脊髄小脳変性症のリハビリ治療

脊髄小脳変性症の概要

脊髄小脳変性症とは、小脳もしくは小脳への連絡線維が変性し、運動失調症状が出現する疾患の総称です。

有病率は人口10万人あたり10人前後とされ、神経難病の中では比較的頻度が高いです。多くの病型が報告されており、それぞれで主症状や経過は異なります。

小脳が障害されると、四肢体幹の運動失調、眼球運動障害、構音障害、筋力低下、筋緊張低下、歩行障害、眼振、企図振戦などが認められます。

小脳症状に加えて、錐体路症状、錐体外路症状(パーキンソン症候群)、自律神経症状、末梢神経症状などの様々な病態を呈します。

SCD の分類と臨床的特徴

脊髄小脳変性症は、①孤発性(30%)と②遺伝性(70%)に大別されます。また、そこからさらにいくつかの病型に分類されます。

孤発性脊髄小脳変性症

1.線条体黒質変性症(striatonigral degeneration:SND)
50歳代の男性に好発し、主に被殻に変性を認め、初発症状は錐体外路症状です。パーキンソン病は振戦が50-70%に初発しますが、本症は10%程度にとどまります。生命予後は約10年です。
2.オリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellaratrophy:OPCA)
日本人の中年以降に好発し、初発症状は小脳症状(運動失調)です。経過とともに錐体外路症状、自律神経症状を呈します。
3.Shy-Drager 症候群(Shy-Drager syndrome:SDS)
中年以降に好発し、初発症状は自律神経症状です。徐々に小脳症状や錐体外路症状が出現します。予後は緩徐な進行性をたどります。
4.皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)
中年以降に好発し、初発症状は運動失調です。錐体外路症状や自律神経症状の発生は少なめです。予後は比較的に良好です。

遺伝性脊髄小脳変性症

1.SCA1(spinocerebellar ataxia type 1):優性遺伝
東北や北海道の発生が多く、西日本ではほとんど認められません。初発症状は運動失調で、進行すると腱反射亢進、眼球運動障害、顔面筋力低下が加わります。
2.SCA2(spinocerebellar ataxia type 2):優性遺伝
キューバのホルガイン地方で多く発生します。初発症状は運動失調で、眼球運動速度の低下、末梢神経障害、認知症などを伴います。
3.SCA3(spinocerebellar ataxia type 3)(Machado-Joseph病):優性遺伝
遺伝性脊髄小脳変性症の中で最も頻度が高い疾患です。初発症状は運動失調で、眼球運動障害、びっくり眼、錐体路・錐体外路症状、末梢神経障害などを伴います。
4.SCA4(spinocerebellar ataxia type 4)
小脳症状、錐体路症状に加えて軸索変性を伴う感覚障害が出現します。
5.SCA5(spinocerebellar ataxia type 5)
30-40歳代に好発し、初発症状は歩行障害が多く、上肢の運動失調症、構音障害など軽度の症状を呈します。
6.SCA6(spinocerebellar ataxia type 6):優性遺伝
純粋な小脳症状を示し、進行は緩徐です。日本の遺伝性SCDでは発生頻度が高いです。頭位変換に伴うめまいなどの症状を自覚する場合が多いです。
7.歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA):優性遺伝
小児から高齢者まで発症します。若年型ではてんかん発作やミオクローヌス、遅発成人型(40歳以上)では舞踏病や認知症を伴います。
8.Friedreich失調症:劣勢遺伝
小児期から若年期に好発し、脊髄性運動失調(深部感覚障害)の示します。日本ではほとんどみられません。
9.家族性痙性対麻痺(hereditary spastic paraparesis:HSP) 
純粋型(優性遺伝)と複合型(劣勢遺伝)に分類でき、前者は進行が早く知覚障害や排尿障害を認めます。後者は錐体路症状、小脳症状、魚鱗症、精神発達遅滞など多彩な症状を呈します。

