肘頭骨折のリハビリ治療

肘頭骨折の概要と臨床的特徴

肘頭骨折の転位

肘頭骨折は、肘関節を構成する尺骨近位端の骨折であり、全骨折の約1%を占めます 。肘頭には上腕三頭筋が停止しており、その強力な牽引力が病態に大きく関与します 。

  • 受傷機転
    1. 直達外力: 肘を屈曲位で強打することで発生します 。
    2. 介達外力: 転倒して手をついた際、上腕三頭筋が急激に収縮(牽引)することで発生します 。これは高齢者の裂離骨折によく見られる機転です。

解剖学的・臨床的特徴

  • 関節内骨折: 多くが滑車切痕を巻き込む関節内骨折であり、解剖学的整復が不可欠です 。
  • 骨片の転位: 上腕三頭筋の緊張により、近位骨片は後上方(近位方向)へ転位しやすい性質があります 。
  • 合併損傷: 橈骨頭脱臼を伴うモンテジア(Monteggia)型脱臼骨折や、側副靭帯損傷を合併することがあります 。

骨折分類:Colton分類

治療方針の決定にはColton分類が汎用されます。これは骨折線の方向や転位、粉砕の程度に基づいています。

Type 1  Type 2 Type 3 Type 4
肘頭骨折の分類(Colton分類)type1 肘頭骨折の分類(Colton分類)type2 肘頭骨折の分類(Colton分類)type3 肘頭骨折の分類(Colton分類)type4

さらに「Type 2」は、転位の有無などによって四段階に分けられます。

Type 2A Type 2B Type 2C Type 2D
肘頭骨折2a 肘頭骨折2b 肘頭骨折2c 肘頭骨折2d

具体的な分類基準は以下になります。

名称・病態
臨床的特徴・治療の示唆
I型
裂離骨折(横骨折)
上腕三頭筋の牽引による。転位が2mm以下なら保存、それ以上はTBWの適応
II型
斜骨折
滑車切痕から背側へ走る。最も頻度が高い。安定性によりステージA〜Dに細分化される
IIA
単純斜骨折
骨片が大きく整復保持が良好なもの
IIB
第3骨片あり(不転位)
小骨片があるが、全体のアライメントは保たれているもの
IIC
第3骨片あり(転位あり)
関節面の不整があり、強固な内固定(プレート等)が必要となることが多い
IID
第3骨片の粉砕
関節面の再建が困難な難治例
III型
脱臼骨折
モンテジア型など。関節の不安定性が強く、複雑な損傷を伴う
IV型
広範粉砕骨折
肘頭だけでなく、前腕骨幹部などを含む重症例

治療の原則と手術療法

治療方針の選択

  • 保存療法: 転位が2mm以下で、肘屈曲位でも転位が増強しない場合に適応となります 。
  • 手術療法: 2mm以上の転位や関節面の段差がある場合に選択されます 。

代表的術式

  1. 引き寄せ鋼線締結法(Tension Band Wiring; TBW)
    1. 原理: 三頭筋の牽引力(引張応力)を骨折面への「圧迫力」に変換するバイオメカニクス的利点があります 。
    2. 適応: I型やIIA型などの単純な横・斜骨折に最適です 。
  2. ロッキングプレート固定: 粉砕が強い場合や、TBWでは保持が困難な粉砕骨折(IIC〜IV型)に用いられます 。
  3. 髄内スクリュー・スーチャーブリッジ: 小児の骨端線への配慮が必要な場合や、小骨片の固定に選択されます。

肘頭骨折|手術|鋼線締結法


リハビリテーション(目標:機能的可動域の獲得)

目標とする機能的可動域(ADL機能域)は、屈曲30〜130°、回内外合計100°です 。肘関節は拘縮を起こしやすいため、早期の可動域運動が推奨されますが、固定力に応じた負荷管理が重要です 。

1)急性期(術後〜2週:保護期)

  • 管理: 腫脹対策として患部の挙上とアイシングを行います 。
  • 患部外トレーニング: 指・手関節、肩関節の自動運動を積極的に開始します 。
  • 注意点: 術後早期の強力な受動運動(他動運動)異所性骨化や炎症を招く恐れがあるため、愛護的に行います 。

2)回復期(2週〜6週:可動域獲得期)

  • ROM訓練: 自動運動または自動介助運動を中心に、痛みのない範囲から開始します 。
  • 上腕三頭筋の管理: 肘頭停止部への負荷を避けるため、抵抗下の肘伸展運動は厳禁です 。
  • 軟部組織アプローチ: 瘢痕化した皮膚や皮下組織の滑走性を改善させるため、軽摩擦やリラクセーションを行います 。三頭筋腱周囲の滑走不全は屈曲制限の要因となります。
  • 物理療法: 抜糸後は温熱療法(温熱・渦流浴)を併用し、組織の伸展性を高めます 。

3)復帰期(6週〜:筋力・機能回復期)

  • 筋力トレーニング: 骨癒合の進行を確認後、段階的に抵抗運動を開始します。等尺性収縮から始め、等張性運動へ移行します 。
  • 持続伸張: 頑固な屈曲拘縮(伸展制限)に対しては、ターンバックル式スプリントなどの装具を用いた持続伸張が有効です 。
  • ADL動作: 「押す」「支える」などの動作は三頭筋に高負荷がかかるため、医師の許可を得てから再学習します。

臨床上の注意点と合併症

  • 上腕三頭筋の二面性: 三頭筋は肘の伸展主動作筋であると同時に、骨折部を離開させる「破壊力」としても働きます 。初期は三頭筋を収縮させない肢位での可動域運動(例:前腕回内位での自動介助屈曲)が推奨されます 。
  • 尺骨神経麻痺: 肘頭の近傍を尺骨神経が走行しているため、受傷時や手術侵襲、あるいは内固定材による刺激で尺骨神経症状(小指の痺れなど)が出現することがあります 。
  • 屈曲拘縮の予防: 肘頭骨折では伸展制限(屈曲拘縮)が残りやすい傾向があります。夜間の静的伸展スプリントの装着などが有効な対策となります。

よくある質問(Q&A)

Q. なぜ手術が必要なのですか?
A. 肘頭は関節の一部であり、少しのズレが将来的な変形性関節症や可動域制限に直結します。また、三頭筋の力で骨が離れてしまうため、手術でしっかり固定して早期に動かすことが、機能回復の近道となります 。

Q. リハビリで「痛くても動かすべき」と言われましたが?
A. 無理な強行は逆効果です。強い痛みは筋肉の防御性収縮を招き、さらに硬くなるだけでなく、骨化性筋炎などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあります 。**“痛みなく、でも着実に”**が原則です。

Q. 術後の三頭筋トレーニングはいつから?
A. 一般的には術後6週間以降、骨癒合の兆候が見えてから開始します 。ただし、等尺性収縮(動かさない筋収縮)などは、固定性に応じてより早期から許可される場合もあります。

Q. 手術後の金属(ワイヤーやプレート)は一生入れたままですか?
A. 肘頭は皮下組織が薄いため、金属が皮膚を刺激して痛みや不快感を生じやすい部位です。症状がある場合は、骨癒合が完了する術後1年程度を目安に抜釘(ばってい)を検討することが一般的です。


最終更新:2026-05-14