概要

後頭下筋群は、後頭骨直下で上位二頸椎(C1–C2)と頭蓋を結ぶ4筋(大後頭直筋・小後頭直筋・下頭斜筋・上頭斜筋)の総称。各筋が異なる角度で走行し、頸部の微細なうなずき・傾き・回旋を制御します。
この群にトリガーポイント(TP)が形成されると、後頸部から眼窩奥・前頭部へ広がる頭痛(片頭痛様)を引き起こしやすく、可動域制限(うなずき・側屈・最大回旋時の鋭い痛み)を伴います。
症状(典型像)
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関連痛分布:後頸部の内側から目の奥〜前頭部へ拡散する痛み。片頭痛のように頭全体に感じる場合も。
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可動域:
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上位3筋(大/小後頭直筋・上頭斜筋)TP → うなずき・側屈が硬い。
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下頭斜筋TP → 最大回旋終末で上位頸部に鋭痛。
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頸部のこりへの影響は大(ただし首そのものの局所痛は軽いことも多い)。
片頭痛マネジメントでは、後頭下筋TPの処置を選択肢に入れる価値が高い。
発生要因
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反復・持続負荷:細かな頭部運動の多用、長時間のうつむき、スマホ・PC作業。
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情動ストレス:防御性の短縮・緊張が持続し、発痛を助長。
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関連筋からの影響:僧帽筋のTPが衛星TPとして後頭下筋を活性化し、頭痛を誘発することがある。
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外傷・むち打ち後の残存短縮。
鑑別のヒント
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目の奥に刺すような痛み+後頭下圧痛 → 後頭下筋TPを疑う。
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最大回旋でピンポイントの上位頸痛 → 下頭斜筋の関与。
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神経症状(広範なしびれ・筋力低下・ふらつき)がある場合は頸椎疾患の精査を優先。
セルフケア/施術(安全第一)
1) 触診・圧迫リリース
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姿勢:座位or背臥位。頭をわずかにうなずき、狙う筋を短縮して触れやすくする。
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手技:補助を添えた母指で後頭骨直下の索状部を痛気持ち良い圧で30–60秒。左右交互に。
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ツール:
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セラケイン/ノブル等のフック系ツール(小突起でピンポイント)。
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テニスorラクロスボールを手のひらに載せ、もう一方の手で頭を支え背臥位で自重圧。過敏なら柔らかいボールから。
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2) 軽い動的ストレッチ
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うなずき(頸上部屈)+わずかな側屈を呼吸に合わせて10秒×3–5回。反動をつけない。
3) 負荷の源を断つ
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画面の高さを目線近くへ、手元作業の前傾を減らす。
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1時間に30秒のマイクロブレイク(うなずき・顎引き・肩の下制)。
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僧帽筋・胸鎖乳突筋など隣接筋のTPもセットで評価・ケア。
注意:強圧で悪化、吐き気・強いめまい・視覚異常が出る場合は中止し受診。頸動脈洞付近への圧は避ける。
自主トレ例(再発予防)
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深頸屈筋の軽い等尺:顎を引きながら枕にそっと押し付け5秒×5。
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姿勢リセット:胸郭の前後左右に広がる呼吸→頭頂を引き上げる意識。
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肩甲帯の安定化:下部僧帽筋・前鋸筋の協調(壁スライド、Y/T/W)。
まとめ
後頭下筋群は上位頸の微細運動の要であり、TPができると眼窩奥〜前頭部に広がる頭痛や回旋終末痛を生みます。
触診で再現痛を確認→やさしい圧迫リリース→うなずきストレッチ→作業姿勢の改善という流れが実践的。僧帽筋など隣接筋との連鎖も忘れずに評価しましょう。