画像診断について

MRIやCT検査にて、小脳や脳幹部の萎縮像が確認できます。オリーブ橋小脳委縮症では小脳と橋、皮質性小脳委縮症では小脳に強い萎縮が起こります。

確定診断には遺伝子診断が用いられ、採血した血液中の白血球のDNAについて遺伝子解析が行われます。

以下のMRI画像では、多系統萎縮症によって小脳及び脳幹部が萎縮しているのがわかります。

多系統萎縮症①  多系統萎縮症②
脊髄小脳変性症のMRI 脊髄小脳変性症のMRI2

多系統委縮症の中には、①オリーブ橋小脳萎縮症、②線条体黒質変性症、③シャイ・ドレーガー症候群がありますが、これらは基本的に同じ病気です。

ただし、臨床ではそれぞれで強く出現する症状が異なるので、違う病名がついています。以下が簡単な見分け方です。

  小脳症状 パーキンソン症状 自律神経症状
オリーブ橋小脳萎縮症
線条体黒質変性症
シャイ・ドレーガー症候群

重症度(簡易)

下肢 上肢 会話
独歩 ごく軽い不器用 ごく軽い不明瞭
介助は時々 箸は可 聞き取り可
補助具+常時介助 スプーン等へ 少し聞き取りにくい
歩行不能・車椅子 食事介助多い かなり聞き取りにくい
臥床 粗大動作も困難

※日内変動がある場合は最も重い時間帯で評価。

リハビリテーション(実践のコツ)

A. 小脳性運動失調への基本戦略

  1. 感覚入力を増やす

  • 触圧覚刺激、PNF等の促通、弾性スリーブ/圧迫バンドで関節位置覚を補強。

  1. 運動出力を安定化

  • 重錘バンド(手首/足首 0.25–0.5 kg程度)で振戦・測定障害を軽減(使い過ぎに注意)。

  • 座位・四つ這いなど安定肢位での分節練習→立位・歩行へ段階化。

  1. 運動学習

  • タスク指向・高頻度・短時間反復(疲労前に終了)。視覚フィードバック(鏡、床マーキング)を積極活用。

脊髄小脳変性症のバランス訓練 脊髄小脳変性症のバランスボールエクササイズ

B. 歩行・ADLの安全化

  • 補助具:四点杖/歩行器、膝装具、靴型装具、ヘッドギア/ヒッププロテクター

  • 住環境:手すり増設、段差解消、転倒リスクの高いマット撤去、夜間照明。

C. 起立性低血圧(特にMSAで重要)

  • こまめな分割起立(ギャッジアップ→端座位→立位)。

  • 弾性ストッキング/腹帯、水分・塩分の最適化、食後は座位・頭部挙上

  • 発生パターン(起立直後/起立保持後/食後30–60分)を把握し、その時間帯の活動を調整

D. 構音・嚥下

  • スピーチ練習(大きな声・はっきり発声、テンポ調整)、食形態調整、姿勢・一口量・休息の工夫。必要時は嚥下評価。

E. 負荷設定の原則

  • 安全最優先、疲労を翌日に残さない。RPE 11–13程度、休息を挟むインターバル方式

  • 症状増悪日・高温環境・起立性低血圧が強い日は量を減らす/中止

時期別の関わり方

  • Ⅰ–Ⅱ度(軽度):仕事・家事の継続支援、ホームプログラム(短時間・毎日)、通勤/移動手段の工夫、早期からの転倒予防教育

  • Ⅲ–Ⅳ度(中~重度):介助量を減らす工夫、補助具最適化、廃用予防(ROM・立位・短距離歩行)、介護保険等の制度活用

  • Ⅴ度(最重度):褥瘡・拘縮・誤嚥予防、ポジショニングと体位変換、エアマット、呼吸・嚥下リハ、座位保持訓練、家族教育


よくある質問(FAQ)

Q1. 運動はどれくらい?
A. 短時間×高頻度(例:10–15分を1日2–3回)。疲労やふらつきが出る前に終了。

Q2. 重りは常時つけて良い?
A. 場面限定(手作業・歩行練習時のみ)。過重で逆に不安定になることがあるため、最小重量から試す

Q3. 起立性低血圧が怖い…
A. 起立は段階的に。腹帯・弾性ストッキング、食後直後の立位は避ける。危険日は室内での座位訓練中心に。

Q4. リハで病気の進行は止められる?
A. 進行自体は止められませんが、転倒・廃用・誤嚥などの二次障害を防ぎ、できることを長く保つことは可能です。

Q5. どの科にかかれば?
A. 神経内科が基本。MSAや遺伝性が疑わしい場合は専門外来/遺伝カウンセリングも併行。

Q6. 自主トレの優先順位は?
A. 1) バランスと立位の練習2) 手先の協調(大きくゆっくり)3) 柔軟性(痛みなし)4) スピーチ・嚥下のセルフケア


最終更新:2025-09-09