棘上筋のトリガーポイント徹底ガイド

概要

棘上筋は肩甲骨棘上窩から起こり、肩峰の下を通って上腕骨大結節と関節包に付着する回旋筋腱板の一員。
外転の初動(腕を上げ始める動き)と上腕骨頭の求心化に重要で、ここにトリガーポイント(TP)ができると肩の痛み・挙上困難の主因になります。


症状(どこにどう痛む?)

  • 肩外側の深部痛が中心。

  • 放散:上腕外側 → 前腕 → 手首へ広がることがある。

  • 外転・頭上動作で鋭い痛み、髪を洗う・梳かす等がつらい。

  • 肩関節の**ゴリゴリ音(関節雑音)**の背景に棘上筋緊張が関与することがある(鎮静化で軽減)。

  • ときにテニス肘様の外側痛を誘発(頻度は高くないが鑑別に入れる)。

誤診されやすい:肩峰下滑液包炎・腱炎など。画像や徒手評価だけでなく、TP関連痛の再現で棘上筋の関与を確認します。


よくある原因・誘因

  • 単発の大荷重:重い家具・スーツケース・箱の運搬(腕をぶら下げたまま保持)。

  • 反復・持続負荷:頭上作業、肘支持なしのキーボード作業、長時間の腕振り。

  • 外傷:転倒・打撲後。

  • 姿勢:巻き肩・肩甲骨前方化で腱板にストレス集中。


触診・評価のコツ

  • ランドマーク:肩甲棘をたどり、上方の棘上窩を指腹で探索。

  • 収縮確認:外転方向に軽い抵抗をかけると筋腹が張る。

  • TP好発部位(2か所)

    1. 肩甲棘すぐ上の筋腹中央

    2. 肩峰下に潜る手前(肩鎖関節近傍)

  • 再現痛テスト:0–30°外転抵抗での疼痛、ペインフルアーク(60–120°)、Jobe/Full-canで痛みや筋力低下。

  • 注意:肩峰下は強圧NG(滑液包・腱への刺激増)。


自分でできる対処(痛みが軽度〜中等度の場合)

1) 生活・姿勢の調整

  • マウス・キーボードは前腕支持を確保(アームレストなど)。

  • 荷物は体幹に近づけ、長時間のぶら下げ保持を避ける。

  • 胸椎伸展可動性と肩甲骨後傾・下制を先に作ってから挙上。

2) ストレッチ(痛み3/10以内)

  • ストレッチ側の手を背中へ回す(内旋・内転)→反対手で手首をやさしく内側へ誘導。

  • 肩甲骨は後傾・下制を意識。鋭い前面痛・しびれが出たら中止。

  • 20–30秒×2–3回、日に数セット。

3) 低負荷トレーニング

  • フルカン(Scaption):肩甲面(前額面より30–40°前)で親指上、0→90°。0.5–2kg、10–15回×2–3セット。

  • **外旋(脇しめ等尺~軽負荷)**で腱板の求心性を促通。

  • トレ中は肩すくみを禁止。前鋸筋・僧帽筋下部で上方回旋+後傾を作る。

トレ目的でのエンプティカン(内旋)高挙上は非推奨:肩峰下圧を上げやすい。


セラピスト向け介入の要点(概要)

  • 筋腹中央/肩峰下手前のTPに対し、短時間・複数回の持続圧や摩擦で鎮静化。

  • 併行して胸椎伸展・肩甲骨後傾の運動連鎖を再学習。

  • 痛み強い時期は等尺外転・外旋から開始し、痛みゼロ基準で可動を拡大。


鑑別が必要な状態

  • 腱板損傷(棘上筋腱断裂):夜間の挙上不能、Drop-arm陽性、明確な筋力低下→整形で画像評価。

  • 肩峰下滑液包炎・腱板炎:炎症コントロール(休息・薬物療法・注射等)で早期軽快も。

  • 頸椎由来痛肩関節不安定症:頸部テスト・不安定性所見を併せて確認。


注意すべきサイン(受診目安)

  • 安静でも夜間痛が強く寝返り不能

  • 落下物対応や軽荷重でも挙上保持できない

  • 外傷後にしびれ・力が入らない等の神経症状。


よくある質問(Q&A)

Q1. 三角筋を鍛えれば改善しますか?
A. 三角筋だけでは骨頭が上方偏位しやすい。**棘上筋+肩甲帯(前鋸筋・下部僧帽筋)**をセットで。

Q2. マッサージはどこを押せばいい?
A. 棘上窩の筋腹中央肩峰下へ潜る直前が要点。ただし強圧は禁物、痛み3/10以内で短時間。

Q3. どのくらいで良くなりますか?
A. 生活調整+協調再学習がハマれば数週~数か月。炎症・断裂があれば医療介入と併用。

Q4. テニス肘様の痛みも棘上筋が原因に?
A. まれに関連痛として生じます。まずは**肘局所(伸筋群)**との鑑別を。


まとめ

棘上筋TPは**「外転初動の痛み」肩外側の深部痛**の大きな原因。
姿勢・環境の見直し → 胸椎と肩甲帯の準備 → 痛みゼロの等尺~フルカンという順番で再学習すると、再発を抑えつつ機能を取り戻せます。