肩甲骨(scapula)に付着する筋肉や各部位の名称について解説していきます。
肩甲骨の正常なアライメント
![]() |
肩甲骨は背中の上部に位置する扁平骨で、上腕骨と肩甲上腕関節(肩関節)、鎖骨と肩鎖関節、胸郭と肩甲胸郭関節を構成しています。
正常な肩甲骨は第2〜7肋骨の上に位置しており、前額面から前方に約35度傾斜していますが、胸郭上では平坦に位置します。
肩甲骨内側縁と脊椎棘突起は平行であり、内側縁と棘突起の距離は成人男性で約7cm、成人女性で約5〜6cmになります。
肩甲骨の動きと主な動筋
![]() |
![]() |
肩甲骨の動きには、挙上・下制、外転・内転、上方回旋・下方回旋、前傾・後傾といった8方向があります。
肩甲骨にアライメント異常が存在している場合は、その方向の筋群の優位あるいは短縮、拮抗する筋肉の延長と筋力低下が疑われます。
ちなみに優位となりやすい筋肉には、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、小胸筋などがあります。
各部位の名称と役割について
1.前方から見た肩甲骨 |
![]() |
2.後方から見た肩甲骨 |
![]() |
3.外側から見た肩甲骨 |
![]() |
内側縁 | 【停止】大菱形筋,小菱形筋,肩甲挙筋,前鋸筋 |
外側縁 | 【起始】小円筋,大円筋 |
棘上窩 | 【起始】棘上筋 |
棘下窩 | 【起始】棘下筋 |
上角 | 【停止】肩甲挙筋 |
下角 | 【起始】広背筋肩甲部 |
肩甲切痕 | 【通過】肩甲上神経,肩甲上動脈 |
烏口突起 | 【起始】烏口腕筋,上腕二頭筋短頭 |
【停止】小胸筋 | |
肩甲棘 | 【起始】三角筋肩甲棘部 |
【停止】僧帽筋中部・下部 | |
肩峰 | 【起始】三角筋肩峰部 |
【停止】僧帽筋中部 | |
【関節】肩鎖関節 | |
肩甲下窩 | 【起始】肩甲下筋 |
【関節】肩甲胸郭関節 | |
関節窩 | 【関節】肩甲上腕関節 |
関節上結節 | 【起始】上腕二頭筋長頭 |
関節下結節 | 【起始】上腕三頭筋長頭 |
肩甲骨に付着している筋肉
肩甲骨に起始や停止を持つ筋肉について掲載しています。各筋肉の詳細をみたい場合は筋名をクリックしてください。
肩甲骨に起始がある筋肉
筋肉 | 起始部 |
棘上筋 | 棘上窩 |
棘下筋 | 棘下窩 |
小円筋 | 肩甲骨後面の外側縁 |
肩甲下筋 | 肩甲骨の前面,肩甲下窩 |
大円筋 | 肩甲骨の外側縁・下角 |
烏口腕筋 | 烏口突起 |
肩甲舌骨筋 | 肩甲骨上縁 |
三角筋肩峰部 | 肩峰 |
三角筋肩甲棘部 | 肩甲棘の下縁 |
広背筋肩甲部 | 肩甲骨の下角,第9(または10)~12肋骨 |
上腕二頭筋 | 関節上結節(長頭),烏口突起尖端(短頭) |
上腕三頭筋長頭 | 関節下結節(橈骨神経溝より外側) |
※三角筋、広背筋、上腕三頭筋は起始の一部を肩甲骨に持つ
肩甲骨に停止がある筋肉
筋肉 | 停止部 |
肩甲挙筋 | 上角・内側縁上部 |
小胸筋 | 烏口突起 |
前鋸筋 | 肩甲骨内側縁(上角・下角を含む) |
僧帽筋中部 | 肩峰,肩甲棘 |
僧帽筋下部 | 肩甲棘三角 |
大菱形筋 | 内側縁下部 |
小菱形筋 | 内側縁上部 |
※僧帽筋は停止の一部を肩甲骨に持つ
肩甲骨のアライメント異常①:いかり肩
![]() |
鎖骨の遠位端が水平線よりも下がっているようなら「なで肩」、15度よりも上がっているようなら「いかり肩」となります。
いかり肩では僧帽筋上部線維と肩甲挙筋が過剰に緊張しており、僧帽筋下部線維は伸長位となって筋出力が低下しています。
浅層の僧帽筋上部線維から深層の肩甲挙筋までが硬くなっているため、いわゆる肩こりの状態と表現できます。
肩甲骨のアライメント異常②:なで肩
![]() |
なで肩では菱形筋と肩甲挙筋が過剰に緊張しており、僧帽筋上部線維は伸長位となって筋出力が低下しています。
浅層の僧帽筋上部線維は伸張されて緩くなっており、深層にある肩甲挙筋や菱形筋が硬くなっているため、表面だけを揉んでも治りにくいことが特徴です。
肩甲骨のアライメント異常③:翼状肩甲
![]() |
肩甲骨を胸郭に引き付ける筋肉として前鋸筋・大菱形筋・僧帽筋があり、これらの筋肉が適度な緊張を保ちながら位置を調整しています。
![]() |
しかし、僧帽筋上部線維や前鋸筋に弱化があり、肩甲挙筋と菱形筋が緊張していると肩甲骨内側縁が浮き上がった状態となります。
![]() |
前鋸筋が麻痺している場合は顕著な翼状肩甲を示しますが、僧帽筋の弱化が原因の場合は内側縁全体が少し浮き上がる程度です。
鑑別方法としては、前鋸筋が原因の場合は上肢を屈曲する際に、僧帽筋が原因の場合は上肢を外転する際に顕著な翼状肩甲を確認できます。
肩甲骨のアライメント異常④:外転位
![]() |
肩甲骨内側縁と胸椎棘突起の距離が正常よりも著しく離れている状態を、肩甲骨外転位といいます。
肩甲骨が外転すると肘頭が外側に向き、上腕骨が内旋位に見えることが特徴です。