慢性疼痛について
慢性疼痛を訴える患者に対して、安静や鎮痛剤だけで改善しないケースは多くみられます。 国際疼痛学会(IASP)による2020年の改定では、痛みは「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」と定義されています 。つまり、痛みは単なる「感覚」だけでなく、「情動」や「認知」の側面を含んだ多面的な体験です 。
最新の知見では、**痛みの慢性化=脳・神経系の「過剰な防御反応」**や、末梢・中枢神経系の感作(過敏化)が主な要因とされています 。 したがってリハビリでは、痛み=損傷という固定観念を解きほぐし、「安全な動き」への再学習を促すことが重要です。
痛みのメカニズムを整理する
| 区分 | 特徴 | 主な治療・対応 |
|---|---|---|
| 侵害受容性疼痛 | 炎症・損傷による実質的な組織痛 | 急性期対応、炎症鎮静・保護 |
| 神経障害性疼痛 | 神経損傷による異常信号 | 薬物+運動刺激による神経再教育 |
| 中枢感作(慢性疼痛) | 実際の損傷がなくても「痛み信号」が増幅 | 教育+運動+心理的介入 |
慢性痛では、以下の2つの悪循環に注意が必要です。
- 痛みの恐怖-回避モデル:痛み体験を過度に破局的に捉えると、恐怖や不安が増大して行動を過剰に回避するようになり、不活動や身体機能障害を招き、さらなる痛みの増悪につながる悪循環です。
- 不活動性疼痛:ギプス固定や過剰な安静など、不活動自体が神経系の感作を引き起こし、痛みの発生や増悪につながります。
リハビリの基本戦略:痛みを“再教育”する
痛みの治療では「治す」よりも「再学習させる」ことが中心となります。非器質的疼痛は運動療法単独では効果が低く、認知行動療法や患者教育の併用が求められます 。 具体的には、以下の3ステップで進めます。
① 痛み教育(Pain Neuroscience Education:PNE)
- 「痛み=損傷ではない」ことを説明する。
- 図や例え(火災報知器モデル、過敏化したブザーなど)を使って理解を促す。
- 認知的安全感を高めることで、脳の防御反応を和らげる。
② 段階的エクササイズ(Graded Exercise)
- 「痛みが出ない範囲」ではなく、「恐怖が小さい範囲」から始める。
- 回数・負荷より「自分で痛みを改善できた」という成功体験をさせることが、モチベーションと回復に極めて重要です。
③ 動作再学習・曝露療法(Graded Exposure)
- 痛みを伴う動作を少しずつ曝露しながら再獲得していく。
- 正しい姿勢での運動動作の学習を行い、力学的負荷を軽減させます。
運動療法の実践例
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タイプ
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目的
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代表的アプローチ
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筋リラクゼーション系
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緊張緩和・疼痛閾値向上
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呼吸練習、漸進的筋弛緩法、ゲートコントロール理論(触圧覚への刺激)を活用したアプローチ
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安定化エクササイズ
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恐怖動作の再獲得
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コアトレ、低負荷スクワット、ブリッジ
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動作再教育
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動作制御と可動性改善
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ミラーセラピー、モーターイメージ訓練
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有酸素運動
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痛み抑制物質の促進
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歩行・バイク・水中運動など。運動による鎮痛メカニズムには「内因性カンナビノイド系」が関与しています
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感覚再統合訓練
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痛み部位への再認識
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タッチ、ブラッシング、温冷刺激など
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リハビリ現場での実践ポイント
- 生物心理社会的(bio-psycho-social)モデルの視点をもつ:局所の組織損傷だけでなく、心理的・社会的状況が影響することを理解し、回復を阻害する心理・認知的要因(yellow flag)に早期に対応します。
- 「痛み0を目指す」より「機能を取り戻す」を目標にする。
- 他職種(心理士・医師)と連携し、教育・心理・運動を統合した教育的アプローチを実施する。
- 何が有効だったかを医療者と患者自身がフィードバックし合い、成功体験を記録して患者自身が痛みをマネジメントできるようにします。
痛み科学のエビデンス
- Moseley GL, Butler DS. (2017) → PNEと段階的運動で慢性腰痛の疼痛・恐怖回避行動が有意に改善。
- Louw A, et al. (2016) → Pain Neuroscience Education + 運動療法が単独より効果的。
- **【追加知見】**関節リウマチ患者に対する研究でも、疾患の特性や関節保護を含めた患者教育を行うことで、コントロール群と比較して疼痛が有意に改善したことが示されています。
- **【追加知見】**腰椎椎間板ヘルニア術後患者に対しても、理学療法と患者教育を並行して実施することで腰痛再発や病院利用日数の改善が認められています。
痛みと可動性を両立させるコツ
- “痛みが出る=NG”ではなく、“痛みが増えすぎない範囲でOK”。
- 「痛みをゼロに」ではなく「痛みをコントロールできる状態に」を目指す。
- 運動学習には末梢からの正しい感覚入力が不可欠です。痛みを軽くし、動かすこと自体が“安全でポジティブな経験”に変われば、神経系が再調整されます。
Q&A
Q. 痛みがあるのに動かしていいの?
A. はい、痛みが組織の損傷を意味しないケースが多いです。恐怖を減らしながら少しずつ動かすことが回復の第一歩です。
Q. どのくらいの期間で効果が出ますか?
A. 多くは2〜6週間で活動量・痛みの自己評価に変化が見られます。心理的安全感の定着がポイントです。
Q. 安静を続けると何が悪いの?
A. 不動自体が神経系の感作を引き起こし、痛みを発生・増強させる「不活動性疼痛」のリスクとなります 。痛みの悪循環を生むため、過剰な安静は避け、適切な活動が必要です 。
Q. 運動すると痛みが一時的に強まることがあるのですが?
A. 一時的な反応は珍しくありません。末梢や中枢神経系が過敏になっている状態(感作)であり 、強い炎症や構造損傷がない限り、過敏な神経反応として経過観察でOKです。
Q. 患者教育のコツは?
A. 「痛み=壊れた証拠」ではなく「生体の警告信号(アラーム)」と説明することです 。また、患者さんに小さな成功体験を積ませるよう指導することが大切です 。