肩甲上腕リズムを:評価指標と修正ドリル10選

要約

  • 「2:1」は静的な比率ではなく条件で可変

  • 評価は「角度」だけでなくタイミング・代償・症状を含む複合スコアで管理。

  • 崩れ方(パターン)でドリルを選択すると改善が速い。


肩甲上腕リズムの基礎とよくある誤解

  • 2:1の誤解:180°外転の結果として得られた平均的比率。速度、負荷、面(前額/肩甲面)、疼痛の有無で連続的に変化する。

  • “上げれば三角筋”ではない:腱板(特に棘上筋)の遠心制動と肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋が同時に成立して初めてクリアに挙上できる。

  • 評価は三層構造で

    1. 運動学(GH外転角・肩甲骨上方回旋/後傾/外旋)、

    2. タイミング(前鋸筋/下部僧帽筋の立ち上がり)、

    3. 代償(胸椎過伸展・肋骨挙上・頸部共同運動)+症状(痛み/恐怖)。


観察・触診プロトコル(外来5分版)

  1. 立位肩甲面(約30–45°前方)で外転

    • ランドマーク:肩峰角・肩甲棘・下角・烏口突起。

    • 目視:0–60°はGH優位、60–120°で肩甲骨モーションが立ち上がるか。

  2. 壁背に軽接触(胸椎過伸展・肋骨挙上の代償検出)

  3. 触診

    • 下角の外上方滑走、肩峰の後傾化、肩甲棘の外旋を指先で追う。

  4. 疼痛・恐怖の同定

    • どの角度域で、どの動作面で増悪するかを明確化。


肩甲上腕リズムスコア(SUR-S:ScapuloUmero Rhythm – Score)

0–2点法、合計20点(低いほど問題大)

項目 0点(要介入) 1点(やや問題) 2点(良好)
GH外転の滑らかさ 引っかかり多数/停止 やや粗い 連続的・滑らか
肩甲骨上方回旋 立ち上がり遅延/不足 やや遅延 適切
肩甲骨後傾 ほぼ出ない 弱い 十分
肩甲骨外旋 内旋優位 やや不足 適切
代償(胸椎過伸展/肋骨挙上/頸部) 顕著 軽度 なし
+痛みVAS:0–10を別枠で記録(トレンド管理)

運用Tip:初回・2週後・4週後でSUR-SとVASを並記して、介入効果を可視化。


機能解剖のキーポイント(臨床に効く要約)

  • 前鋸筋:上方回旋+後傾のトリガー役。遅れると“すくめ肩”様の代償が出やすい。

  • 僧帽筋下部:肩甲骨外旋・後傾のフィニッシャー。上部の過活動を抑えつつ下部を呼び込む。

  • 腱板(棘上/棘下/小円/肩甲下):三角筋の上方剪断を下方圧縮に変換

  • 胸椎:伸展不足は肩甲骨の後傾・外旋を阻害し、代償として肋骨挙上が出やすい。


崩れ方別の修正ドリル10選(セット×回数の目安付き)

週3–5日/痛み0–3/10で実施。痛みが増える場合は角度域を縮小

  1. 前鋸筋の立ち上がり遅延

    • 壁プッシュPLUS(鼻先1拳):10回×2 肩甲骨を前外方へ“押し出し+上方回旋”

    • スライド円運動(壁):時計/反時計回り 各10回×2

  2. 僧帽筋下部の弱さ(上部優位)

    • Yレイズ(胸当てベンチor俯臥位):8–12回×3(母指上)

    • ケーブル/チューブ・プルダウン to 外旋:12回×2

  3. 肩甲骨内旋優位(前方落ち)

    • プッシュアップ・ポジションでの肩甲骨外旋キープ:20–30秒×3

    • フェイスプル(外旋強調):12回×3

  4. 後傾不足

    • ウォール・エンジェル(腰肋骨固定):8回×2、可動域よりフォーム優先

    • サイドライイング・アームバー(軽負荷):30–60秒×2

  5. 上方回旋不足

    • ランドマイン・プレス(肩甲面):6–10回×3

    • スカプション(軽ダンベル):15回×2、上位域で肩甲骨の回旋感覚を言語化

  6. 胸椎伸展不足(代償で腰反り)

    • 胸椎フォームローリング+エクステンション:30–60秒×2

    • 四つ這いロッキング to スロープレス:8回×2

  7. 肋骨挙上グラグラ(呼吸代償)

    • 呼気優位ブリージング(風船orストロー):5呼吸×3

    • ハーフニーリング・リーチ(下位肋骨ダウン):6回×2

  8. 頸部共同運動(すくめ肩)

    • 頸部等尺−肩甲骨分離ドリル:5秒×8回

    • キャリー(軽ケトル/ダンベル)で下制意識:20–40m×2

  9. 痛み中等度(0–3/10に収めたい)

    • アシスティッド・レンジ(滑車/スティック):10回×2

    • 等尺挙上(疼痛閾値内):5秒×6回

  10. タイミング全般の再学習(リズム覚醒)

  • メトロノーム外転(40–60bpm):30–120°を3拍上げ/3拍下ろし×3セット

  • 鏡フィードバック+触覚キュー:1–2分×2

禁忌/注意:急性期の強い炎症、神経症状、夜間痛は無理をしない。赤旗(外傷直後の著明腫脹、安静時激痛、発熱)は医師評価を優先。


ミニ症例

  • 40代/デスクワーク/右肩インピンジ様痛

    • 初診:SUR-S=10/20、痛みVAS=5/10。上方回旋遅延+胸椎伸展不足。

    • 介入:前鋸筋立ち上がりドリル+胸椎可動+呼気優位。

    • 2週:SUR-S=15/20、VAS=2/10。120°付近の引っかかり消失。

    • 4週:SUR-S=18/20、VAS=0–1/10。家事・デスク作業は問題なし。


よくある質問(FAQ)

Q1. 2:1からズレていたら異常?
A. 条件で可変。ズレの理由(痛み・可動性不足・タイミング遅延)を突き止めるのが先決。

Q2. 三角筋を鍛えれば解決する?
A. 三角筋強化は有用だが、腱板の下方圧縮肩甲骨モーションが伴わないと衝突を助長しうる。

Q3. どのエクササイズから始める?
A. 痛み0–3/10で実施可能なもの崩れ方に合うドリルから。SUR-Sを毎回記録し、反応で絞り込む。

Q4. 可動域が十分でも痛い
A. タイミングや代償の問題が多い。前鋸筋/下部僧帽筋の立ち上がり呼吸の再学習を優先。

Q5. 自宅メニューの頻度
A. 週3–5日。痛みが増えたら角度域を下げる等尺に切り替える。