要約
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「2:1」は静的な比率ではなく条件で可変。
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評価は「角度」だけでなくタイミング・代償・症状を含む複合スコアで管理。
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崩れ方(パターン)でドリルを選択すると改善が速い。
肩甲上腕リズムの基礎とよくある誤解
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2:1の誤解:180°外転の結果として得られた平均的比率。速度、負荷、面(前額/肩甲面)、疼痛の有無で連続的に変化する。
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“上げれば三角筋”ではない:腱板(特に棘上筋)の遠心制動と肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋が同時に成立して初めてクリアに挙上できる。
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評価は三層構造で
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運動学(GH外転角・肩甲骨上方回旋/後傾/外旋)、
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タイミング(前鋸筋/下部僧帽筋の立ち上がり)、
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代償(胸椎過伸展・肋骨挙上・頸部共同運動)+症状(痛み/恐怖)。
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観察・触診プロトコル(外来5分版)
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立位肩甲面(約30–45°前方)で外転
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ランドマーク:肩峰角・肩甲棘・下角・烏口突起。
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目視:0–60°はGH優位、60–120°で肩甲骨モーションが立ち上がるか。
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壁背に軽接触(胸椎過伸展・肋骨挙上の代償検出)
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触診
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下角の外上方滑走、肩峰の後傾化、肩甲棘の外旋を指先で追う。
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疼痛・恐怖の同定
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どの角度域で、どの動作面で増悪するかを明確化。
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肩甲上腕リズムスコア(SUR-S:ScapuloUmero Rhythm – Score)
0–2点法、合計20点(低いほど問題大)
| 項目 | 0点(要介入) | 1点(やや問題) | 2点(良好) |
|---|---|---|---|
| GH外転の滑らかさ | 引っかかり多数/停止 | やや粗い | 連続的・滑らか |
| 肩甲骨上方回旋 | 立ち上がり遅延/不足 | やや遅延 | 適切 |
| 肩甲骨後傾 | ほぼ出ない | 弱い | 十分 |
| 肩甲骨外旋 | 内旋優位 | やや不足 | 適切 |
| 代償(胸椎過伸展/肋骨挙上/頸部) | 顕著 | 軽度 | なし |
| +痛みVAS:0–10を別枠で記録(トレンド管理) |
運用Tip:初回・2週後・4週後でSUR-SとVASを並記して、介入効果を可視化。
機能解剖のキーポイント(臨床に効く要約)
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前鋸筋:上方回旋+後傾のトリガー役。遅れると“すくめ肩”様の代償が出やすい。
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僧帽筋下部:肩甲骨外旋・後傾のフィニッシャー。上部の過活動を抑えつつ下部を呼び込む。
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腱板(棘上/棘下/小円/肩甲下):三角筋の上方剪断を下方圧縮に変換。
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胸椎:伸展不足は肩甲骨の後傾・外旋を阻害し、代償として肋骨挙上が出やすい。
崩れ方別の修正ドリル10選(セット×回数の目安付き)
週3–5日/痛み0–3/10で実施。痛みが増える場合は角度域を縮小。
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前鋸筋の立ち上がり遅延
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壁プッシュPLUS(鼻先1拳):10回×2 肩甲骨を前外方へ“押し出し+上方回旋”
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スライド円運動(壁):時計/反時計回り 各10回×2
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僧帽筋下部の弱さ(上部優位)
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Yレイズ(胸当てベンチor俯臥位):8–12回×3(母指上)
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ケーブル/チューブ・プルダウン to 外旋:12回×2
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肩甲骨内旋優位(前方落ち)
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プッシュアップ・ポジションでの肩甲骨外旋キープ:20–30秒×3
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フェイスプル(外旋強調):12回×3
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後傾不足
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ウォール・エンジェル(腰肋骨固定):8回×2、可動域よりフォーム優先
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サイドライイング・アームバー(軽負荷):30–60秒×2
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上方回旋不足
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ランドマイン・プレス(肩甲面):6–10回×3
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スカプション(軽ダンベル):15回×2、上位域で肩甲骨の回旋感覚を言語化
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胸椎伸展不足(代償で腰反り)
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胸椎フォームローリング+エクステンション:30–60秒×2
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四つ這いロッキング to スロープレス:8回×2
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肋骨挙上グラグラ(呼吸代償)
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呼気優位ブリージング(風船orストロー):5呼吸×3
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ハーフニーリング・リーチ(下位肋骨ダウン):6回×2
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頸部共同運動(すくめ肩)
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頸部等尺−肩甲骨分離ドリル:5秒×8回
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キャリー(軽ケトル/ダンベル)で下制意識:20–40m×2
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痛み中等度(0–3/10に収めたい)
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アシスティッド・レンジ(滑車/スティック):10回×2
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等尺挙上(疼痛閾値内):5秒×6回
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タイミング全般の再学習(リズム覚醒)
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メトロノーム外転(40–60bpm):30–120°を3拍上げ/3拍下ろし×3セット
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鏡フィードバック+触覚キュー:1–2分×2
禁忌/注意:急性期の強い炎症、神経症状、夜間痛は無理をしない。赤旗(外傷直後の著明腫脹、安静時激痛、発熱)は医師評価を優先。
ミニ症例
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40代/デスクワーク/右肩インピンジ様痛
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初診:SUR-S=10/20、痛みVAS=5/10。上方回旋遅延+胸椎伸展不足。
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介入:前鋸筋立ち上がりドリル+胸椎可動+呼気優位。
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2週:SUR-S=15/20、VAS=2/10。120°付近の引っかかり消失。
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4週:SUR-S=18/20、VAS=0–1/10。家事・デスク作業は問題なし。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 2:1からズレていたら異常?
A. 条件で可変。ズレの理由(痛み・可動性不足・タイミング遅延)を突き止めるのが先決。
Q2. 三角筋を鍛えれば解決する?
A. 三角筋強化は有用だが、腱板の下方圧縮と肩甲骨モーションが伴わないと衝突を助長しうる。
Q3. どのエクササイズから始める?
A. 痛み0–3/10で実施可能なもの+崩れ方に合うドリルから。SUR-Sを毎回記録し、反応で絞り込む。
Q4. 可動域が十分でも痛い
A. タイミングや代償の問題が多い。前鋸筋/下部僧帽筋の立ち上がりと呼吸の再学習を優先。
Q5. 自宅メニューの頻度
A. 週3–5日。痛みが増えたら角度域を下げるか等尺に切り替える。