特養に入所できる人が「要介護3以上」になった理由

特別養護老人ホームは、これまでも入所判定会議を実施して、重度の要介護状態で在宅生活が困難な方を優先的に入所していただくように対応していましたが、今回の改正で、やむを得ない事情を除いて「要介護3以上」とはっきりと明記されました(従来は要介護1から可)。

ここでは、その詳細について記述していきます。

なんで要介護3以上になったのか

これまでも会議を実施して、介護度にとらわれることなく、柔軟に「本当に入所が必要な方」を優先的に選んできたはずなのに、なんで今更になって要介護3以上なんて指定ができたのでしょうか。

その理由は明快で、そんな公正な入所判定会議なんてやっていなかったからです。コネで優先的に入られる方もいれば、提携病院や役所の圧力によって順番を抜かされることもあります。中には、まったく入所する必要性もないのに早めに申し込んでいる方々も大勢います。

誤解を招くと危ないので補足しておきますが、もちろん全ての施設がそういったことではありません。一部の施設がそういう不正を働くので、それを是正しようとしての介護度の指定なのだと解釈してください。

施設ケアマネの考察

Yahoo!知恵袋からの抜粋ですが、入居優先順位について施設ケアマネが以下のように回答しています。

入所判定会議を開催していない施設も実際には多くあり、内容もずさんな場合があります。コネも実際には存在しており、議員や役所職員からの圧力もあるし、提携病院の医師から強く言われると断れないのも事実です。

又、施設長および相談員の交友関係でも変わる事が多くありますよ。相談員が緊急度が高いと評価すればそれまでですし…。結論から言うと入所申し込みされる施設によりコネも有効となります。

非常に残念ですが、上記の回答が現実だと思います。だからこそ、今回の改定で「要介護3以上」と明記される事態になりました。

一般の会社なら別にいいですけど、介護保険は税金で成り立っています。そこに不正を持ち込むなんて言語道断と思います。

実際に効力を発揮できるのか

要介護3以上と明記はされましたが、例外として「やむを得ない場合は要介護1,2でも可」という条件がありますので、不正は解消できない気がします。

基本的に、要介護度の決定にはあらゆる要素が反映されます。要介護度が低いということは、「家族が十分に協力できる」とか「入所の必要性まではない」と判断された方です。

本当にやむを得ない場合なら、介護度の再審査請求を行うことが正しい順序だと思います(時間かかりますけどね)。以下にどのような方が要介護1,2でも入所が認められるかを記載していきます。

要介護1,2で入所が認められるのはどのような場合

要介護1,2の方が特例的に入所できるのは、以下のような考慮事項を勘案して、特別養護老人ホーム以外での生活が困難な事情がある場合です。

  1. 認知症で、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られること
  2. 知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状等が頻繁に見られること
  3. 深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態であること
  4. 単身世帯等家族等の支援が期待できず、地域での介護サービス等の供給が不十分であること

上記を見るかぎり、「3」はやむを得ないとしても、1,2,4の事情は特養が判定するものではなく、それこそ介護認定調査会がするべき仕事だと思いますけどね。

要介護1,2で入所するための手続き

特別養護老人ホームに入所申込みをする際に、特別養護老人ホーム以外での生活が困難である事情について、申込書等に記載していただく必要があります。

施設は、その申込みを受けて、必要に応じて市町村の意見も聞きながら、特例入所の対象として認められるか、重度の要介護状態で入所を待っている方と比較して優先的に入所することが適当か、検討していくこととなります。

この手続きを読む限りでも、やはりちょっと条件が緩い気がします。これまでと何も変わらないと思うのは私だけでしょうか。現在、特養の待機者数は50万人以上だそうです。

これには少しからくりがあり、待機者の中には、「症状が軽いうちに早めに申し込む人もいる」といった実態があるようです。それでも、この数字は異常でしかありませんね。

なんで特養ばかり申込が多いのか

それはなんといっても値段の安さです。特養の多床室では、月額8万円程度(家賃、食費、水道光熱費、雑費込み)なんてところも多いです。

それが有料老人ホームなどでは、月額13万円以上、入所一時金で何百万円とかしますので、特養に申し込みが殺到して当たり前なのです。

特養は増えない。増やすのは在宅介護

今後も待機者数は増えていき、当然のように受け皿が増えることはありません。政府の方針としては、もう予算がありませんので、なるべく在宅で介護をするように法律を持っていくことになります。それに応じて、小規模多機能型居宅介護や24時間巡回型訪問介護などが充実していきます。

ですので、介護者は特養が空くのをひたすらに待ち続けるのではなく、介護負担を減らすためにはどうしたらいいのかを考え、介護技術や介護保険制度についての知識を身につけることが大切だと思います。それこそが、在宅介護を普及させる第一歩ではないでしょうか。

まとめ

天下りや補助金問題などで不正が蔓延している政府が決めることですから、そこには当然のように不正が存在します。また、コネでどうにかしようといった日本人のモラルの低下も伺えます。はっきり言って、国の財政もいつまで持つかもわかりません。

少しでも平等で、現在の介護保険が長続きできるようにするためには、現場の人間が意識を変えていく他ありません。もちろん利益の確保も大切ですが、本当に必要な方に、本当に必要な量のサービスが提供できるようにモラルを持って行動をお願い致します。

厚労省が配布しているパンフレット(抜粋)

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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