抑える。
受診目安(レッドフラッグ)
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夜間痛が強い/安静でも増悪、外傷後の可動不能、しびれや筋力低下の進行、発熱・腫脹を伴う場合は医療機関へ。
よくある質問(Q&A)
Q1:大円筋と広背筋、どっちを先にほぐす?
A:痛みの主座が三角筋後部なら大円筋、肩甲骨下角~側胸部や腕尺側放散が前景なら広背筋を先に。両者はしばしば併発するので胸椎伸展と呼吸を同時に整えると効率的。
Q2:ボールリリースは毎日OK?
A:OK(弱め+短時間)。強圧・長時間は反発を招くため1か所60秒以内を目安に。
Q3:トレーニング再開の目安は?
A:安静時痛0–2/10、可動域が滑らか、リリース後24時間で悪化なし。最初は可動域半分・軽負荷でフォーム徹底。
Q4:腕を挙げるとすぐ突っ張る…腱板との違いは?
A:挙上の帰り(降ろす側)や引く動作で痛い→大円・広背を疑う。外旋抵抗痛・ペインフルアークが強ければ腱板も並行評価を。
まとめ
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大円筋=肩後外側の局所痛/広背筋=肩甲骨下角中心+尺側放散が目印。
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“呼吸×胸椎伸展×肩甲骨の下制・後退”を先に整え、弱い圧でのリリース→短いストレッチ→軽い協調トレの順で再学習を。