小円筋のトリガーポイント(TP)

概要

小円筋は棘下筋のすぐ下で肩甲骨外側縁上部から起こり、上腕骨大結節後上方に停止する外旋筋。回旋筋腱板の一員として、上腕骨頭を後下方へ安定させ、外旋や挙上時の求心性を支えます。


症状(どこにどう痛む?)

  • 主座:肩後部の局所的な深部痛(小円筋停止付近)。

  • 放散:上腕後外側に限局しやすい。
    まれに薬指・小指の違和感・だるさ(連れ)を伴うことがあり、小胸筋や広背筋の関連痛と鑑別が必要。

  • 動作痛:外旋・水平外転、投球フォロースルーで増悪。


よくある原因・誘因

  • 反復外旋・フォロースルー偏重のスポーツ(投球・テニス・バドミントン)。

  • 長時間の前方肩位(キーボード高位置、マウス常用)で後方組織が過緊張。

  • 棘下筋機能低下の代償で小円筋が過活動→TP形成。

  • 急な荷重・転倒、寝返りでの肩の牽引。


触診のコツ

  1. 体位:座位または腹臥位。肩は軽度内旋・内転で肩甲骨外側縁を露出。

  2. ランドマーク:肩甲骨外側縁上部(腋窩寄り)。

  3. 確認:軽い外旋抵抗で外側縁近くがふくらむ部位=小円筋。

  4. 注意:深部の神経血管(腋窩神経・後上腕回旋動脈)に強圧を避ける。


セルフケア(痛みが軽度~中等度)

1) リリース

  • 壁と体の間にテニスボールを挟み、肩甲骨外側縁上部に当て小さく上下

  • 1か所10–20秒×2–3回、痛み3/10以内。しびれ感が出たら中止。

2) ストレッチ(後方組織のやさしい伸張)

  • 肩を軽く屈曲し内旋+水平内転へ。反対手で前腕をやさしく抱え込む。

  • 20–30秒×2–3回。前肩の鋭痛が出たら前方すべりの可能性→中止。

3) 協調トレーニング(低負荷・フォーム重視)

  • 1st外旋:肘90°を体側で保ち、チューブで外旋。肘を体側へ軽く押し当てると骨頭前方すべり抑制。

  • 肩甲帯セット:肩甲骨下制+後退+軽い後傾を先に作る。

  • 回数10–15回×2–3セット、反動なし。


セラピスト向けの要点

  • TP好発:肩甲骨外側縁上部の筋腹。

  • 技術:短時間の持続圧+小摩擦を数回、痛覚過敏に配慮。

  • 併行介入:棘下筋の再教育、胸椎伸展、肩甲骨後傾・外旋の運動連鎖。

  • 鑑別:小胸筋(尺側手指の連れ)、広背筋(背側〜上腕内側の痛み)も評価。


鑑別が必要な状態

  • 棘下筋TP/機能不全:前肩深部痛や前腕橈側までの関連痛が優位なら棘下筋を優先評価。

  • 腱板損傷(後上方):力の入らない外旋、夜間痛が強い。

  • 頸椎由来:C6–C7領域のしびれ・筋力低下が伴う。

  • 肩甲上神経・腋窩神経障害:萎縮・神経症状があれば専門評価へ。


受診の目安

  • 安静時や夜間も続く痛み、外旋がほぼ不能。

  • しびれ・筋力低下、肩の明らかな不安定感。

  • 外傷後に症状が急速に悪化。


よくある質問(Q&A)

Q1. 棘下筋との役割の違いは?
A. どちらも外旋筋。外転90°(90/90)では小円筋が主働になりやすく、棘下筋は水平外転寄り。安定化は両者の協調。

Q2. ボールでのセルフリリースは毎日OK?
A. 痛み3/10以内で短時間・複数回なら可。圧が強いと逆に防御収縮を招くため注意。

Q3. 薬指・小指のだるさは小円筋のせい?
A. 可能性あり。ただし小胸筋広背筋の関連痛も多く、胸郭前面・背側の評価もセットで。

Q4. 前肩が痛くなるのはなぜ?
A. 後方短縮や滑走不全で骨頭前方すべりが起きるため。まず肩甲帯セット→軽負荷外旋で再学習。


まとめ

小円筋TPは肩後部の局所痛外旋時の不快感を生みやすい。
棘下筋との協調、胸椎—肩甲帯の準備、痛みゼロ基準の外旋トレで再発を抑制。薬指・小指の“連れ”があれば小胸筋・広背筋も忘れず鑑別を。