概要

棘下筋は肩甲骨棘下窩を覆う腱板筋の一つで、上腕骨大結節後上方に付着。
主役は肩外旋と上腕骨頭の求心化。ここにトリガーポイント(TP)ができると、外旋がしにくい・肩を前側で深く痛む、といった症状が出ます。
症状の特徴(どこにどう痛む?)
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肩前面の深部痛(二頭筋溝~肩前面)…実は後方の棘下筋TPが原因のことが多い
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肩外側~上腕外側の痛み
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放散:**前腕~手背橈側(親指側)**まで広がることがある
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外旋・内旋が硬い/後ろ手動作(上着の着脱)がつらい
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夜間痛:患側を下にしても、反対側でも腕の重みでつらい
上腕二頭筋腱炎や肩峰下滑液包炎と誤診されやすい“隠れ原因”です。
よくある原因
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頭上作業/長時間の腕保持(短縮維持で疲弊)
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繰り返す投球・フォアハンドなどの外旋ストレス
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PC作業の姿勢:肘支持なし・マウス固定で外旋位が続く癖
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転倒・打撲などの外傷
評価・鑑別のコツ
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触診:肩甲棘の下(棘下窩)を外縁に向かって探索し、外旋で収縮確認
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典型的関連痛:圧で**肩前面(二頭筋溝付近)**に再現痛
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テスト:外旋抵抗痛/後ろ手動作の制限
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鑑別必須:上腕二頭筋長頭腱炎、肩峰下滑液包炎、頸椎由来痛
セルフケア(痛みが軽度~中等度)
1) まずは鎮静
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強いストレッチは禁忌(TPが過敏)
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うつ伏せや横向きでフォームローラー/ボールを肩甲骨外側に当て、浅い圧で10~20秒×数回
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痛みは3/10以内を目安
2) 呼吸+肩甲帯の下地づくり
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腹式呼吸で肩すくみを抑え、肩甲骨後傾・下制を意識
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胸椎伸展モビリティ(座位で背もたれ越しに軽く伸展)を数回
3) 低負荷アクティベーション
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等尺外旋(肘90°・体側、壁に外旋で軽抵抗 5秒×8~10回)
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痛みが落ち着いたら軽負荷チューブ外旋を可動域小さめで
ストレッチや高負荷エクサはTP鎮静後に段階的に。急がないのがコツ。
セラピストが見るポイント(概要)
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棘下筋TPへの短時間の持続圧/摩擦+胸椎伸展・肩甲骨後傾の連鎖再学習
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腱板全体(棘上・小円・肩甲下)の協調を戻し、肩峰下圧を下げる
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痛む時期は等尺→部分可動→全可動へ
受診の目安(レッドフラッグ)
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夜間痛で眠れない/寝返り不能
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外傷後に明らかな筋力低下・挙上不能(Drop-arm陽性)
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しびれや発熱、腫脹を伴う場合
よくある質問(Q&A)
Q1. 肩前面が痛いのに、後ろの棘下筋が原因?
A. はい。棘下筋TPは肩前面(二頭筋溝)へ関連痛を飛ばしやすい代表例です。
Q2. ストレッチを強めにやれば早く治りますか?
A. 逆効果になりがち。まず鎮静→等尺外旋→軽い外旋運動の順で。
Q3. テニスや投球はいつ再開?
A. 痛みゼロの可動域で等尺・軽負荷が問題なければ、段階的に。フォーム修正(肩甲帯の後傾・上方回旋)も同時に。
Q4. 二頭筋腱炎との見分け方は?
A. 二頭筋溝の局所圧痛だけで判断せず、棘下筋圧で前面痛が再現するか、外旋抵抗痛の有無も確認します。
Q5. デスクワーク対策は?
A. 前腕支持(アームレスト)、マウス固定を避け、肘角度90°前後・肩すくみゼロの高さに調整。
まとめ
棘下筋TPは肩前面深部痛と外旋制限の隠れ原因。
「鎮静 → 肩甲帯の下地作り → 等尺外旋 → 段階的アクティベーション」の順で再学習すると、再発を抑えながら機能を取り戻せます。