肘筋の概要

肘筋は肘関節伸展の補助として働き、前腕回内時の尺骨外転を助けます。起始の一部は肘関節包(後外方)へ移行し、肘屈曲時の関節包挟み込みを防止、関節安定化にも寄与します。テニスのバックハンドのような反復動作で過負荷となることがありますが、筋自体は小さく薄いため損傷は稀です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支配神経 | 橈骨神経(肘筋枝) |
| 髄節 | C7–C8(文献によりT1を含むことあり) |
| 起始 | 上腕骨外側上顆後方および肘関節包(後外側) |
| 停止 | 尺骨肘頭外側面〜近位1/4後面 |
| 栄養血管 | 上腕深動脈、反回骨間動脈 |
| 主動作 | 肘伸展の補助、回内時の尺骨外転、後方関節包の張力維持 |
| 筋体積 | 約11 cm³ |
| 筋線維長 | 約8.5 cm |
運動貢献度(順位)
| 貢献度 | 肘関節伸展 |
|---|---|
| 1位 | 上腕三頭筋 |
| 2位 | 肘筋 |
※小筋ながら、肘伸展を担う数少ない筋。終末伸展域の関節安定化に関与します。
触診方法

- ランドマーク:尺骨肘頭外側〜上腕骨外側上顆へ斜走。
- 開始肢位:肩最大伸展、肘軽度屈曲、手関節背屈。
- 手技:走行に沿って縦方向に押圧し、ゆっくり肘伸展で硬化を触れる。
- 鑑別のコツ:上腕三頭筋・尺側手根伸筋・総指伸筋の活動を極力抑え、前腕回内位で確認。
トリガーポイント(TP)

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主訴:肘の後外側(外側上顆〜肘頭周囲)の局所圧痛と鈍い痛み(テニス肘様)で、終末伸展や回外・把握動作で増悪。
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誘因:ドライバー/マウスなどの反復作業、プッシュアップや起き上がり時の荷重伸展、投球・ラケット動作、杖/松葉杖使用、肘の打撲・捻挫や長時間の屈曲位固定。
よくある誤解と鑑別
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テニス肘(外側上顆炎):主座は短橈側手根伸筋(ECRB)。ただし回内+終末伸展で痛みが増し、外側上顆後方の限局圧痛が強いときは肘筋関与を疑う。
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橈骨神経障害:外側肘痛に知覚異常・伸筋筋力低下が伴えば神経学的評価を追加。
介入の目安
徒手:後外側の滑走不全改善(皮下での横断摩擦は最小限・短時間)。
運動:
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等尺性肘伸展(痛み耐容内、5–10秒×5–10回)
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低負荷での終末伸展コントロール(フォーム優先、反動なし)
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回内位での軽い伸展反復→回内時の尺骨外転補助の再学習
セルフ:壁押しの軽負荷プッシュ(手幅や回内位を調整し無痛域で)。
クリニカル・パール
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外側肘痛で握力低下が主訴ならECRB優位、終末伸展で増悪なら肘筋・後方軟部の関与を再検討。
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**圧痛点が外側上顆の「後方寄り」**で細長い帯状に触れるなら肘筋を疑う。
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翌日24時間を超える残痛が出る負荷は調整対象。
よくある質問(Q&A)
Q1. 肘筋と上腕三頭筋遠位部は触り分けられますか?
A. 可能です。回内+軽度屈曲位からゆっくり伸展すると、三頭筋が表層で張る前に外側上顆後方の薄い帯状の硬化(肘筋)を拾いやすくなります。
Q2. テニス肘で肘筋を狙う判断基準は?
A. 回内+終末伸展で痛み再現+外側上顆後方の限局圧痛が強い場合。ECRB中心の介入に肘筋の滑走改善・等尺伸展を加えると奏功することがあります。
Q3. 損傷はまれですか?
A. はい。肘筋自体の損傷はまれで、過負荷による疼痛・滑走不全として現れることが多いです。
最終更新:2025-10-11
