大腿骨転子下骨折のリハビリ治療

大腿骨転子下骨折の概要

大腿骨転子下

転子下=大転子・小転子直下から骨幹部へ移行する5cm前後の領域であり、大腿骨頸部外側骨折と骨幹部骨折の弱点を併せ持つ部位です。この部位は皮質骨が厚く屈曲・ねじれに強い一方、強い外力によって粉砕骨折の形態をとることが多いのが特徴です。さらに、転子下はレバーアームが長く、内反力が最も強くかかり、回旋ストレスも加わりやすいため、強固な固定を必要とします。

近位片は外転・外旋・屈曲(中殿筋群・外旋筋群・腸腰筋)、遠位片は内転・短縮(内転筋群・ハムスト)がかかるなど、種々の筋肉の作用により大きな転位を生じて骨折部が不安定となり、整復が難しく骨癒合も遅延しやすい傾向にあります。

また、広範な手術侵襲による術後の大腿部の疼痛は、運動療法の最大の阻害因子となり、重度な拘縮の発生が危惧される部位でもあります。偽関節・変形治癒・遷延癒合のリスクが高く、強固で軸対称性の高い固定が鍵となります

分類(Zickel の分類)

1.短い斜骨折 2.粉砕した短い斜骨折 3.長い斜骨折

大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|粉砕のない短い斜骨折

大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|粉砕のある短い斜骨折 大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|粉砕のない長い斜骨折
4.粉砕した長い斜骨折 5.近位の横骨折 6.遠位の横骨折
大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|粉砕のある長い斜骨折 大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|近位の横骨折 大腿骨転子下骨折|Zickelの分類|遠位の横骨折

Zickelの分類により、骨折線の長さ・粉砕の程度・横骨折の近位/遠位で概略を把握します 。 1.粉砕のない短い斜骨折 2.粉砕した短い斜骨折 3.粉砕のない長い斜骨折 4.粉砕した長い斜骨折 5.近位の横骨折 6.遠位の横骨折

※その他、Seinsheimerの分類、Ender-Schneiderの分類、Waddellの分類なども補足的に用いられます 。臨床では粉砕の強さ・骨片の回旋・内側皮質支持の有無が術式選択と荷重方針に直結します。

手術療法(概要)

1) 第一選択:近位大腿骨用髄内釘(CMN)

  • 近位回旋安定性と軸方向の支持に優れ、転子下の変形力(外転・外旋・短縮)に対して力学的に有利。短/長スパンの選択は骨折型・骨質・粉砕範囲で決定。

髄内釘固定法|大腿骨転子下骨折

2) ロッキングプレート(LCP)

  • 解剖学的整復が必要な粉砕・転移例、感染後再固定、髄腔形状・既存インプラントなどで髄内釘が不適な場合に適応。

long-plate-CHS法|大腿骨転子下骨折|手術

3) DHS/CHS(動的股関節スクリュー)など

転子下では適応が限定的ですが、小転子下方から伸びる長い斜骨折などに対してロングプレート(long plate CHS)による内固定が行われるケースもあります。ただし、この場合は外側広筋の広範な剥離操作を伴うなど手術侵襲が大きくなる点に注意が必要です

※施設差はありますが、「CMNが基本、プレートは選択的、DHS/CHSは限定的」という位置づけが現在の主流です。

リハビリテーション方針

特別な“万能プロトコル”はなく、術式・固定性・骨質・合併症に合わせた段階的介入が基本です。運動療法を成功させるポイントは、術後初期の浮腫と筋スパズムの除去、2週目以降の瘢痕形成による組織の癒着予防、および癒着が未熟なうちの伸張性改善です。荷重許容量・可動域制限・外旋/内転の制御は術者指示に厳密に追従します。

1) 術後早期(疼痛・炎症期)

