肘関節脱臼のリハビリ治療

肘関節脱臼の概要

肘関節脱臼

  • 型:肘関節脱臼の大半は後方脱臼、次いで後外側脱臼です。
  • 機転:転倒で手をついて受傷(フォール・オン・アウトストレッチド・ハンド)することで、尺骨が上腕骨に対して後方へ外れます。
  • 年齢:骨折になりやすい高齢者より、思春期~成人に多く見られます。
  • 第一選択:多くは保存療法(短期固定+早期運動)が選択されます。合併損傷が大きい場合や不安定性が残る場合は手術を検討します。

肘関節の構造

肘関節|前面

肘関節は上腕骨、尺骨、橈骨の3つの骨から成り、これらはひとつの関節包に包まれ、複合関節として機能しています。

  1. 腕尺関節:上腕骨滑車と尺骨滑車切痕で構成される蝶番関節(または螺旋関節)で、肘関節の屈曲・伸展に作用し、骨性の安定性に最も寄与します。
  2. 腕橈関節:上腕骨小頭と橈骨頭窩で構成される球関節で、肘関節の屈曲・伸展、前腕の回内・回外に関与します。近
  3. 位(上)橈尺関節:橈骨頭の関節環状面と尺骨の橈骨切痕で構成される車軸関節で、前腕の回内・回外に作用します。

肘関節の支持性は、関節包や強力な側副靱帯によって高められています。

  • 内側側副靱帯(MCL):前斜走線維(AOL)、後斜走線維(POL)、横走線維からなり、特にAOLは外反制動の第1スタビライザーとして働きます。
  • 外側側副靱帯複合体(LCL):橈骨輪状靱帯や外側尺骨側副靱帯(LUCL)などからなり、特にLUCLは内反制動とともに、後外側への回旋不安定性(PLRI)を防ぐ第1スタビライザーとなります。

肘関節|前面|靱帯

受傷機転

単純肘関節脱臼は、ラグビーなどのコンタクトスポーツやスケートでの転倒による受傷が多いことが報告されています。また、高齢者では荷物を持ったまま転倒して受傷するケースもあります。 肘関節は解剖学的に軽度の外反(キャリングアングル:運搬角)を呈しているため、伸展位で手をつくような外傷では、外反ストレスが加わりやすいのが特徴です 。

損傷されやすい組織

  • 靱帯・関節包:伸展位で手をつくと外反力によりまずMCLが損傷されやすく、後方への脱臼に至る過程でLCL(LUCLなど)や前方・後方関節包も同時に損傷されることが多くなります。LUCLの破綻は、前腕回外位で橈骨頭が後方へ亜脱臼する「後外側回旋不安定性(PLRI)」を引き起こします。
  • 合併骨折:MCL損傷や後方脱臼に伴い、橈骨頭・頸部骨折や鉤状突起骨折、上腕骨顆部骨折などをしばしば合併します。骨片が大きいほど機能予後は悪化しやすくなります。
  • 神経/血管:尺骨神経、正中神経、橈骨神経、上腕動脈の損傷や圧迫の評価は毎回実施します。

経過の目安

変形は明瞭で見逃しは稀です。

  • 1–2週:安静時痛はほぼ消退し、屈伸時痛が主体となります。
  • 2–3か月:運動時痛・腫脹はほぼ消失します。ただし、靱帯損傷の程度により不安定性が残る例があります。

整復と初期対応

  • 徒手整復(鎮痛/鎮静下で実施):肘軽度屈曲+前腕回外位で牽引し、鈎状突起が滑車を乗り越える感触で整復します。
  • 整復後は神経・血管の再評価と、X線で位置確認を行います。必要に応じてCTで骨片を確認します。
  • 単純肘関節脱臼において、早期運動・短期固定と手術とで長期成績の有意差は少ないとの報告があり、治療方針は不安定性や合併損傷の程度で決定します。

手術適応(目安)

  • 広範囲の軟部損傷で、伸展30–45°以上にすると再脱臼する場合。
  • 明らかな骨折合併(橈骨頭、鉤状突起、肘頭、上腕骨顆部など)で整復保持が困難な場合。
  • 方法:MCLやLCLの靱帯修復・再建、必要に応じた骨折部の固定術。

