肩関節周囲炎のリハビリ治療

肩関節周囲炎の概要

肩関節周囲炎は、肩関節の痛みと可動域制限を主症状とし、肩関節周囲組織の退行性変化(老化)を基盤に明らかな誘因なく発症する疾患群の総称です 。一般に五十肩(または四十肩)と呼ばれ、癒着性関節包炎とも定義されます 。

  • 好発: 40〜60代の女性に多く、対側肩への発症既往がある場合にリスクが高まります 。
  • 経過: 多くは自然寛解しますが、寛解までには12〜42か月程度の期間を要し、強い痛みや拘縮が遷延するケースも少なくありません 。
  • リスク因子: 糖尿病が筆頭であり、糖尿病患者の有病率は最大29%に達し、遷延化しやすい傾向にあります 。その他、甲状腺疾患もリスクとして挙げられます 。
  • 画像診断: 単純X線では骨に特徴的な異常を認めないことが多いですが、MRIや超音波検査では烏口上腕靭帯(CHL)の肥厚や腱板疎部の炎症・瘢痕化、腋窩陥凹の容積減少などが確認されます 。

病期(典型的な経過)

臨床経過は大きく3つの病期に分けられます 。

  • 第Ⅰ期:炎症期(疼痛期/freezing phase)
    1. 発症から約2.5〜9か月持続 。
    2. 安静時痛・夜間痛・運動時痛が強く、関節包の炎症や内圧上昇、周囲筋の防御性収縮によって、あらゆる方向への可動域が制限され始めます 。

  • 第Ⅱ期:拘縮期(frozen phase)
    1. から約4〜12か月後 。
    2. 炎症は落ち着き安静時痛は軽減しますが、全方向への著明な可動域制限(特に外旋)と運動最終域での痛みが前景化します 。関節包の線維化・肥厚が主因です 。

  • 第Ⅲ期:寛解期(回復期/thawing phase)
    1. 発症から約12〜42か月かけて到達 。
    2. 疼痛は消失し、制限されていた可動域が徐々に改善していきます 。


腱板損傷との鑑別ポイント(要約)

“五十肩”と診断されていても、腱板断裂などの他疾患が隠れていることが多いため、鑑別が不可欠です。

項目
肩関節周囲炎(五十肩)
腱板断裂
年齢・性別
40〜50代、女性に多い
60歳以降、男性にやや多い
痛みの場所
肩前面(烏口突起周囲)など広範囲
主に肩外側(三角筋付近)
筋力低下
著明な低下はなし
外転・外旋筋力の低下あり
可動域制限
全方向で強い拘縮(他動運動も制限)
拘縮は比較的軽度。自動運動のみ困難な場合も
画像所見
X線は原則異常なし。造影で容量低下
X線でAHI(肩峰骨頭間距離)が6mm以下へ狭小化


痛みの出方と夜間痛のメカニズム

  1. 運動時痛: 炎症による発痛物質の産生に加え、拘縮した組織が機械的に刺激(インピンジメント等)されることで生じます 。
  2. 安静時痛: 強い炎症がある時期の特徴で、刺激がなくても痛みます 。
  3. 夜間痛:
    • メカニズム: 臥位では上腕骨頭が後方に押し込まれ、烏口肩峰アーチ下の圧力が上昇して虚血状態を招いたり 、肩甲骨が固定された状態で上腕骨が重力により伸張され、烏口上腕靭帯や腱板疎部へのストレスが増大することで発症します 。

拘縮の理由と制限因子

非収縮性組織(関節包・靭帯)の硬化と、収縮性組織(筋)の短縮の両方が関与します。

  • 外旋制限: 烏口上腕靭帯(CHL)、前上方関節包、肩甲下筋の短縮 。
  • 屈曲制限: 後下方関節包、下関節上腕靭帯の短縮 。
  • 内旋制限: 後上方関節包、棘下筋、小円筋の短縮 。

初期は痛みによる筋の**防御性収縮(痙縮)**が制限の主因ですが、中期以降は関節包の肥厚や線維化、癒着が主因へと切り替わります 。


病期別リハビリ戦略とエビデンス

第Ⅰ期(炎症期・疼痛期)

  • 目標: 疼痛緩和、炎症の鎮静、防御性収縮の抑制。
  • 医療介入: 炎症を抑えるステロイド注射やヒアルロン酸注射、NSAIDs(消炎鎮痛薬)の内服が有効です 。
  • リハビリ: 痛みを伴わない愛護的な自動運動が推奨されます 。
  • 禁忌: 強い痛みを与える積極的なストレッチやマッサージ、関節モビライゼーションは、炎症を悪化させるため控えます 。
  • 夜間対策: 患側の肘や肩の下にタオルやクッションを敷き、肩関節を軽度屈曲位に保つポジショニングが有効です 。

第Ⅱ期(拘縮期)

  • 目標: 組織の柔軟性改善、可動域の拡大。
  • 介入: 関節モビライゼーションや徒手療法が有効です 。
  • 物理療法: ストレッチ前に温熱療法(マイクロ波やホットパック)を行うことで、組織の伸展性を高めます 。
  • 在宅: 「痛気持ちいい」範囲でのセルフエクササイズを習慣化します 。

第Ⅲ期(寛解期・回復期)

  • 目標: 実用的な可動域の完全獲得、機能再学習。
  • 介入: 最終域での保持を伴う積極的な伸張運動。棒体操や滑車運動などを用いて、日常生活に必要な挙上や結帯動作の再獲得を目指します 。

よくある質問(Q&A)

Q1. どのくらいで治りますか?
A. 一般的には1〜2年で寛解しますが、適切なリハビリにより疼痛期間の短縮や可動域の予後向上が期待できます 。

Q2. 痛くても動かした方がよい?
A. 炎症期は「痛くない範囲」に留めることが鉄則です。痛みを我慢する強引な運動は防御性収縮を助長し、逆効果となります 。

Q3. 温めるのと冷やすの、どちらが良い?
A. 強い炎症(熱感がある等)がある初期は短時間のアイシングが有効な場合がありますが、拘縮期は血流を促す温熱療法が推奨されます 。

Q4. 腱板断裂との見分け方は?
A. 腕を自力で保持できない(下垂してしまう)、筋力が著しく弱い、夜眠れないほどの激痛が続く場合は腱板断裂の疑いがあり、速やかな受診が必要です 。

Q5. 糖尿病があると言われましたが関係ありますか?
A. はい、非常に深く関係します。糖尿病の方は血糖コントロールを良好に保つことが、肩の回復スピードにも大きく寄与します 。


最終更新:2026-05-12