脳卒中のリハビリ治療

脳卒中の病態と回復のメカニズム

脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は、脳組織の損傷により運動麻痺や高次脳機能障害を引き起こします 。一度死滅した脳細胞は元に戻りませんが、脳には可塑性があり、適切なリハビリテーションによって神経ネットワークの再組織化(アンマスキングや芽生え)が促され、機能回復が可能となります 。

  • 最新の研究知見: 近年の研究(日独チームによるネイチャー誌発表)では、発症直後の脳機能回復に免疫細胞であるミクログリアが重要な役割を果たすことが解明されました。損傷後約1ヶ月間、ミクログリアが栄養物質を産生して修復を促しますが、2ヶ月後にはZFP384というたんぱく質の影響でその回復力が失われます。この仕組みを制御する薬剤開発が、後遺症軽減の新たな鍵として期待されています。

リスク因子と再発予防

  • 主要リスク因子: 高血圧(140/90mmHg以上)、糖尿病、脂質異常に加え、心房細動は脳梗塞リスクを4〜5倍に高めます 。
  • 再発率: 脳卒中の再発率は10年で約25%に達します 。再発予防には、血圧管理(130/80mmHg未満目標)や禁煙、週3〜5回・20〜60分の有酸素運動が不可欠です 。

冠状断から見た脳動脈の位置と潅流領域(栄養部位)

1.冠状断から見た場合
脳動脈の還流領域
2.水平断から見た場合
脳動脈の潅流領域|水平断
3.矢状断から見た場合
脳矢状断②

脳出血の好発部位と主症状

脳出血の部位別割合

脳出血の図

被殻出血

対側の片麻痺や感覚障害、意識障害、失語症(優位半球)が出現する。被殻に栄養を供給するレンズ核線条体動脈の破裂によって起こる。

脳画像診断|被殻出血

視床出血

対側の片麻痺や感覚障害、意識障害、視床痛、不随意運動、失語症(優位半球)が出現する。後視床穿通動脈および視床膝状体動脈の破裂によって起こる。脳室へ穿破すると正常圧水頭症、覚醒障害を起こすことがある。

脳画像診断|視床出血

皮質下出血

対側の片麻痺や感覚障害が出現する。出血部位で症状が大きく異なり、優位半球では失語症や失行、劣位半球では左半側空間無視や病態失認が起こる。

脳画像検査|大脳皮質下出血

小脳出血

頭痛、嘔吐、回転性めまい、運動失調、構語障害が出現する。脳幹の圧迫で急激な意識障害が起こる場合がある。

脳画像診断|小脳出血

脳幹(橋)出血

運動失調(四肢麻痺)、呼吸障害、複視、嚥下障害、血圧低下などが出現する。脳幹は呼吸・循環など生命維持活動の中枢であるため、生命の危険がある。

脳画像検査|脳幹出血

脳梗塞の好発部位と主症状

脳梗塞の図

脳梗塞の部位別割合

血栓性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞)

脂質が動脈内膜に蓄積して狭窄を招き、進行して閉塞した状態。脳動脈の血流量が正常時の1/3以下になると神経症候が明らかとなる。血圧が下がることで閉塞状況は悪化して重症化する。皮質や島回、放線冠など広範な梗塞に及ぶことが多い。

塞栓性脳梗塞(心原性脳塞栓症)

心臓や動脈に生じた血栓が遊離して脳血管に流入して突発的に閉塞した状態。血栓性脳梗塞と比較して死亡率や予後が不良となりやすい。皮質や島回、放線冠など広範な梗塞に及ぶことが多い。発症後2-14日以内に閉塞血管の自然再開通が約40%に認められるが、この現象が出血性脳梗塞などの原因となる。血栓性より安静期間を長くとり、徐々に座位を獲得していく。

多発性脳梗塞(ラクナ梗塞)

血栓性脳梗塞の一種で、15mm以下の小梗塞が複数存在している状態。大脳基底核、視床、内包、放線冠、橋などの穿通枝領域に生じる。脳血管性認知症や排尿障害、歩行障害、嚥下障害を伴うことが多い。比較的に状態が良好である場合が多く、階段状にゆっくりと進行していく。

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引用画像(1)

くも膜下出血

原因として最も頻度が高いのが脳動脈瘤の破裂で75%を占める。脳動脈瘤破裂の好発年齢は40-60歳、脳動静脈奇形は20-40歳となる。日本ではやや女性に多く、近年は増加傾向にある。死亡につながる可能性も高いが、救命がかなった場合では予後良好な症例が多い。

