筋緊張(筋トーヌス)と深部腱反射のメカニズムについてわかりやすく解説していきます。
筋緊張とは
筋は絶えず不随意に一定の緊張状態を保っています。この現象を筋緊張と定義されます。
筋緊張に異常を起こす原因は大きく分けて二つあり、脳卒中などによる神経系の障害によるものと、痛みや不安などによる環境的な要因のものが存在します。
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これらは互いに密接な関わりを持ちながら筋緊張を決定しているため、すべての要素に着目しながら評価していく必要があります。
運動刺激を伝える神経線維
筋緊張を理解していくうえで、神経線維を覚えるのは必要不可欠です。ただし、これをすぐに理解するというのは難しいと思います。なので、出来る限りに噛み砕いて解説していきます。
神経線維は、ErlangerとGasserによる文字式分類が有名ですが、その全てを覚えることは難しいので、以下に簡便法による覚えやすい分類を掲載します。
名称 | 太さ(μm) | 伝導速度(m/秒) | 機能 |
Aα(Ⅰa) | 20 | 100 | 錘外筋への刺激・深部感覚 |
Aβ(Ⅰb) | 10 | 50 | 触覚・圧覚 |
Aγ(Ⅱ) | 5 | 25 | 錘内筋への刺激 |
Aδ(Ⅲ) | 3 | 13 | 痛み・温度覚 |
B | 2 | 7 | 交感神経節前 |
C(Ⅳ) | 1 | 1 | 痛み・交感神経節後 |
運動神経で覚えるのは「Aα」と「Aγ」の二つだけです。錘外筋はいわゆる通常の骨格筋で、運動に関わる筋線維です。
錘内筋は特殊な骨格筋で、筋紡錘(筋の伸縮状態を感知する受容器)のなかに存在します。そして、感知した状態に応じてα線維の興奮を調整します。
また、錘内筋線維の両端部は横紋があり、錘外筋の収縮に応じて筋収縮を起こします。
【神経線維の簡単な覚え方】![]() |
名称の()内はLloydによる数学式分類ですが、意味合いはほとんど同じなので、混合して間違えないように把握しておくことが大切です。
基本的には、遠心性経路が文字式分類(Aα)で、求心性経路が数学式分類(Ⅰa)として記載されることになります。
筋緊張制御に関わる経路
筋緊張は、錘外筋を支配するα線維の発火状態に依存しており、支配筋には常に一定の緊張状態が生じています。
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上の図を見ながら考えてみると、例えば、錐体外路系に障害が生じた場合、γ線維(Ⅱ線維)によるα線維の抑制効果が働かなくなります。
すると、錘外筋に送られている一定の刺激がコントロールできずに、過剰な筋緊張が起こることになります。そのため、錐体外路系の障害では緊張は亢進します。
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反対に、錐体路系の障害が起きた場合、α線維からの一定の刺激が消失するため、正常な筋緊張が保てなくなり、緊張は低下することになります。
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少し視点を変えてみて、筋肉の腱受容器につながっているⅠb線維を見てみると、こちらはα線維に対して抑制的に働きます。
そのため、緊張の亢進している筋肉の腱に刺激を与える(腱部を圧迫または伸張する)ことで、緊張を抑制することも可能となります。
この方法をⅠb抑制テクニックと呼んだりもします。臨床でもすぐに使えるテクニックなので、試してみてください。
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筋緊張の制御方法
α線維が錘外筋を収縮させることは前述しましたが、収縮後はⅠa線維によって抑制的に働くことになります。
また、同時にγ線維は錘内筋の収縮に作用し、収縮後はⅠa線維によって運動を継続的に行えるように働きます。
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運動指令が起こってから、通常はα線維とγ線維は同時に収縮しますが、もしもα線維だけが興奮して錘外筋のみが収縮した場合、錘内筋は押しつぶされてしまいます。
その状態では錘内筋の感受性は低下してしまい、正しい運動調整ができません。そのため、錘内筋も同時に収縮し、感受性が低下しないようになっています。
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深部腱反射の亢進メカニズム
脳卒中などで錐体路障害をきたしている場合、深部腱反射が亢進することになります。その場合、筋緊張は亢進していると判断できます。
そのメカニズムとして、上述した図を引用して解説すると、錐体路系の経路には皮質核路という道も走行しており、皮質核路は錐体外路を抑制に働きます。
錐体外路の抑制が消えると、過剰な興奮がγ運動ニューロンを刺激し続けます。その結果、運動の抑制機構が破綻してしまい、深部腱反射が亢進します。
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