スポンサードリンク

痛みに対する5つのアプローチ


療法士が実施できる痛みを抑えるためのアプローチについて考察していきます。

疼痛の発生メカニズム

痛みを治療するために、まずは疼痛の発生機序について解説していきます。

痛みは、①物理刺激、②熱冷刺激、③内臓痛、④過緊張、⑤発痛物質などの刺激を侵害受容器(ポリモーダル受容器、高閾値侵害受容器)が感知することで発生します。

感知された情報は電気信号に変換され、神経を通して視床に集約され、最終的には大脳皮質や大脳辺縁系に伝達されます。

そのため、実際に痛みを感じている場所は大脳皮質の感覚野であり、不快感などは大脳辺縁系にて感じることになります。

痛みの経路

痛みを伝える神経線維

侵害受容器で感知されて電気信号となり、神経線維を通して痛みは伝達されますが、神経線維には六種類が存在します。

その中の、Aδ(Ⅲ)とC(Ⅳ)の神経線維が痛みを伝達する経路になります。B線維も交感神経に関与しており、過度な刺激は痛み起こす原因となります。

そのため、細い神経は痛みに関与する伝達経路であると覚えておくといいでしょう。

名称 太さ(μm) 伝導速度(m/秒) 機能
Aα(Ⅰa) 20 100 運動刺激・深部感覚
Aβ(Ⅰb) 10 50 触覚・圧覚
Aγ(Ⅱ) 5 25 筋紡錘への運動刺激
Aδ(Ⅲ) 3 13 痛み・温度覚
B 2 7 交感神経節前
C(Ⅳ) 1 1 痛み・交感神経節後

一次痛と二次痛について

痛みを伝える神経は、Aδ線維とC線維の二つです。

Aδ線維は一次痛(刺すような鋭い痛み)、C線維は二次痛(一次痛から遅れて発生するズキズキした痛み)を伝達します。

また、一次痛は浅部組織と深部組織で痛みを感じとる受容器が異なります。

一次痛(浅部組織)
侵害受容器と疼痛①
 一次痛(深部組織)
侵害受容器と疼痛②
二次痛
侵害受容器と疼痛③

痛みの記憶と認知の歪み

急性痛を慢性痛に移行させないことが大切であるとよく言われますが、具体的には「痛みに慣れないこと」が大切であると言い換えられます。

ヒトは大脳の海馬で記憶しますが、記憶とは覚えた内容や動作の電気パターンが長期間、再現されやすくなった状態を指します。これを記憶強化と呼びます。

記憶強化は痛みに対しても起こることがわかっており、持続的な痛みが加わることで痛みの電気信号を強化してしまうことになるのです。

記憶強化の性質は海馬だけでなく、痛みを中継する脊髄後角にもあることが報告されており、伝導経路および大脳の問題と考えられます。

慢性腰痛化のメカニズム|悪循環

療法士がアプローチできるポイント

痛みのメカニズムについて解説してきましたが、実際に療法士がアプローチできる部分としては、以下の5つが考えられます。

  1. 物理刺激の除去
  2. 緊張緩和と発痛物質の除去
  3. 認知の歪みを矯正
  4. 痛みの伝導路を遮断
  5. 鎮痛系の賦活(交感神経の抑制)

 