肘関節脱臼|手術

予後の要点

  • 骨傷なし~小剥離(2–3mm):予後良好。回内外制限は0~30°以内が多い。
  • 中等度骨片(上腕骨内外側上顆):やや劣るが約8割は回旋制限30°以内に収まる。
  • 橈骨頭・鉤状突起骨折合併:回旋60°以上の制限残存が半数を超え、屈伸制限や疼痛も残りやすい。

リハビリテーション(保存療法)

基本原則:固定期間は1–2週以内を目安に短くします。長期間の固定は軟部組織の癒着や伸張性低下を招き、関節拘縮の要因となります。痛みのない範囲からの早期ROM運動は、不安定性や再脱臼のリスクを増やさないとされています。

1.受傷直後(約0-1週間)
物理療法 寒冷療法(腫脹軽減)、電気療法、超音波療法(治癒促進)
運動療法 患部外トレーニング(肩甲胸郭関節機能の向上)
可動域運動 疼痛のない範囲で維持的に実施
2.固定除去後(1-5週間後)
物理療法 寒冷療法(腫脹軽減)、電気療法、超音波療法(治癒促進)
運動療法 肘伸展筋力と外反制動機能のOKCトレーニング
可動域運動 肘伸展および屈曲を拡大的に実施
3.積極的運動期5週以降)
運動療法 四つ這いからの患側体重移動、腕立て伏せなどのCKCトレーニング
可動域運動 肘頭のモビライゼーション
特異動作 スポーツ復帰に向けての専門的なアドバイスとトレーニング

禁忌/注意:LCL(LUCL)の破綻による「後外側回旋不安定性(PLRI)」を誘発しやすい**「肘伸展+前腕回外位での外反・軸圧ストレス(手をつく動作など)」は初期には厳禁**です。痛みと腫れが戻る負荷は翌日に残らない強度へ調整します。

スポーツ復帰の目安

  • ROMと筋力が健側の80%以上。
  • 脱臼を誘発する肢位(伸展+回外、および内反・外反ストレス)での不安定感や恐怖感がない。
  • 競技や合併損傷により差はあるが、概ね3–6か月が一般的。

日常生活の注意

  • 体重を手で支える動作(床からの立ち上がり、深い前方へのつかまり)は初期には回避します。
  • ドア押し・重い鍋持ちなどは**肘軽度屈曲位で近位(体に近く)**で行い、関節への剪断力や外反ストレスを減らします。
  • 就寝時は枕などで前腕を支持し、疼痛を誘発する姿勢を避けます。
  • しびれ・冷感・色調変化が出たら医療機関へ(神経/血管合併のサイン)。

よくある質問(FAQ)

Q1. どのくらい固定しますか?
A. 多くは1–2週以内です。長すぎる固定は拘縮の原因。医師指示下で早期ROMを始めます。

Q2. すぐに動かして大丈夫?
A. 痛みのない範囲の軽い屈伸は早期から推奨されます。再脱臼リスクは上がりません

Q3. 手術は必要?
A. 広範軟部損傷で伸展すると再脱臼する、骨折合併が大きい、整復が保持できない等は手術検討です。

Q4. 後遺症で多いのは?
A. 可動域制限(特に伸展)回内外の制限、まれに不安定性神経症状。早期ROMと浮腫管理が鍵。

Q5. いつ運動再開できますか?
A. 競技により異なりますが、日常動作→軽負荷CKC→競技動作の順。3–6か月を目安に段階復帰。

Q6. 自宅でできること?
A. 指/手首/肩のポンピング、痛みがない範囲の肘曲げ伸ばし冷却・挙上姿勢工夫(体に近い位置で物を持つ)。

Q7. どんな時に受診?
A. 強い痛みの再燃、しびれ/力の入りにくさ、手指の蒼白・冷感、熱感/発赤の増悪、夜間痛の悪化は再評価が必要です。

Q8. 再脱臼を防ぐコツは?
A. 初期は肘伸展+回外+荷重を避け、MCL/LCLに過度な外反/内反ストレスをかけない。段階的に筋力とCKCを積み上げる。


最終更新:2026-06-30