本記事は、糖尿病の病態基礎・Ⅰ型/Ⅱ型の違い・臨床症状・合併症の手がかり・食事・運動療法(リハビリ)までを整理したガイドです。
糖尿病の概要
糖尿病(diabetes mellitus:DM)は、インスリンの欠乏または作用不全により慢性的な高血糖を呈する疾患群です。
診断には血糖・経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)・HbA1c(NGSP)など複数の基準が用いられ、HbA1c 6.5%以上は診断基準の一つです。
HbA1cとは、赤血球ヘモグロビンにブドウ糖が非酵素的に結合した割合で、過去2〜3か月の平均血糖を反映します。
Ⅰ型糖尿病とⅡ型糖尿病
- Ⅰ型:自己免疫・遺伝因子などにより膵β細胞が破壊され、インスリンが絶対的に不足。
- Ⅱ型:インスリン抵抗性と分泌低下の相互作用。日本では大多数がⅡ型で、遺伝素因に生活習慣(食事・運動不足・肥満など)が重なり発症。
従来の「Ⅰ型=先天性/Ⅱ型=後天性」という二分は不正確です。Ⅱ型にも遺伝的素因が関与します。
Ⅰ型とⅡ型の特徴比較
| 項目 | Ⅰ型 | Ⅱ型 |
|---|---|---|
| 発症年齢 | 小児・若年に多い | 中年以降に多い |
| 発病様式 | 急性/亜急性 | 緩徐(無症状のことも) |
| 体型 | やせ型が多い | 発症前に肥満が多い |
| ケトアシドーシス | 起こりやすい | まれ |
| 血糖の安定性 | 不安定になりやすい | 比較的安定 |
| 家族歴 | あり | 濃厚 |
| ICA/GAD抗体 | しばしば陽性 | 通常陰性 |
| HLAとの関係 | あり | なし |
| 自己免疫疾患合併 | しばしば | なし |
| C-ペプチド | 著減 | 正常〜低下(時に増加) |
| インスリン治療 | 生存に不可欠 | 必要な場合がある |
Ⅱ型糖尿病は現代人の“宿命”か
「節約遺伝子」仮説のように、飢餓に適応した特性が現代の高カロリー環境で不利になるという説明があります。
ただし学術的には諸説あり、実務的には生活習慣(過剰摂取・運動不足)×遺伝素因の相互作用として理解します。
インスリンは血糖を細胞内へ取り込ませ、筋・肝にグリコーゲン、脂肪組織に中性脂肪として貯蔵させます。
重度のインスリン不足では糖利用ができず、脂肪や筋肉を分解して代替エネルギーを作るため体重減少が起こります。
糖尿病の特徴
- 遺伝因子×環境因子の相互作用で発症。
- インスリン作用不足に伴う持続的高血糖と糖代謝異常。
- 重症化でケトアシドーシスや非ケトン性高浸透圧症候群を来すことがある。
- 三大合併症:網膜症・腎症・神経障害。
臨床症状
血糖が腎の糖排泄閾値を超えると尿糖が出現し、多尿→脱水→口渇・多飲が目立ちます。
糖が利用できないため脂肪・筋分解が進み体重減少・倦怠感が生じます。
Ⅰ型では脂肪分解亢進とケトン体増加により糖尿病性ケトアシドーシス(口渇・多尿・悪心嘔吐・腹痛・意識障害など)を来すことがあります。
合併症の手がかり
| 障害 | 初期症状 | 末期症状 |
|---|---|---|
| 網膜症 | 視力低下・眼精疲労 | 失明 |
| 腎症 | 浮腫・貧血様症状・倦怠感 | 腎不全 |
| 神経障害 | しびれ・疼痛・便秘 | 感覚鈍麻 |
| 足病変 | 水疱・潰瘍 | 壊疽・切断 |
糖尿病の治療目標
目的は合併症の予防・進展抑制とQOLの維持です。
Ⅱ型では体重減少(例:3〜7%以上)で血糖管理が改善し、症例によっては寛解(remission)が得られる場合もあります。
治療は①食事 ②運動 ③薬物を個別に組み合わせます。
食事療法(栄養療法)の要点
- 個別化が原則:文化・嗜好・合併症・体重目標に合わせて設計。特定のマクロ比に“絶対解”はありません。
- 糖質の質と量:低GI/GLや食物繊維の活用、精製糖質を控え、総エネルギーを適正化。
- 食事パターン:地中海食・低糖質食など複数が選択肢。長期の安全性や脂質プロファイルは医療者とモニタリング。
- 脂質:飽和脂肪酸は控えめにし、魚や植物油など不飽和脂肪酸を適量に。
運動療法(リハビリ)の要点
- 頻度・量:中等度〜強度の有酸素運動を週150分以上(3日以上に分け、2日以上連続の不活動を避ける)。150分未満でも時間依存的に改善が見込めます。
- レジスタンス:週2〜3日、主要筋群を中心に。減量時は筋トレ併用でサルコペニア予防。
- 座位中断:30分ごとに立位や軽運動でブレイク。
- 低血糖対策:Ⅰ型/インスリン使用時は開始前の血糖・ケトン確認、補食や投与量調整を検討。
- 合併症の配慮:増殖網膜症は高強度・バルサルバ回避、足潰瘍時は荷重運動を控えるなど個別の禁忌に従う。
よくある質問(FAQ)
Q. 運動の強度はどう決める?
A. 会話が可能な中等度を基本に、心拍・自覚症状・血糖のモニタリングで個別調整します。
Q. 食事と運動の順番は?
A. 低血糖リスクがある場合は食後の軽〜中等度の有酸素から。夜間の高強度は避けると安全です。
Q. 自宅でできるメニューは?
A. 速歩・サイクリング・踏み台昇降などの有酸素+スクワット/プッシュ/ヒップヒンジ等の自重筋トレを推奨。