  • 痛みと浮腫のコントロール: 外側広筋などを主対象とした浮腫管理を徹底し、コンパートメント内圧の上昇に伴う筋性疼痛を予防します
  • 自動介助ROMと滑走性の改善: 外側広筋の浮腫が強く疼痛閾値が低い時期には、無理な膝関節の屈曲は求めず、股関節運動(滑車を用いた自動介助運動など)を利用して大腿筋膜張筋や腸脛靭帯の滑走、および外側広筋のリラクセーションを促します。股屈曲は外旋・内転を伴わない範囲で行います。
  • 等尺性収縮: 中殿筋・大殿筋・大腿四頭筋を疼痛誘発なく軽負荷で賦活。
  • 呼吸・循環・血栓予防: 足関節ポンピング、早期離床計画。

2) 中期(安定化・運動再教育)

  • 積極的なROM訓練: 瘢痕形成が始まる術後3週目以後は、膝関節屈曲方向への運動療法を積極的に進めます
  • 股外転筋(中殿筋)優先の筋力化: トレンデレンブルグ制御→骨盤水平保持が荷重線管理の土台。
  • 内転筋の過活動抑制: 片脚支持で内転筋に頼ると横せん断が増し、癒合ストレスに。外転・外旋中間位での荷重練習を設計。
  • 段階的荷重: 医師の許可のもと部分荷重(例:術後3週など)から開始し、2本→1本杖→T字杖→フリーへ。疼痛・跛行・骨癒合所見で進行を判定します。
  • 歩行再教育: 立脚中期の骨盤コントロール、過剰外旋・内転の代償をフィードバックで是正。

3) 後期(復帰段階)

  • 加重下機能訓練: ランジ、ステップアップ、側方ステップ、ヒップヒンジ。
  • 多平面安定性: 回旋成分を含む課題でねじりストレス耐性を段階的に。
  • ADL/IADL: 階段、方向転換、持ち上げ・運搬など職業復帰要件に合わせてタスク化。

付着筋と力学

大腿骨に起始がある筋

起始
中間広筋 大腿骨前面・外側面
内側広筋 転子間線~粗線内側唇
外側広筋 大転子外側面・転子間線・殿筋粗面・粗線外側唇
大腿二頭筋短頭 粗線外側唇中部1/3・外側筋間中隔

大腿骨に停止がある筋

停止
大殿筋(深層上部) 殿筋粗面(浅層は腸脛靭帯)
恥骨筋 恥骨筋線~粗線近位
大内転筋 筋性部:粗線内側唇/ハム部:内転筋結節
長内転筋 粗線内側唇の中部1/3
短内転筋 粗線内側唇の上部1/3

離開方向(×)に働く筋は抑制または長さ‐張力をずらすポジショニング。 圧縮方向(◎)に働く筋は癒合ステージに応じて賦活。 とくに中殿筋の早期再教育と内転筋過活動のブレーキが、横せん断低減に直結します。


Q&A

Q. いつから全荷重できますか?
A. 固定性・骨折型・骨質で異なります。CMNで良好固定なら部分荷重から開始し、画像上の癒合所見と疼痛で漸増します。術者指示が最優先です。

Q. トレンデレンブルグが強く、内転筋が張ります。対策は?
A. 側方荷重線を外側へ逃がす外転モーメント確保が先です。CLAMSHELLやサイドブリッジを痛みなし・代償なしで段階化し、歩行では外旋過多/内転代償に即時フィードバックを行います。

Q. 骨癒合の目安期間は?
A. 一般に3~6か月です。粉砕骨折 ・骨粗鬆・糖尿病・喫煙などで遷延癒合が増えるため、早期から栄養・禁煙指導も介入に含めます。

Q. ROM訓練で注意する肢位やアプローチは?
A. 早期は内転・過外旋を避けるとともに、外側広筋の浮腫が強く疼痛閾値が低い時期は無理に膝関節の屈曲を求めないことが重要です 。滑車を用いた股関節運動などで腸脛靭帯の滑走性を保ち、外側広筋のリラクセーションを図りつつ 、瘢痕形成が始まる3週目以降に積極的な膝屈曲運動を進めるのが安全です 。

Q. どんな筋トレが“やりすぎ”になりますか?
A. 片脚立位で内転筋に頼る立脚、外旋強調のヒップ課題、痛みを伴うクローズドチェーンの高負荷は横せん断の増加につながりやすいので、癒合段階まで待つか負荷を調整します。


最終更新:2026-07-13