①物理刺激の除去

痛みの根本的な原因となっている侵害受容器への刺激を除去することです。

例えば、不良姿勢などが原因で限局的な負担が増加している場合、アライメントを調節することで刺激量を減らすことができます。

具体的な方法として、姿勢矯正(リアライン・トレーニング)や環境調整、補助具などの利用が考えられます。

姿勢の崩れを生む原因

姿勢の崩れが起きる原因は、①筋力(緊張)の不均衡、②疼痛回避、③関節の構造的変化、④身体的要因(肥満,妊娠など)、⑤不良姿勢の習慣化などが考えられます。

理学療法士で姿勢矯正のスペシャリストである蒲田先生が提唱するリアライン・トレーニングでは、矯正までの3ステップを以下のように解説しています。

姿勢矯正のための3ステップ

環境調整

例えば腰痛の多くは、同一姿勢を長く継続することによって痛みを誘発しますが、それは特定部位への物理刺激が続くことにより痛みが出現することを意味しています。

その中で、寝具(枕やマットレス)が身体に合っていないといった不適合性の問題が多くみられます。

高硬度のものは荷重面が少なくなるため、一カ所に圧が集中しやすくなり、腰部がリラックスした状態になれないため、翌日に疲れが残りやすくなってしまいます。

仰臥位:高硬度マットレス

反対に、低硬度の柔らから過ぎるマットレスの場合は、腰椎の生理的弯曲が崩れてしまい、こちらもまた一カ所に圧が集中してしまう原因となります。

仰臥位:低硬度マットレス

最も身体に合っているものを選ぶためには、ベッドと身体が接触している部分に違和感がなく、生理的弯曲が維持できていることを確認します。

仰臥位:中硬度マットレス

補助具

例えば変形性膝関節症(O脚)に対して、足底板(内側ウェッジ)を使用する場合は多いですが、これは膝内側にかかる物理刺激を軽減することを目的としています。

他にも、杖や歩行器などを利用して、膝関節にかかる荷重を他の部位へ分散する方法なども有効となります。

補助具の使用で物理刺激を減らす

②緊張緩和と発痛物質の除去

過緊張に伴う血流障害に対しては、マッサージなどの徒手的な治療によって緩和する方法が有効です。

ちなみに、筋緊張が亢進するメカニズムについては以下の図を参考にしてください。

筋緊張の亢進と原因

α運動ニューロンの抑制機構

筋緊張は、錘外筋を支配するα運動ニューロンの発火状態に依存しており、支配筋には常に一定の緊張状態が生じています。

このα運動ニューロンを抑制させるためには、錘内筋に適度な刺激を与えることが必要となります。

錘内筋は特殊な骨格筋で、筋紡錘(筋の伸縮状態を感知する受容器)のなかに存在しており、感知した状態に応じてα線維の興奮を調整します。

筋緊張制御に関わる経路

Ib抑制テクニック

上図の視点を少し変えてみて、筋肉の腱受容器につながっているIb線維に注目してみると、こちらもα運動ニューロンに対して抑制的に働くことがわかります。

そのため、緊張の亢進している筋肉の腱に刺激を与える(腱部を圧迫または伸張する)ことで、緊張を抑制することが可能となります。

腱受容器を利用した方法をIb抑制テクニックと呼んだりもします。

温熱療法

痛みは脊髄を介して反射的に遠心性交感神経インパルスを傷害部に送り、血行の減少、代謝異常による発痛物質の増加などの現象を引き起こします。

さらに、運動神経を介する筋緊張の亢進、血管収縮、発痛物質の蓄積、疼痛閾値の低下、精神的な痛みの増幅などの要素が加わります。

温熱療法では、血行の改善による発痛物質の除去、二次的な筋緊張の軽減、疼痛閾値の上昇などが期待できます。

③認知の歪みを矯正

認知の歪み(疼痛の記憶強化)に対しては、認知行動療法が有効と考えられます。

認知行動療法について簡単に説明すると、正しい知識を学んだり、成功体験を手に入れることで、問題となっている感情を変化させることです。

認知行動療法

図のフィルター部分を変化させることで、これまでと同じ出来事(イベント)にも関わらず、その後の考え方や行動がまったく違ってくるということですね。

疼痛の記憶強化に対しては、実際にはもう痛くないということを特定動作を反復して教え込むことで、情報を更新させることが必要になります。

④痛みの伝導路を遮断

痛みの伝導路を遮断するためには、ゲートコントロール理論を利用した方法が効果的です。

ゲートコントロール理論とは、太い神経(Aα,Aβ,Aγ)を刺激することで抑制介在ニューロンを促進させ、痛みを伝えるT細胞を抑制できるという理論です。

痛い部位を手でさすることで痛みが和らぐのはこの機序によるものです。言葉だけでは理解しづらいので、以下の図を参照ください。

ゲートコントロール理論

経皮的電気刺激(TENS)

TENSは、ゲートコントロール理論を効率的に実施するために開発された電気刺激療法であり、太い神経(Aβ)を刺激することで除痛を図ります。

その方法も簡単で、痛いところに電気が流れるパッドを貼り付けて電気を流すだけです。現在は家庭用低周波治療器として5,000円前後で購入することも可能です。

Melzack Point

メルザックポイントとは、ゲートコントロール理論の提唱者でもあるMelzack氏の名前をとって付けられた疼痛の抑制部位です。

太い神経(Aβ)を刺激することで疼痛が抑制できることは説明しましたが、それは痛みのある直上の皮膚だけでなく、同一の皮膚分節内でも可能です。

例えば、痛みを起こしている原因筋線維がT3領域にある場合、反対側のT3領域を擦ることでも除痛が可能ということです。

場所によって抑制効果はバラバラであるため、とくに除痛効果が大きい部位を抑制部位(メルザックポイント)と呼びます。

抑制部位を刺激しながら原因筋線維にもアプローチすることができるため、マイオチューニングアプローチなどの手技で採用されています。

 デルマトーム|マイオチューニング

⑤鎮痛系の賦活(交感神経の抑制)

慢性痛に対するアプローチとして、自律訓練法、EMGバイオフィードバック療法、ヨガが有効であることが報告されていますが、これらに共通することは鎮痛系を賦活させる効果があることです。

具体的には、副交感神経を有意に高めることにより、痛みを伝えるC線維(交感神経節後)を抑制させることができます。

しかしながら、鎮痛系の賦活はあくまで一時的な対症療法に過ぎず、効果を持続させるためには習慣化させる必要が出てきます。

EMGバイオフィードバック療法

EMGバイオフィードバック療法とは、視覚的または聴覚的に運動が確認できるような機器を用いて、それを本人が確認しながらフィードバックしていく治療法です。

そして最終的には、不随意で感知できないような生理的現象を、随意的にコントールが可能な状態に持っていくことです。

交感神経優位では痛みの悪循環に陥ることは説明しましたが、具体的には優位となった際の身体の変化を捉える必要があります。

日本人の8割以上は交感神経優位となっているとの報告もあるため、簡単に把握できるバイタルなどの変化は確認しておくとよいでしょう。

交感神経優位 副交感神経優位
体温
血圧
呼吸
心拍数
血行
免疫力
消化

執筆後記

私は理学療法士なのですが、医者のように手術をしたり、注射や薬物を用いて除痛を図ることはできません。

そのため、疼痛に対するアプローチは限られますが、その限られた範囲で最大限の効果を出せるように、原因の比重については正しい評価が必要となります。

そして、上述した五つのアプローチポイントを用いながら、効果的な痛みの治療が行えるようにしていくことが大切です。


お勧めの記事はコチラ

スキルアップするための情報はコチラ

スポンサードリンク

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在はフリーランスとして活動しています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme