この記事では、肩甲挙筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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肩甲挙筋の概要
肩甲挙筋は頸部後側面に位置する筋肉で、下方(停止部)は僧帽筋上部に、上方(起始部)は胸鎖乳突筋に覆われています。
僧帽筋上部線維と共に肩甲骨挙上に作用し、菱形筋や小胸筋と協同して肩甲骨下方回旋にも働きます。
肩甲骨が固定された状態では、両側の収縮で頚部伸展に、片側の収縮で頸部側屈と同側回旋に作用します。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 肩甲背神経 |
髄節 | C2-5 |
起始 | 第1-4頸椎の横突起の後結節 |
停止 | 肩甲骨の上角・内側縁上部 |
栄養血管 | 背側肩甲動脈 |
動作 | 肩甲骨の挙上、下方回旋 |
筋体積 | 72㎤ |
筋線維長 | 19.0㎝ |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
肩甲骨挙上 |
1位 | 僧帽筋(上部) |
2位 | 肩甲挙筋 |
3位 | 大菱形筋 |
4位 | 小菱形筋 |
※僧帽筋が機能低下している症例では肩甲骨の固定機能を肩甲挙筋に依存することになります。
肩甲挙筋の触診方法
写真では、肩甲骨の下方回旋を誘発しながらの肩甲骨挙上運動にて、肩甲挙筋の収縮を停止部上縁で触診しています。
肩甲挙筋は頚椎横突起後結節に起始部を持ち、骨への圧迫が容易であるため、強い触診は疼痛を引き起こすので控えます。
筋腹は肩甲骨上角のやや内側上方にて、僧帽筋の深部にコリコリとした4つの筋束として触知することができます。
表層の僧帽筋上部線維を緩めるために、肩関節を伸展・内転・内旋させた状態(結帯動作の位置)にて保持するとより触知しやすいです。
ストレッチ方法
手で後頭部を引き寄せ、頸椎を屈曲・側屈していきます。
伸張したい筋肉がある方向とは反対に頸椎を回旋させることにより、僧帽筋上部線維の緊張を緩め、より選択的に肩甲挙筋が伸張できます。
また、肩甲骨を下制しすぎると僧帽筋上部線維が伸張されてしまうので、肩を下げすぎないよう留意します。
筋力トレーニング
重りやバーベルを肩幅よりやや広めに持って、両肩を持ち上げます。
トリガーポイントと関連痛領域
肩甲挙筋の圧痛点(トリガーポイント)は停止付近に出現し、関連痛は頸部や肩甲骨内側縁、上肢尺側に放散します。
肩甲挙筋は僧帽筋と並んで肩こりを起こしやすい筋肉の代表なので、必ず圧痛がないかをチェックすることが必要です。
アナトミートレイン
肩甲挙筋はアナトミートレインの中で、DBAL(ディープ・バックアーム・ライン)に繋がっています。
DBALは腱板筋のラインであるために肩関節の安定性に大きく関与しており、棘上筋腱が断裂していると代償的に肩甲挙筋の過緊張が目立ちます。
また、筋出力を発揮するために表層の僧帽筋上部まで収縮が強いられ、肩甲挙筋と同時にトリガーポイントを形成していることが多いです。
関連する疾患
- 胸郭出口症候群
- 肩関節不安定症
- 肩結合織炎・肩甲背神経の絞扼
- 肩関節周囲炎
- 投球障害肩 etc.
肩甲挙筋と胸郭出口症候群
肩甲挙筋は非常に短縮しやすい筋肉のひとつです。
短縮すると肩甲骨の下方回旋と挙上が認められ、頸椎の側屈や回旋の制限、肩甲上腕リズムの障害による挙上制限をきたします。
また、肩甲挙筋の過緊張はいかり肩やなで肩といったアライメントの変化を起こし、胸郭出口症候群をきたす原因となります。
いかり肩では小胸筋が伸張されるために小胸筋症候群を、なで肩では肋鎖間隙が狭小化することによる腕神経叢の圧迫が関与します。
肩甲挙筋と肩こりの関係性
肩甲挙筋の過緊張によって起こる肩こり(肩結合織炎)は、筋肉そのもののコリ以外にも肩甲背神経の絞扼が関与しています。
肩甲背神経はC5神経根より分岐後、肩甲挙筋、小菱形筋、大菱形筋の深部を通過しながら枝を与えています。
肩甲挙筋の過緊張によって深部の肩甲背神経を絞扼すると、肩甲骨内側の鈍痛や菱形筋の筋力低下が生じます。
また、肩甲挙筋の過剰な緊張は肩甲骨を挙上・下方回旋位でロックし、肩甲上腕リズムを乱して肩関節不安定性を起こします。