翼状肩甲のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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翼状肩甲の概要
手を挙げたときに肩甲骨の内側縁が浮き上がり、翼のように見えることから名付けられました。主な原因は長胸神経が損傷することにより、前鋸筋が麻痺することで起こります。
前鋸筋の収縮が得られなくなると、肩甲骨の内側縁が浮き上がってしまい、手を挙げることができなくなります。
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前鋸筋(長胸神経)の麻痺
長胸神経が損傷する原因として、腕を急激に振り抜くような動き(テニスのサーブやゴルフのスイングなど)、添い寝などの長時間の伸張が原因となります。
または、重いリュックなどを長時間に背負うことにより、長胸神経が圧迫されることでも起こります。これらは受傷機転がはっきりとしているため、原因を特定することは容易です。
斜角筋隙の圧迫でも起こる
徐々に悪化していった場合は、胸郭出口症候群を疑うことができます。胸郭出口症候群とは、腕神経叢の圧迫あるいは牽引に起因する神経・血管症状を主体とする疾患です。
腕神経叢を圧迫する原因部位として、①斜角筋隙、②肋鎖間隙、③小胸筋下間隙の三つが存在しますが、長胸神経に麻痺を起こすのは、斜角筋隙が圧迫された場合のみです。
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この場合は、肩甲上神経や肩甲背神経、腕神経叢から分岐した末梢の神経にまで麻痺が及びます。
翼状肩甲が起こる機序
まず、肩甲骨を胸郭に引き付ける筋肉として、前鋸筋と大菱形筋が存在します。これらの筋肉が適度な緊張を保ちながら、肩甲骨の位置を調整しています。
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長胸神経が麻痺することにより、前鋸筋の緊張が発揮できなくなった場合、肩甲骨の内側縁が浮き上がった状態となります。
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斜角筋隙の圧迫などにより、肩甲背神経まで麻痺してしまった場合、大菱形筋の緊張まで失ってしまうことになります。
この場合、大菱形筋が付着している肩甲骨下角部がより大きく浮き上がります。
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僧帽筋(副神経)の麻痺
僧帽筋の支配神経である副神経やC2-4頚神経が麻痺した場合も、翼状肩甲が生じます。
しかし、その形状は前鋸筋麻痺とは大きく異なり、僧帽筋が原因の場合は内側縁全体が少し浮き上がるような形状となります。
上肢を外転させることにより、より顕著に確認することが可能です。(前鋸筋の場合は上肢を屈曲する際に顕著となる)
三角筋や棘下筋の短縮
その他の原因として、三角筋の短縮による肩関節の外転拘縮、棘下筋および小円筋の短縮による外旋拘縮が原因でも起こります。
そのため、肩に痛みや過度な緊張がないかを確認し、対象の筋に対してリラクゼーションを行ったあとに、翼状肩甲に変化があるかを確認していきます。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
筋ジストロフィーの一種で、常染色体優性遺伝をとりますが、遺伝はなく突然変異で発生する場合も相当数あることがわかっています。
初期症状として、①表情が乏しくなる(顔面の筋力低下)、②腕を挙げられなくなるなどがあります。とくに肩甲帯周囲の筋萎縮が著明なので、翼状肩甲が発生します。
発生年齢は0歳から65歳までと幅広いですが、思春期までに気付かれる場合が大半となっています。
翼状肩甲の原因を鑑別
原因部位 | 検査方法 |
長胸神経麻痺 | 上肢を屈曲させる(または壁に両手をあてて上体を前方に倒す)と、麻痺側の肩甲骨の内側縁が浮き上がる |
副神経麻痺 | 上肢を外転させると肩甲骨の内側縁全体が浮き上がる、僧帽筋の萎縮や筋力低下がある |
斜角筋隙での圧迫 | 上肢を屈曲させると、麻痺側の肩甲骨の下角部が大きく浮き上がる、モーレーテストが陽性となる |
筋肉の短縮 | 肘を体に付けて90度屈曲位とし、肩関節を内旋させていくと肩甲骨が浮き上がる |
筋ジストロフィー | 血液検査にて逸脱酵素(GOTやGPT)の値を調べる |
おわりに
翼状肩甲を起こす原因と、その検査方法について解説してきましたが、筋ジストロフィーの場合は早期の発見が重要となります。
そのためにも、原因を確実に突き止めていくことが必要になります。
引用画像/参考資料
1)日本整形外科学会HP