烏口腕筋のトリガーポイント(TP)

概要

烏口腕筋は上腕内側の深部、二頭筋と三頭筋のあいだにある細長い筋。上端は烏口突起、下端は上腕骨中央に付着し、腕を体側へ引きつける(肩関節水平内転・内転の補助)働きがあります。デスクワークやクライミング、プッシュ動作で過緊張しやすく、上腕内側〜肩前方の不快感やしびれ様の連れの原因になりがちです。


症状(主訴)

  • 痛みの分布:肩前部(三角筋前部付近)/上腕後面・内側/時に手背まで。活動性TPでは中指先まで連れることも。

  • 誘発動作:腕を後方へ引く・頭上に上げる・体側へ強く引きつけると痛み増悪。

  • 機能低下:背中側へ手を回す・高所リーチがつらい。

  • 神経様症状:短縮で腕神経叢に近接圧が高まり、二頭筋〜前腕〜手の「連れ・痺れ様不快感」を伴うことがある。


よくある誘因

  • 荷重・スポーツ:腕立て伏せ、クライミング(ロープ/ボルダリング)、水泳、投球、ゴルフ、テニス、懸垂やラットプル等の牽引・プッシュ反復

  • 作業姿勢:前方リーチの繰り返し、手のひら上向きで重い物を持ち上げる動作。

  • サテライトTP:肩周囲(大胸筋、回旋筋腱板)や斜角筋などのTPが先に存在し、二次的に烏口腕筋へ波及するケースも多い。


触診のコツ

  • ランドマーク:上腕骨内側の最上部(腋窩直下)からやや前内側を狙い、母指で深部へソフトに

  • 確認:肘を体側へぎゅっと寄せる(肩水平内転)と、母指下で細い索状の収縮が触れやすい。

  • 注意:近くを筋皮神経(腕神経叢分枝)が走るため強圧は禁物。しびれ・電撃痛があれば直ちに中止。


セルフチェック

  • 腕を体側へ引きつける等尺(5秒)で上腕内側深部にズーンと響く。

  • 背中側へ手を回す/上棚リーチで肩前〜上腕内側が突っ張る

  • 上腕内側を軽く押圧しながら腕を体側へ寄せると再現痛が出る。


自分でできる対処

1) 生活・フォーム調整

  • 前方リーチは肘を支える(肘置き・デスク高さ調整)。

  • プッシュアップは可動域を短縮肘をやや絞る/痛み期は回数よりフォーム。

  • プル系は肩甲骨の後退・下制を先に作ってから。

2) やさしいリリース

  • 位置:上腕内側の上1/3、腋窩寄り。

  • 方法:母指で2〜3/10の圧で静圧15–30秒→離すを数回。しびれ様が出たら中止。

  • ボールは使用しない(神経近接のため過圧リスク)。

3) ストレッチ(痛み3/10以内)

  • 立位で肘を軽く伸ばし前方へ。反対手で前腕を支え、肩をやや外転+外旋して上腕内側が伸びる角度を探る。

  • 20–30秒×2–3回/日。痺れ・鋭痛は中止

4) 低負荷エクササイズ(再発予防)

  • 等尺外転:肘を体側に軽く押し付け、外へ押そうとする力に対し壁で抵抗(5秒×8–10回)。

  • 肩甲帯セット:前鋸筋・下部僧帽筋の促通で、プッシュ・プル時の肩甲骨ポジションを安定。


セラピスト向け要点(簡潔)

  • 腋窩前壁から烏口突起ラインをイメージし、筋皮神経走行に留意して軽圧の持続圧

  • 先に大胸筋(烏口突起周囲)や小胸筋の短縮をリリース→烏口腕筋の過緊張を間接的に緩和。

  • 痛み期は肩水平内転の等尺肩甲帯安定→徐々に可動域拡大。


鑑別のヒント

  • 上腕二頭筋長頭腱炎:前肩の前下方圧痛・挙上痛。

  • 頸椎由来:頸部姿勢での症状変動・神経学的サイン。

  • 心因性・内科的:安静時強い痛みや全身症状を伴う場合は医療機関へ。


受診の目安(レッドフラッグ)

  • 安静でも続く夜間痛、急な筋力低下、外傷直後の可動不能、持続するしびれ・麻痺、発熱や腫脹を伴う場合。


よくある質問(Q&A)

Q. 押すとしびれる感じが走ります。続けて大丈夫?
A. いいえ。神経への過圧のサインです。即中止し、圧を下げるか方法を変えてください。

Q. どの運動を控えるべき?
A. 痛み期はディープなプッシュアップや懸垂など高負荷の水平内転/内転を一時的に控え、可動が戻ってから段階復帰を。

Q. 改善の優先順位は?
A. ①肩甲帯の位置づくり(下制・後退)→②烏口周囲(大・小胸筋含む)の軟部組織性状の改善→③烏口腕筋の軽圧リリースと等尺が安全。


まとめ

烏口腕筋TPは**「上腕内側の深部痛+前方リーチや後方引きで増悪」が手掛かり。神経近接ゆえ強圧は避け、軽圧短時間で。姿勢と肩甲帯制御を整えつつ、等尺→可動域→機能復帰の順で段階的に再学習**するのが再発予防の近道です。