小胸筋の概要
小胸筋は**大胸筋の深層で肩甲骨を体幹へ押し当てる“固定筋”**として働き、大胸筋の安定した出力を支えます。
反面、短縮・過緊張しやすいため、肩前方痛・肩甲骨アライメント不良・腱板障害に関与しやすい筋です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 内側及び外側胸筋神経 |
| 髄節 | C7–T1(文献上はC8–T1優位の記載もあり) |
| 起始 | 第2–5肋骨(または第3–5肋骨) |
| 停止 | 烏口突起 |
| 栄養血管 | 胸肩峰動脈(胸筋枝) |
| 動作 | 肩甲骨:下制・前傾・下方回旋/外転(前方推し出し)、努力吸気の補助 |
| 筋体積 | 73㎤ |
| 筋線維長 | 15.0㎝ |
運動貢献度(順位)
| 貢献度 | 肩甲骨下方回旋 | 肩甲骨外転 |
| 1位 | 大菱形筋 | 前鋸筋 |
| 2位 | 小菱形筋 | 小胸筋 |
| 3位 | 小胸筋 | - |
小胸筋は硬くなりやすい筋肉のため、短縮していると肩甲骨は外転・下制・下方回旋し、肩関節は前方に偏位しています。
肩甲骨下角の位置を触診すると緊張側が下方にありますので、アライメント不良を確認するうえでわかりやすい指標となります。
小胸筋は努力吸気に働く
肩甲骨側がロックされている場合、小胸筋の作用により起始側である上位肋骨が引き上げられるため、吸気の補助として貢献します。
上位肋骨(第1-4肋骨)の動きはポンプを押すような動きに似ており、ポンプハンドル運動とも呼ばれます。
吸気時に上方に押し上げられ、呼気時に下方に移動します。
小胸筋の触診方法

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肢位:患側肩を内旋・手背を腰部(結帯)へ → 表層の大胸筋が弛み、深層の小胸筋に触れやすい
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ポイント:烏口突起の直下内側で、コリコリとした索状を前傾運動時に触知
小胸筋の短縮を確認する方法

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背臥位で肩峰前縁がベッドから浮く → 小胸筋短縮の疑い
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肩峰前縁—ベッド面距離を定量化してフォロー(左右差も記録)
ストレッチ方法
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コーナー/ドア枠ストレッチ:肘90°外旋外転、胸を前へ出し肩甲骨後傾・下制し過ぎない
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仰臥タオルロール:肩甲骨内側下角あたりで胸郭を軽く持ち上げ、肩甲骨後傾を促す
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いずれも烏口突起の圧痛が強い場合は強度を控えめに。痛み<軽度~中等度で60–90秒×2–3セット。
筋力トレーニング
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小胸筋は過緊張・短縮しやすいため、原則は緩める/拮抗筋を鍛えるが主眼。
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あえて賦活する場合は肩甲骨外転(セラタスパンチ)のトップでわずかに関与。ただし主働は前鋸筋。
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優先介入:拮抗筋の菱形筋+下部僧帽筋、さらに前鋸筋で肩甲骨後傾・内転・上方回旋を取り戻す。
トリガーポイントと関連痛領域

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主訴:前肩〜胸の奥の痛み・肩前面のつっぱり・肩甲骨が前に引かれる感じ、時に腕内側〜前腕のしびれ様不快感。
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誘因:猫背・PC作業での肩前方化、スマホ操作や抱っこで腕を前に保持し続ける動作、胸郭出口周囲の過緊張、反復したプッシュ系トレーニング。
関連病態と臨床メモ
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胸郭出口症候群(小胸筋症候群/過外転症候群):外転過多や前傾で小胸筋下間隙が狭小化 → しびれ・冷感・だるさ。過外転テストで再現。

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肩関節不安定症:小胸筋の過緊張で肩甲骨前傾→求心性低下。
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腱板障害・インピンジメント:前傾・下方回旋で烏口肩峰弓下スペースが狭くなり棘上筋腱を衝突。
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術後(乳房切除など):線維化・短縮を来しやすく、肩甲骨運搬障害の原因に。
よくある質問(Q&A)
Q1. 小胸筋をまず鍛えるべき?
A. いいえ。短縮・過緊張が基本なので、リリースと拮抗筋(菱形筋・下部僧帽筋・前鋸筋)の強化が先です。
Q2. どのストレッチが安全?
A. コーナー/ドア枠と仰臥タオルロールが再現性・安全性とも高いです。烏口直押しは避ける。
Q3. 巻き肩は小胸筋だけの問題?
A. 多因子です。胸椎過後弯・前鋸筋弱化・下部僧帽筋弱化なども併発しやすいのでセットで評価を。
Q4. 小胸筋の短縮を数値で追いたい
A. 背臥位で肩峰前縁—ベッド面距離を記録。左右差と経時変化を追うと有用です。
Q5. TOSの疑いで何に注意?
A. 過外転・長時間の前方支持姿勢を避ける、夜間の腕上げ寝を減らす、強圧の直押しをしない。必要なら医療機関で精査。
最終更新:2025-10-05

