肩甲骨の正常なアライメント
肩甲骨(scapula)は背中の上部(胸郭の後面上)にある逆三角形をした扁平骨であり、以下の関節を構成して肩複合体(shoulder complex)の重要な土台となります 。
- 肩甲上腕関節(第1肩関節): 上腕骨頭と肩甲骨関節窩で構成される解剖学的な球関。
- 肩鎖関節: 鎖骨外側端(肩峰端)と肩甲骨肩峰で構成される解剖学的な平面関節。
- 肩甲胸郭関節: 肩甲骨前面と胸郭後面から構成される機能的関節(滑膜組織を持たない)であり、肩甲骨の胸郭上での滑り運動を担います。
- 第2肩関節: 肩峰や烏口肩峰靭帯(烏口肩峰アーチ)と上腕骨頭の間の機能的関節で、肩峰下滑液包などが存在し滑動性を高めます。
正常な肩甲骨の位置・アライメント
正常な肩甲骨は、次のような位置と角度を保っています。
- 高さ: 上角が第2胸椎棘突起(第2肋骨)、下角が第7胸椎棘突起(第7肋骨)の高さに位置します。
- 傾斜(肩甲骨面): 前額面から前方へ約30°〜35°傾斜しています。また、矢状面においては約10°〜20°前傾しています。
- 内側縁: 脊柱(棘突起)のラインと平行に位置します。
- 脊柱との距離: 内側縁と胸椎棘突起の距離は、成人男性で約7cm、成人女性で約5〜6cm(胸郭正中から約7.5cm以内)です。
肩甲骨の動きと主な動筋
肩甲骨の動きは、肩関節の大きな可動域を確保するために不可欠です(肩甲上腕リズム)。各運動方向と、主に関与する筋肉は以下の通りです。
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動き
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主な動筋
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挙上
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僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、菱形筋(大・小)
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下制
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僧帽筋下部線維、小胸筋、鎖骨下筋
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外転(前方突出・内旋)
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前鋸筋、小胸筋
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内転(後方引き寄せ・外旋)
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僧帽筋中部線維、菱形筋(大・小)
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上方回旋
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僧帽筋(上部・中部・下部線維)、前鋸筋下部線維
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下方回旋
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菱形筋(大・小)、肩甲挙筋、小胸筋
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前傾
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小胸筋
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後傾
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僧帽筋下部線維、前鋸筋下部線維
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ポイント:アライメント異常がある場合、偏位している方向へ作用する筋肉が過緊張・短縮し、拮抗する(反対方向の)筋肉が延長・筋力低下していることが推測されます 。
肩甲骨各部位の名称と解剖学的な役割
| 1.前方から見た肩甲骨 |
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| 2.後方から見た肩甲骨 |
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| 3.外側から見た肩甲骨 |
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部位名
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解剖的位置・特徴
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主な付着・通過構造
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内側縁
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脊柱側を走る縁
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大菱形筋・小菱形筋・肩甲挙筋(停止)、前鋸筋(停止)
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外側縁
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上腕骨側を走る縁
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小円筋、大円筋、上腕三頭筋長頭が付着
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上角
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第2肋骨の高さ
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肩甲挙筋(停止)
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下角
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第7肋骨の高さ
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広背筋肩甲部(起始)、大円筋(起始)
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棘上窩
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肩甲棘の直上にあるくぼみ
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棘上筋(起始)
