肘頭骨折の概要
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受傷機転
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直達外力:肘を 屈曲位 で強打して発生
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介達外力:転倒時に手をついた瞬間、上腕三頭筋の牽引で発生
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特徴
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多くが関節内骨折(滑車切痕を巻き込む)
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骨片は上腕三頭筋の緊張で後上方へ転位しやすい
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治療の原則
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転位なし(段差・離開がごく小さい)→ 保存療法
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転位あり/関節面不整あり → 手術療法(整復固定)
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分類:Colton分類(概要)
Colton分類によって、肘頭骨折は以下の4つのタイプに分類することができます。
| Type 1 | Type 2 | Type 3 | Type 4 |
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さらに「Type 2」は、転位の有無などによって四段階に分けられます。
| Type 2A | Type 2B | Type 2C | Type 2D |
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具体的な分類基準は以下になります。
| 型 | 名称・イメージ | 判定のコツ・臨床メモ |
|---|---|---|
| Ⅰ型 | 裂離骨折(横骨折) | 高齢者に多い。三頭筋牽引で肘頭端が抜けるタイプ。関節面段差が小さければ保存候補。TBW適応になりやすい。 |
| Ⅱ型 | 斜骨折(最頻) | 滑車切痕最深部から背側へ走行することが多い。2A〜2Dに細分化。 |
| ⅡA | 単純斜骨折 | 転位の有無は不問。整復保持性が良ければTBW/スクリューの選択肢。 |
| ⅡB | ⅡA+第3骨片あり・転位なし | 三角小骨片の扱いがポイント。固定性次第でTBWかプレート。 |
| ⅡC | ⅡA+第3骨片あり・転位あり | 関節面整復の難度↑。プレートでの強固固定を検討。 |
| ⅡD | ⅡA+第3骨片が粉砕 | 関節面再建+プレートが第一選択になりやすい。 |
| Ⅲ型 | 脱臼骨折(モンテジア型など) | 橈骨頭脱臼などの複雑損傷を合併。不安定病態としてプレート固定+合併損傷への同時対応。 |
| Ⅳ型 | 広範粉砕 | 肘頭のみならず前腕骨幹部や上腕骨遠位端骨折を合併しやすい。段階的再建と強固固定。 |
※運用は施設差あり。近年はMayo分類で安定性・粉砕を指標に決める施設も多い。
Colton ↔ Mayoの目安対応
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Colton Ⅰ/ⅡA ≒ Mayo Type I(非転位)〜 Type II(転位・安定)
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Colton ⅡC〜ⅡD ≒ Mayo Type II(転位・安定)でも粉砕強い場合
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Colton Ⅲ・Ⅳ ≒ Mayo Type III(不安定:脱臼合併/再脱臼傾向)
(※厳密な一対一対応ではありません。安定性・粉砕・合併損傷で最終判断)
手術療法と選択の目安
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引き寄せ鋼線締結法(Tension Band Wiring; TBW)
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代表的術式。屈曲力を圧迫力へ変換して関節面を安定化。
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適応:単純横〜斜骨折(Ⅰ・ⅡAなど)、骨片が大きく固定性が見込める症例。
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ロッキングプレート固定
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粉砕や骨質不良(高齢・骨粗鬆症)でTBW不適な場合に有用。ⅡD・Ⅳ型など。
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髄内スクリュー/スーチャーブリッジ など
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小骨片の裂離や小児・骨端線配慮など症例に応じて選択。
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術後方針
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可能であれば早期からROM訓練を開始(固定性・皮膚軟部組織の状況に依存)。
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抵抗性の肘伸展(上腕三頭筋負荷)は当面回避(骨癒合・創治癒が安定するまで)。
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合併症に注意:拘縮、骨癒合不全・遷延癒合、内固定刺激痛、尺骨神経刺激症状、感染、異所性骨化など。
保存療法の目安
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適応:転位が極軽度で関節面の段差が小さい場合(施設基準により閾値は異なる)。
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固定:シーネ/キャストで肘を軽度屈曲〜伸展位に保持(主治医指示に従う)。
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早期からの可動:痛み・腫脹が落ち着いた範囲で手指・肩・前腕回内外は積極的に動かす。
リハビリテーション(目標:機能的肘可動域の獲得)
目安:屈曲30–130°+回内外合計100°(ADL機能域)
1)急性期(固定中)
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装具:キャスト/シーネ
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患部外トレ:肩関節(特に屈曲・外旋)、手指・前腕の回内外、肩甲帯の可動
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腫脹管理:挙上・冷却・圧迫(医師の許可範囲で)
2)回復期(固定除去後)
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物理療法:温熱・渦流浴、必要時アイシング(疼痛・腫脹に応じて)
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ROM:自動/自動介助で痛みのない範囲から。終末域は漸増。
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軟部組織:関節包・上腕三頭筋腱周囲のリラクセーション/軽摩擦
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ストレッチング:屈曲拘縮>伸展拘縮になりやすい点を意識して調整
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筋力:等尺性から開始 → 等張へ。抵抗性の肘伸展(上腕三頭筋負荷)は医師許可後に段階的再開。
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スプリント:漸次的静的スプリント(夜間に最大伸展位で装着→改善分を再設定)で伸展可動域を拡大
3)復帰期
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機能練習:押す・支える・起き上がる等のADL動作を段階的に再学習
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スポーツ:投球動作は肩・体幹連動の再獲得後、肘伸展負荷を最終段階で導入
痛みが強い時期に無理なROM強行は拘縮を助長。**“痛みなく、でもサボらず少しずつ”**がコツ。
上腕三頭筋と肩の配慮
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上腕三頭筋は肘頭停止。術後早期は伸展抵抗運動を控える。
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長頭は肩伸展・内転にも関与 → 肩の過大負荷で三頭筋に張力が乗るため、肩の運動範囲・抵抗量も適切にコントロール。
よくある質問(Q&A)
Q1. いつ手術になりますか?
A. 一般に転位や関節面不整がある場合、固定性を得て早期ROMに移るため手術が選択されます。判断は骨折型・年齢・骨質で総合的に行われます。
Q2. 術後はいつから動かせますか?
A. 固定性と軟部の状態が許せば早期からROMを始めます。抵抗性の肘伸展(三頭筋負荷)は医師の許可後に段階的に。
Q3. リハで一番多いつまずきは?
A. 屈曲拘縮の残存です。夜間の静的スプリントと日中のこまめな自動運動を併用し、痛みの強い時期に無理をしないことが大事。
Q4. いつから体重をかけていい?(椅子からの立ち上がりなど)
A. 骨癒合の進行と医師の許可が前提。上肢で強く“押す”動作は三頭筋負荷が高いため、後期に解禁が一般的です。
Q5. 金属は抜きますか?
A. 痛みや皮膚刺激がなければ温存することも多いですが、疼痛・出血・皮膚刺激があれば抜釘を検討します(医師と相談)。
Q6. 再発や後遺症が心配です。
A. 拘縮予防と段階的負荷が最大のポイント。しびれ・疼痛の遷延、可動域の頭打ちは早めに主治医へ相談を。
最終更新:2025-09-08









