概要

小円筋は棘下筋のすぐ下で肩甲骨外側縁上部から起こり、上腕骨大結節後上方に停止する外旋筋。回旋筋腱板の一員として、上腕骨頭を後下方へ安定させ、外旋や挙上時の求心性を支えます。
症状(どこにどう痛む?)
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主座:肩後部の局所的な深部痛(小円筋停止付近)。
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放散:上腕後外側に限局しやすい。
まれに薬指・小指の違和感・だるさ(連れ)を伴うことがあり、小胸筋や広背筋の関連痛と鑑別が必要。 -
動作痛:外旋・水平外転、投球フォロースルーで増悪。
よくある原因・誘因
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反復外旋・フォロースルー偏重のスポーツ(投球・テニス・バドミントン)。
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長時間の前方肩位(キーボード高位置、マウス常用)で後方組織が過緊張。
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棘下筋機能低下の代償で小円筋が過活動→TP形成。
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急な荷重・転倒、寝返りでの肩の牽引。
触診のコツ
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体位:座位または腹臥位。肩は軽度内旋・内転で肩甲骨外側縁を露出。
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ランドマーク:肩甲骨外側縁上部(腋窩寄り)。
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確認:軽い外旋抵抗で外側縁近くがふくらむ部位=小円筋。
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注意:深部の神経血管(腋窩神経・後上腕回旋動脈)に強圧を避ける。
セルフケア(痛みが軽度~中等度)
1) リリース
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壁と体の間にテニスボールを挟み、肩甲骨外側縁上部に当て小さく上下。
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1か所10–20秒×2–3回、痛み3/10以内。しびれ感が出たら中止。
2) ストレッチ(後方組織のやさしい伸張)
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肩を軽く屈曲し内旋+水平内転へ。反対手で前腕をやさしく抱え込む。
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20–30秒×2–3回。前肩の鋭痛が出たら前方すべりの可能性→中止。
3) 協調トレーニング(低負荷・フォーム重視)
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1st外旋:肘90°を体側で保ち、チューブで外旋。肘を体側へ軽く押し当てると骨頭前方すべり抑制。
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肩甲帯セット:肩甲骨下制+後退+軽い後傾を先に作る。
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回数10–15回×2–3セット、反動なし。
セラピスト向けの要点
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TP好発:肩甲骨外側縁上部の筋腹。
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技術:短時間の持続圧+小摩擦を数回、痛覚過敏に配慮。
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併行介入:棘下筋の再教育、胸椎伸展、肩甲骨後傾・外旋の運動連鎖。
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鑑別:小胸筋(尺側手指の連れ)、広背筋(背側〜上腕内側の痛み)も評価。
鑑別が必要な状態
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棘下筋TP/機能不全:前肩深部痛や前腕橈側までの関連痛が優位なら棘下筋を優先評価。
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腱板損傷(後上方):力の入らない外旋、夜間痛が強い。
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頸椎由来:C6–C7領域のしびれ・筋力低下が伴う。
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肩甲上神経・腋窩神経障害:萎縮・神経症状があれば専門評価へ。
受診の目安
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安静時や夜間も続く痛み、外旋がほぼ不能。
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しびれ・筋力低下、肩の明らかな不安定感。
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外傷後に症状が急速に悪化。
よくある質問(Q&A)
Q1. 棘下筋との役割の違いは?
A. どちらも外旋筋。外転90°(90/90)では小円筋が主働になりやすく、棘下筋は水平外転寄り。安定化は両者の協調。
Q2. ボールでのセルフリリースは毎日OK?
A. 痛み3/10以内で短時間・複数回なら可。圧が強いと逆に防御収縮を招くため注意。
Q3. 薬指・小指のだるさは小円筋のせい?
A. 可能性あり。ただし小胸筋や広背筋の関連痛も多く、胸郭前面・背側の評価もセットで。
Q4. 前肩が痛くなるのはなぜ?
A. 後方短縮や滑走不全で骨頭前方すべりが起きるため。まず肩甲帯セット→軽負荷外旋で再学習。
まとめ
小円筋TPは肩後部の局所痛と外旋時の不快感を生みやすい。
棘下筋との協調、胸椎—肩甲帯の準備、痛みゼロ基準の外旋トレで再発を抑制。薬指・小指の“連れ”があれば小胸筋・広背筋も忘れず鑑別を。