くも膜下出血の図

脳画像検査|くも膜下出血

一過性脳虚血発作(TIA)

24時間以内に症状が完全に消失する一過性の血流障害。症状は突発性で2-15分ほど続いて回復するケースが多い。症状は、一過性黒内障、構音障害、片麻痺症状、同名半盲、感覚障害、失語、平衡障害、複視、回転性めまい、嚥下障害などが出現しやすい。脳梗塞、脊髄梗塞、網膜虚血症を発症する危険性が極めて高い状態である。

一過性脳虚血発作


急性期リハビリテーション(発症〜約1週間)

  • 早期介入の有効性: 発症48時間以内の理学療法開始は、ADLやQOLを改善させる可能性があり、強く推奨されます 。
  • コア介入: 褥瘡・肺炎予防のためのポジショニング、呼吸管理、ベッドアップから端座位への段階的離床を実施します 。
  • リスク管理: 神経症状の進行がないことを確認し、血圧・脈拍の変動基準(実施中の脈拍≤120/分など)を遵守します 。

回復期リハビリテーション(約9〜12週)

  • 有酸素運動: 呼吸機能、麻痺側運動機能、歩行能力の向上のために、自転車エルゴメータやトレッドミルを用いた有酸素運動が**強く推奨(グレードA)**されています 。
  • 歩行練習: 装具療法:
    • **短下肢装具(AFO)**の使用は歩行速度とバランスを改善させます 。
    • ロボット・FES: ロボット支援歩行や機能的電気刺激(FES)は、高頻度反復練習を可能にし、歩行の自立度を高める一助となります 。
  • 上肢リハビリテーション: 課題指向型練習や反復リーチ運動が有効です。軽症例では**強制使用療法(CIMT)**も検討されます 。
  • 特定コンセプト: 促通反復療法やPNFなどの特定コンセプトは、一般運動療法との併用により上肢機能やバランス能力の改善に寄与する可能性があります 。

生活期(慢性期):社会参加と機能維持

  • 身体活動の維持: 体力維持と骨量減少防止のため、有酸素運動や荷重立位、歩行練習を継続します 。
  • 在宅・遠隔リハ: 生活指導を含む在宅リハビリテーションはADLやQOLの向上に有効です 。
  • 麻痺側上肢の活用: 生活環境を調整し、麻痺手を実用手として「使う」設定を行うことが、痙縮の悪化を防ぎ機能を維持します 。

リスク管理と合併症予防(重要)

  • 危険サイン: 突然の激しい頭痛、悪心・嘔吐、意識障害、神経症状の急激な悪化、著明な血圧変動は再発や合併症(脳浮腫など)を疑い、直ちに主治医へ報告します 。
  • 二次的障害: 深部静脈血栓症(DVT)、拘縮、褥瘡、肩手症候群などの予防に対し、早期離床と適切なポジショニングが不可欠です 。

よくある質問(Q&A)

Q. リハビリはいつから始めるべき?
A. 医師が神経症状の進行停止を確認し、全身状態が安定すれば、**超早期(発症48時間以内)**から開始します。早期離床は合併症予防に極めて有効です 。

Q. 下肢装具は必ず必要?
A. 膝の崩れや、足先が引っかかる尖足が歩行の妨げ(ボトルネック)になる場合は、早期に症状に合わせた装具(LLB/SLB)を選択して使用します 。

Q. 上肢の回復を促すポイントは?
A. 物を掴む・置くといった目的志向型の課題を、高頻度で繰り返すことが重要です。最新の知見では、イメージ訓練(メンタルプラクティス)の併用も有効とされています 。

Q. 痙縮(つっぱり)が強いときはどうすればいい?
A. ストレッチやポジショニングが基本ですが、TENS(電気刺激)や振動刺激、ボツリヌス治療などを多職種チームで検討し、筋肉の緊張を緩和させます 。

Q. 再発予防のためにどのような運動をすべき?
A. 安全なバイタル基準内で、週3〜5回、1回20〜60分の有酸素運動(歩行、自転車、水中運動など)に加え、下肢筋力強化を継続します 。

Q. 歩行訓練に移る目安は?
A. 端座位や立位の耐久性がつき、起立性低血圧などの症状が安定し、必要な装具が準備でき次第、段階的に進めます 。

Q. 家族は退院に向けて何を準備すればいい?
A. 転倒・誤嚥対策(手すり、食事姿勢の確保)、通院や介護サービスの選定など、退院前カンファレンスを通じて具体的な生活環境を整えることが重要です。


最終更新:2026-05-14