肩甲挙筋のトリガーポイント(TP)

概要

肩甲挙筋(levator scapulae)は頸椎C1–C4前結節~肩甲骨上角を結ぶ筋で、肩甲骨の挙上・下方回旋に関与します。ストレスや不良姿勢、反復作業で過負荷になりやすく、首の付け根(後外側)のコリ・痛み肩甲骨内縁の痛みを生むトリガーポイント(TP)がしばしば形成されます。とくに**振り向き(頸部回旋)**がつらい、上を見ると突っ張るといった訴えが特徴的です。


症状・関連痛の特徴

  • 主症状:首の付け根の痛み・こり、肩甲骨内縁〜肩背側への放散痛。

  • 可動制限

    • **患側へ向く(同側回旋)**動作が「向きづらい/痛い」。

    • 反対側へ向く際も伸張痛で制限されやすい。

  • 日常で出やすい場面:後方確認(車のバック)、上を見る、長時間の前傾座位など。

  • 関連例:僧帽筋のTPと共存しやすく、相互に衛星TPを作って痛みを増幅することがあります。


解剖と機能(要点)

  • 付着:上端=頸椎横突起(C1–C4前結節)/下端=肩甲骨上角。

  • 作用:肩甲骨挙上・下方回旋、頸部の側屈・軽度回旋の補助

  • 過緊張で起こること:肩の**“すくめ”姿勢が固定化、頸部の伸張不全**→回旋・側屈の痛み。


トリガーポイントができる主な原因

  • 姿勢負荷:うつむき・前かがみ、猫背、画面位置が低いPC作業。

  • 支持不足肘掛け無しで腕を前方に保持(タイピング、調理、製造、演奏)。

  • 荷重因子:重いリュック・片掛けバッグ、ストラップ落下防止で肩を無意識に挙上。

  • 心理的緊張:ストレスで肩を上げる癖。

  • 外傷後:むち打ち・転倒後の防御性短縮が長く残存。

  • 作業環境:机・椅子・肘掛けの高さ不適合。


鑑別のヒント(僧帽筋などとの見分け)

  • 肩甲挙筋:首の付け根〜肩甲骨上角に索状硬結。振り向き痛が顕著。

  • 僧帽筋上部こめかみ/後頭部への関連痛が出やすい。

  • 胸鎖乳突筋:めまい・眼精疲労様の訴えを伴うことあり。

  • 頸椎性:神経症状(放散するしびれ・筋力低下・巧緻運動障害)を伴うなら専門評価へ。


セルフケア(安全第一・短時間・低負荷)

1) 触診・圧迫リリース

  • 肩甲骨上角〜頸部外側に沿って索状の硬結を探し、痛気持ち良い圧で30–60秒。

  • 道具:テニス/ラクロスボールを壁との間に挟み、肩甲骨内縁〜上角を縦・横に小さくロール。過敏なら柔らかめから。

2) 伸張ストレッチ(呼吸同調)

  • 患側耳を肩から離す方向反対側へ側屈+やや屈曲

  • 肩は下制して上方牽引を解除。10〜20秒×3–5回、痛みゼロ〜軽度で。

3) 姿勢・環境の見直し

  • 肘掛けや前腕支持を常設(腕を宙に浮かせない)。

  • 画面は目線やや下、キーボードは肘90°前後

  • バッグは両肩/交互、重量分散。ストラップは滑りにくい幅広を。

4) 軽い活性化エクササイズ

  • 肩甲骨下制・内転(下部僧帽筋・菱形筋の協調)で肩甲挙筋の過活動を抑える。

  • 頸部等尺性(多方向に軽い抵抗で5秒×数回)。

  • マイクロブレイク:30–60分毎に30秒の肩下制・頸部回旋/側屈の小休止。

注意:圧迫で痺れ・吐き気・強いめまいが出る/夜間増悪・外傷直後などは中止して医療機関へ。


施術・臨床介入のポイント(専門家向けメモ)

  • **中枢TP(僧帽筋上部深層)**の検索を忘れず、衛星TP(肩甲挙筋下部・肩甲骨内縁)も連動で処置。

  • 胸筋群・鎖骨下筋の短縮解除→肩前方牽引を軽減。

  • 肩甲帯の運動連鎖(下部僧帽筋・前鋸筋)を再学習し、下方回旋優位の肩甲骨運動を是正。

  • むち打ち既往がある場合は頸部深層のリラクセーションと段階的負荷を徹底。


まとめ

  • 肩甲挙筋はすくめ姿勢・前方作業・ストレスで過労になりやすく、首の付け根~肩甲骨内縁の痛み振り向き困難を招く。

  • 触診で索状硬結と再現痛を確認し、圧迫→伸張→姿勢/環境修正→協調運動の順で整えると再発予防に有効。

  • 僧帽筋や胸鎖乳突筋のTPと併発しやすいので、全体の負荷分散を意識して介入する。