橈骨遠位端骨折のリハビリ治療

橈骨遠位端骨折の概要

橈骨遠位端骨折は、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位端骨折と並び、高齢者の四大骨折の一つに数えられます。主に転倒して手をついた際の介達外力によって発生し、特に骨粗鬆症を伴う高齢女性に多く見られます。わが国における発生率は人口1万人あたり10.9〜14.0人で、性差は男性1に対して女性3.2と女性に顕著です。

危険因子としては、①骨粗鬆症、②転倒歴、③高い歩行頻度に加え、エストロゲン減少やBMIの増加なども挙げられます。手術を行っても長期入院となるケースは少なく、多くは外来リハビリテーションでフォローされます。


骨折の分類

骨折の分類骨折の重症度や予後は、関節面の破壊の程度(関節内か関節外か)や骨片の転位方向に依存します。

  • 転位方向による分類:
    1. コーレス(Colles)骨折:遠位骨片が背側に転位する最も頻度の高い骨折で、手関節は「フォーク状変形」を呈します。
    2. スミス(Smith)骨折:遠位骨片が掌側に転位する骨折で、コーレス骨折とは逆に掌屈強制により離開が生じやすいため注意を要します。
  • AO分類:現在、国内外で最も広く用いられている分類法で、関節外骨折(A)、部分的な関節内骨折(B)、完全な関節内骨折(C)に分けられ、Cに向かうほど予後は不良となります。
  • 注意点:関節内骨折は再転位や変形治癒を起こしやすく、より慎重な管理が求められます。


橈骨遠位端骨折の合併症

本骨折は多くの合併症を伴う可能性があり、早期診断と適切な介入が不可欠です。

合併症
内容
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
重度の疼痛、腫脹、発汗異常、皮膚の色調変化が生じ、手指・手関節が著しく動かせなくなる病態です
手指・手関節の拘縮
浮腫や腱の滑走不全により、手関節の背屈・掌屈、MP関節の伸展、PIP関節の屈曲制限が生じやすくなります
手根管症候群
骨折部の掌側突出や、固定肢位(掌屈位)による手根管内圧の上昇で正中神経が圧迫され、母指や示指にしびれが生じます
手根不安定症
舟状骨と月状骨の解離(SL解離)が最も多く、握力低下や痛みの原因となります
尺骨突き上げ症候群
橈骨の短縮(Radial shortening)により相対的に尺骨が長くなり、手関節尺側の疼痛や三角線維軟骨複合体(TFCC)への圧ストレスが増大します
長母指伸筋腱(EPL)断裂
骨折部での摩擦や局所循環障害により、受傷後数週間〜数カ月後に腱が断裂することがあります

特に尺側部の疼痛がある場合、橈骨短縮に伴う月状骨・三角骨と尺骨間の圧力上昇が疑われます。手関節の掌屈・尺屈運動ではTFCCへの圧が集中するため、疼痛を誘発する肢位は避けるよう指導を行います。


保存療法の適応と管理

転位のない安定型骨折や、徒手整復後に安定が得られた場合は保存療法が選択されます 。

  • 固定期間と姿位:平均4〜6週間のギプス固定が行われます 。固定姿位は従来、コットン・ローダー位(回内・掌屈・尺屈)が用いられましたが、近年では正中神経への圧迫を考慮し、背屈位固定が選択されることもあります 。
  • 生活指導の三原則:
    1. 下垂のまま放置しない:浮腫を防止するためです 。
    2. 定期的に高挙する:静脈還流を促し、組織の癒着を防ぎます 。
    3. 指を動かす:固定中から手指の自動運動(Six pack exerciseなど)を徹底し、腱の滑走性維持と骨萎縮予防を図ります 。

手術療法の適応と治癒

過程不安定型骨折や関節内粉砕骨折では手術が適応となります。

  • 術式:現在は強固な固定が可能な掌側ロッキングプレート固定法が主流であり、術後早期からの可動域訓練を可能にします。開放骨折で患部が汚染されている場合は、創外固定法が選択されます。
  • 組織修復のタイムライン:血管新生やコラーゲン合成が行われる増殖期を経て、瘢痕組織による修復が進みます。組織が一定の強度を得るには、真皮で約4週間、筋膜では6週間以上を要するとされています。

リハビリテーション

修復過程で瘢痕化した組織は滑走不全を起こし、長期的な可動域制限の原因となります。そのため、徒手的なリリースと段階的な運動療法を組み合わせます。

1.治療の順序と理論

  • 順序:①組織リリース → ②関節モビライゼーション → ③関節可動域訓練(ROMex)。
  • 理由:関節包や周囲組織が硬い状態で運動を行うと、骨頭の異常なブレ(トランスレーション)が生じ、インピンジメントや疼痛を引き起こすためです 。

2.組織リリースと触診

  • 制限のある方向に関節を動かし、滑走不全を起こしている組織(皮下組織や腱周囲)を特定します 。
  • 瘢痕組織には摩擦による熱刺激や物理的なリリースを加え、組織間の滑走性を引き出します 。特に術後はプレート刺入部周囲の皮膚の滑走性が腱の動きを阻害するため、皮膚操作によるリリースが重要です 。

3.関節モビライゼーション

  • 凹凸の法則に基づき、手根骨(凸側)の滑りを促します 。
  • 背屈時:手根骨を掌側から背側(後方)へ押し込む、あるいは橈骨に対して相対的に誘導することで正常な関節運動を再現します 。
  • 掌屈時:手根骨を背側から掌側(前方)へ誘導します 。

4.手指の機能維持

  • 固定中からMP・PIP・DIP関節の各可動域を確保する「Six pack exercise」を実施し、外在筋と内在筋のバランスを整えます 。
  • 浮腫管理として弾性包帯による圧迫を行いながら運動を実施することも有効です 。

最終更新:2026-05-27