肩甲上神経の概要(C5–C6[±C4])
起始:腕神経叢の上神経幹から分岐(主根はC5–C6、まれにC4が参加)。
主な支配:棘上筋(外転初期)、棘下筋(外旋)。加えて肩関節包・肩鎖関節などへの**関節枝(求心性)**を出します(皮膚知覚は基本なし)。
走行
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肩甲切痕を上肩甲横靭帯の下で通過(上を走ることが多い上肩甲動脈と“Army over Navy”)。ここで棘上筋へ。
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肩甲棘外側を回り込んで棘窩切痕(スピノグレノイドノッチ)を下肩甲横靭帯の下で通過し、棘下筋へ。
主な絞扼部と症候
補足:ドロップアームテストは棘上筋腱断裂の鑑別に有用ですが、神経麻痺でも外転維持が困難になることがあります。単独での鑑別は不可、**筋萎縮の局在(とくに棘下単独萎縮)**を重視。
見落としを防ぐ鑑別ポイント
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棘下筋“のみ”の萎縮+下垂位外旋筋力低下 → 棘窩切痕症候群を第一想起。
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肩甲切痕障害ではJobe(empty can)と外旋テストの双方が弱い。
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腱板断裂:多くは棘上筋腱から始まり疼痛が目立つ。神経麻痺は疼痛軽微でも筋萎縮が進むことがある。
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C5神経根障害:三角筋・上腕二頭筋反射所見や感覚障害を伴いやすい。
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ガングリオン:超音波/ MRIで棘窩切痕や肩甲切痕の嚢胞性腫瘤を確認。
評価のコツ(臨床)
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視診:肩甲棘下(棘下筋)の陥凹、棘上窩のボリューム低下。
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徒手筋力:
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棘上筋:Jobe(empty/full can)。
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棘下筋:下垂位外旋抵抗(90°外転位外旋は小円筋が主になるため鑑別に不向き)。
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誘発:反復オーバーヘッドやクロスボディでの症状変化。
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補助検査:エコー/NCS・EMGで脱神経所見、MRIでガングリオン・腱板病変の併存を確認。
リハビリテーション(可逆性を想定)
1) 負荷コントロール
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オーバーヘッド反復・極端な水平内転位など牽引/圧迫肢位の回避。急性期は痛みの出ない範囲でROM維持。
2) 肩甲帯再教育(SICK肩甲骨対策)
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胸椎伸展・胸郭可動性の改善。
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肩甲骨後傾・上方回旋・内転の協調:下部僧帽筋・中部僧帽筋・前鋸筋の賦活、小胸筋・後方関節包のタイトネス低減。
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ネック&スキャプラセッティングで上肢挙上時の肩峰下スペースと神経牽引の両立を図る。
3) 筋機能
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棘上/棘下は低負荷・高回数で痛みなしから開始。急性期の高負荷外旋・反復投球は回避。
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腱板協調(ER/IRの比率、下角の制御)と肩甲上腕リズムを整える。
4) 神経・軟部滑走
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肩甲切痕・棘窩切痕周囲の軟部組織を低刺激でモビライゼーション。神経滑走は過牽引回避で短時間。
5) 医療連携
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嚢胞性ガングリオンや難治例は画像で同定し、穿刺・減圧/鏡視下切除を検討。EMGで再生所見が乏しければ外科の適応評価。
※筋力強化“だけ”先行は禁物。まず原因(牽引・圧迫・嚢胞)除去と肩甲帯の最適化を優先。
よくある質問(Q&A)
Q1. 根支配はC5–6で正しい?
A. はい。標準はC5–C6で、C4が参加することもあります。
Q2. 棘下筋だけがやせている。断裂?神経?
A. 棘下筋単独萎縮+外旋低下は棘窩切痕での肩甲上神経絞扼を強く示唆。MRI/エコーでガングリオンもチェック。
Q3. 斜角筋症候群でも肩甲上神経は障害される?
A. 斜角筋隙(上幹レベル)の圧迫なら肩甲上神経を含め上幹領域に影響し得ます。肋鎖間隙/小胸筋下など下位の胸郭出口では肩甲上神経は巻き込まれにくい。
Q4. いつから筋トレを始める?
A. 疼痛・神経刺激所見が沈静し、日常動作で悪化しない範囲から低負荷・高回数で開始。過負荷外旋・投球は段階的復帰。
Q5. 予後は?
A. 牽引性ニューロパチーは数週~数か月で改善する例が多い。嚢胞圧迫は除圧で速やかに改善することも。
最終更新:2025-10-02

