肩の痛みで腕が上がらない患者の原因と治療法について

外来リハビリで肩の痛みを訴える患者をみていると、そのほとんどが3つの原因に分類されることがわかってきました。

それらを効率的に見分ける方法と、具体的な治療法についてここでは解説していきます。

痛みの原因は主に、①肩関節周囲炎、②肩関節包の拘縮、③棘上筋腱損傷(インピンジメント含む)の3つが挙げられます。

これらを鑑別するために有用な方法は、肩関節を挙上(屈曲・外転)させることと、痛みの経過を聞くことです。

肩関節の最終挙上位で痛みを訴える場合は、肩関節周囲炎や関節包の短縮が疑われます。

棘上筋腱損傷の場合は、挙上をする途中で痛みを訴え、最終域ではあまり痛みを伴わないことが特徴です。

次に痛みの経過ですが、肩関節周囲炎は痛みが山なりに変化していきますので、発症から3ヶ月ぐらいまでは徐々に痛みが悪化していきます。

そこからは徐々に痛みが軽減していき、その後は肩関節が挙がらないことが主訴となります。

肩関節包の拘縮の場合は、痛みは一定で変化がみられないか、適切な治療を受けていないなら徐々に悪化している傾向にあります。

肩関節周囲炎のように山なりの経過をたどりませんので、場合によっては痛みが何年も続いていたりします。

拘縮に加えて炎症が存在していると、施術によって炎症を強めたり、数日したら元の状態に戻ると訴えられることも多々あります。

棘上筋腱損傷の場合は、受傷機転があるなら見分けやすいですが、高齢者などでは明確な原因が見当たらない場合も少なくありません。

その際は、発症から痛みは一定で変化がみられないか、または発症から徐々に痛みが緩和または悪化していきます。

明確な受傷機転がない場合、その多くはインピンジメント症候群が起きているので、そこを見逃さないように注意します。

筋力検査を行うことで、より確実な診断ができますので、棘上筋腱損傷が疑われる際は腱板構成筋の出力をチェックしてください。

ここまでに肩の痛みに関わる代表的な3つの原因と、その簡易的な検査法について記述してきました。

とりあえずこの辺りをおさえておくだけである程度の状態は把握できるので、ここからは原因を仮定して治療を行なっていきます。

具体的な治療法を書いていくと、肩関節周囲炎の場合は、現在の患者がどの過程を通過しているかを判断することが大事です。

発症から約3ヶ月までは炎症や拘縮がピークに向かっているので、ここでどんな施術をしたとしても効果はほとんどありません。

唯一、エビデンスで効果があると認められている方法は、「痛みのない範囲の自動運動」だけです。

これは要するに、炎症がある間に癒着が強くならないようにすることが、唯一の治療法というわけです。

下手な施術で炎症や痛みを助長するよりは、こちらのほうがよっぱど効果的であるという意味でもあります。

炎症性の疾患なので、医者が最初にするであろうステロイド注射が効果を発揮し、数日は痛みが緩和します。

炎症(痛み)がピークを過ぎたあとは、関節包の拘縮が主となりますので、積極的な関節モビライゼーションにて可動域を拡げていきます。

炎症がまだ残存している状態では痛みが強く出ることもありますので、痛みが続かない範囲で実施していくとよいです。

次に関節包の拘縮に伴う肩の痛みですが、こちらは昔に肩関節周囲炎を経験していたり、肩を傷めた経験がある患者が多いです。

慢性的に肩こりがある人も多く、その場合は肩関節が正常な軌道をできていないために少しずつ負担がかかっていたことが推察されます。

こちらの治療も、基本的には関節モビライゼーションによって短縮している関節包を伸ばしていくことが必要です。

肩関節周囲炎のように炎症が存在している患者もいるので、炎症を助長させない範囲で徐々に伸張していきます。

炎症が存在しているかどうかは、肩関節をモビライゼーションしたときの粘り気や、痛みの有無によって判断していきます。

炎症がある場合は、正常な肩関節(反対側)と比較して粘り気があり、痛みも強く訴えることになります。

過去に肩関節周囲炎を経験している患者では、治癒したと本人は思っていても、関節包の短縮が残っていることが多々あります。

すでに消炎していて関節包の短縮のみが原因なら、モビライゼーション時も痛みはなく、組織が伸ばされて気持ちがいいぐらいです。

また、炎症が存在していないのでステロイド注射はあまり効果を発揮せず、患者も微妙な反応をすることが多いです。

最後に棘上筋腱損傷の治療ですが、まずはどうして棘上筋腱が損傷したのか、その原因を調べる必要があります。

明確な受傷機転がない場合、その多くはインピンジメント症候群を呈しており、腱が何度も挟み込まれて反復刺激を受けることで損傷します。

インピンジメントを起こす原因はいくつも考えられますが、個人的に最も可能性が高いと考えているのは関節包の拘縮です。

ここでも関節包が関わってくるわけですが、とくに肩関節の下方関節包(関節陥凹)が短縮している場合に障害を起こします。

関節陥凹は肩関節周囲炎でも最も拘縮しやすい部位であり、ここが硬くなると骨頭が下方に潜り込めず、肩関節が挙上できなくなります。

そのため、棘上筋腱損傷を呈している人の中には、過去に肩関節周囲炎を経験している人が少なくありません。

その場合は関節陥凹をストレッチするように関節モビライゼーションを加えていくことで、痛みの改善を図ることができます。

最後になりますが、もちろんここで挙げた内容だけが肩関節痛の全てではありませんし、もしかしたら間違ってる部分もあるかもしれません。

私自身が臨床で劇的な効果をあげているわけでもないですし、今でも毎日模索しながらやっているのが実情です。

しかしながら、ここではっきりと言えることは、この方法でどんな肩の痛みもスッキリ治るという方法は存在しないということです。

それに原因を特定できたとしても、だから治せるかといったらそれはまったく別の話であり、治せないものは治せません。

それでもベストを尽くすために、その人に必要な生活指導や身体状態の情報を提供することで、治癒を早められる可能性は高いです。

だらだらと日頃に思ってることを書きつらねましたが、明日からの臨床に少しでも参考にしてみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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