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棘下窩
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肩甲棘の下方に広がるくぼみ
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棘下筋(起始)
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肩甲下窩
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肋骨に面した前面のくぼみ
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肩甲下筋(起始)
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肩甲棘
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後面を横走する大きな隆起
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三角筋後部線維(起始)、僧帽筋中部・下部線維(停止)
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肩峰
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肩甲棘の外側端
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三角筋中部線維(起始)、僧帽筋上部・中部線維(停止)、鎖骨と肩鎖関節を形成
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烏口突起
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関節窩の前上方にある突起
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烏口腕筋・上腕二頭筋短頭(起始)、小胸筋(停止)、烏口鎖骨靭帯(菱形・円錐靭帯)・烏口肩峰靭帯・烏口上腕靭帯が付着
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関節窩
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外側端にある浅いくぼみ
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上腕骨頭と関節(肩甲上腕関節)を形成。上腕骨頭の約1/3〜1/4の面積で浅い
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関節上結節
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関節窩のすぐ上方
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上腕二頭筋長頭(起始)
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関節下結節
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関節窩のすぐ下方
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上腕三頭筋長頭(起始)
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肩甲切痕
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上縁の内側部にある切れ込み
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肩甲上神経が通過(上肩甲横靭帯でトンネルを形成)
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肩甲骨の主なアライメント異常
① いかり肩(挙上位・高位)
- 特徴: 鎖骨遠位端が水平より上方(15°以上)に上がり、肩甲骨全体が挙上している状態です。
- 原因筋: 僧帽筋上部線維や肩甲挙筋、菱形筋が過緊張・短縮しています。逆に、僧帽筋下部線維は延長し筋力が低下しやすいです。
- 影響: 肩こり(筋緊張性)として自覚されることが多く、胸郭出口症候群(斜角筋隙の狭小化)の発症要因になることもあります。
② なで肩(下制位・低位)
- 特徴: 鎖骨が水平または下方に下がり、肩鎖関節が胸鎖関節より低い位置にあります。
- 原因筋: 僧帽筋上部線維が延長して筋力低下を起こし、広背筋や大胸筋などが過緊張・短縮していることが多いです。
- 影響: 腕の重みで肩甲骨が下方に引っ張られるため、胸郭出口症候群(牽引型)の原因になりやすいとされます。
③ 翼状肩甲(Winging Scapula)
- 特徴: 肩甲骨の内側縁や下角が、胸郭から離れて後方に浮き上がり、鳥の翼のように見える状態です。
- 原因筋: 最も多い原因は、長胸神経麻痺による前鋸筋の筋力低下です。前鋸筋麻痺では上肢の屈曲(前方挙上)時に浮き上がりが顕著になります。
- その他の原因: 副神経麻痺による僧帽筋の弱化でも生じます。この場合、上肢の外転(側方挙上)時に顕著になります。また、肩甲下筋の短縮や胸椎の平坦化が原因となることもあります。
④ 外転位(前方偏位・プロトラクション)
- 特徴: 肩甲骨内側縁と脊柱(棘突起)の距離が正常(7cm以内)より大きく離れ、肩峰が前方に出ている状態です。
- 原因筋: 大胸筋や小胸筋などの胸部の筋肉が過緊張・短縮していることが主な原因です。
- 影響: 肩甲骨が外転していると、上腕骨が内旋しているように見える(見かけ上の内旋)ことがあり、姿勢の評価において注意が必要です。
Q&A
Q. 肩甲骨が浮いて見える「翼状肩甲」の原因は何ですか?
A. 肩甲骨を胸郭に引き寄せる筋肉の麻痺や機能低下が主な原因です。代表的なものは長胸神経麻痺による「前鋸筋の弱化」であり、腕を前に挙げた際に肩甲骨の内側縁が浮き上がります 。また、副神経麻痺による「僧帽筋の弱化」でも生じ、この場合は腕を横に挙げた際に顕著になります 。
Q. 肩甲骨の正常な位置(ランドマーク)はどこですか?
A. 上下方向では第2肋骨〜第7肋骨(第2胸椎〜第7胸椎棘突起)の高さに位置します 。左右方向では、肩甲骨の内側縁が背骨(棘突起)と平行になり、背骨から約5〜7.5cm離れた位置にあるのが理想的です 。また、真横(矢状面)から見ると約10〜20°前傾し、上から(水平面)見ると前額面から約30〜35°前方へ傾斜(肩甲骨面)しています 。
Q. 肩甲骨の動きが悪くなると、どのような悪影響がありますか?
A. 腕を挙げる際、肩関節(肩甲上腕関節)と肩甲骨は連動して動きます(肩甲上腕リズム) 。肩甲骨の動き(特に上方回旋など)が制限されると、肩関節単独で無理に腕を挙げようとするため、肩峰の下で筋肉(腱板)が挟まれる「肩峰下インピンジメント」を引き起こしやすくなります 。これにより、肩の痛み(五十肩など)や腱板損傷、さらに代償動作による首や肩の慢性的な痛みにつながります 。
最終更新:2026-07-22







