脳血管性認知症(VaD)のリハビリ治療

要点

  • 定義:脳梗塞・脳出血など脳血管障害の結果として生じる認知症。穿通枝などの小血管の硝子変性や閉塞が蓄積(多発性ラクナ梗塞など)して進行することが多い。
  • 症状の出方:障害部位によって症状にむらがあり(まだら認知症)、できる機能とできない機能が混在する。階段状に悪化しやすいのが特徴。
  • 好発:高齢男性に多く、初期は自覚に乏しい。
  • 治療の軸:**再梗塞予防(危険因子管理+薬物)**と、症状への対症療法。
  • リハビリ:運動療法の効果が比較的出やすい。低強度での有酸素運動や筋力強化を継続し、廃用と転倒を予防することが重要。

脳血管性認知症のMRI画像所見

引用元:循環器画像技術研究会


VaDの臨床像

  • 認知面:記憶障害は軽~中等度にとどまる一方、**遂行機能低下(段取り・注意切替の障害)**が目立ちやすい。例えば前大脳動脈領域(前頭葉)の梗塞などでは、意欲低下や遂行機能障害を生じやすい。
  • 神経症状:片麻痺、腱反射亢進、感覚障害、構音障害などの局所神経所見が同居する。損傷部位によって、例えば視床の病変では半身の感覚鈍麻や強いしびれ(視床痛)、被殻の病変では運動麻痺などが伴う。
  • 精神・行動:行動の遅滞、うつ・不安が比較的強く出やすい。脳卒中後うつ(PSD)は高頻度でみられ、ADL(日常生活活動)低下の要因となるため注意が必要である。一方、病識や判断力は保たれやすい。
  • 歩行:ワイドベース(両足を広く開く)・小刻み歩行となりやすく、早期から歩行障害や尿失禁が出現しやすい。

他疾患との鑑別ポイント

【アルツハイマー病(AD)との違い】

  • VaDの特徴:局所神経徴候(片麻痺など)があり、突然発症や急激な増悪、階段状の進行が目立つ。遂行機能低下が強く、語想起・呼称・復唱の障害がやや多いが、病識は残りやすい。
  • ADの特徴:記憶障害が前景に立ち、歩行などの運動機能は後期まで保たれやすい。
  • 画像所見の鑑別:脳血流SPECT検査において、VaD(脳梗塞など)では局所的な血流低下が見られるのに対し、ADでは両側の側頭葉・頭頂葉に特徴的な血流低下が認められる。
  • ※混合型(AD+VaD)も少なくない(ADの約15%)。

【パーキンソン病(PD)との違い】

  • VaDは日内変動が少なく、安静時振戦(手足の震え)は稀であり、L-dopa製剤への反応も乏しい。
  • 歩行は小刻みでワイドベースだが、PD特有の突進現象や加速は出にくい。高齢発症で認知症の併発が多い。

診断の考え方と検査

  • 「せん妄」の除外:脱水・感染・薬剤・環境変化などで急性・可逆的な“認知症様”症状(せん妄)が出ることがあるため、まずこれを除外する。
  • 認知・精神機能評価:全般的な認知機能の評価にはMMSEやMoCA-J、HDS-Rなどが用いられる。特にMoCA-Jは軽度な認知機能障害の検出に優れる。
  • 画像・機能検査:
    • 頭部CT/MRI:多発ラクナ梗塞(CTでは15mm以下の低吸収域)、白質虚血性変化、皮質萎縮の分布を確認する。
    • MRIの拡散強調画像(DWI)は急性期虚血の検出に優れ、T2*強調画像は陳旧性の微小出血の検出に非常に有用である。
    • MRA・脳血流シンチ:血管の狭窄・閉塞、血流低下の分布を評価する。

治療と再発予防(基本戦略)

  • 危険因子の厳格管理:高血圧・糖尿病・脂質異常・心疾患・喫煙・不整脈(心房細動)などの管理。
  • 再梗塞予防薬:抗血小板薬など(主治医の方針に従う)。
  • 症状別対症療法:抑うつ・不安には抗うつ薬等を適宜使用する。
  • パーキンソニズム:脳循環・代謝改善薬が効く場合があるが、L-dopaは原則として反応が乏しい。

リハビリテーション

1)生活環境の最適化

  • 物的環境:家具の配置工夫、トイレや動線の単純化、転倒予防。
  • 人的環境:キーパーソンの明確化。指示方法は一貫させ、大きく変えない。
  • 生活リズム:食事・軽運動・睡眠を規則正しく行う。

2)運動療法(低強度×反復)

脳卒中ガイドラインにおいても、有酸素運動や筋力強化運動、バランス練習は歩行能力やADLの改善に有効とされている。

  • 強度:予測最大心拍数の55–65%(会話ができる程度)を目安とする。
  • 頻度・量:1日20–60分、週3–5回。
  • 内容:有酸素運動(平地歩行やエルゴメーターなど)に、下肢・体幹を中心とした筋力トレーニングを組み合わせる。
  • 工夫:**集団レク(風船バレー、輪渡し)**やサーキットトレーニングなどを取り入れ、楽しさと継続性を高める。階段昇降などの外的手掛かりが歩行改善に役立つ例もある。

3)心理・活動プログラム

  • 回想法、リアリティ・オリエンテーション(RO)、音楽、園芸、陶芸、動物や子どもとの交流など、意味のある活動で意欲と気分を支える。
  • 期待できる全身効果:心筋・末梢血管内皮機能の改善、骨格筋のミトコンドリア密度・酸化酵素増加、筋線維タイプのシフト促進など。

家族・介護者のコツ

  • 家族・介護者のための対応のコツ指示は短く具体的に:注意障害やワーキングメモリの低下がある場合、一度にたくさんの指示を与えると混乱を招くため、多段の同時指示は避ける。
  • 予定の「見える化」:カレンダーやチェックリストを活用し、記憶や段取りを視覚的に補う。
  • 転倒予防の徹底:段差解消、夜間照明の確保、手すりや滑り止めの設置。
  • 過度な安静の防止:歩行障害や転倒への恐怖から座位・臥位に固定されると、さらなる廃用悪化の悪循環に陥るため、安全を確保した上での活動を促す。
  • 早期受診のサイン:気分や睡眠の変化、急な認知機能の悪化が見られた場合は早めに受診する。

よくある質問(FAQ)

Q. VaDの物忘れは良くなりますか?
A. 既存の障害(死滅した脳細胞)は大きく戻らないことが多いですが、再発予防と運動・環境調整によって悪化速度を緩めたり、残存機能を生かして生活機能を底上げする余地は十分にあります。

Q. アルツハイマー病との違いを家庭で見分けられますか?
A. 段取りの悪さ・手順ミス・注意の途切れが目立ち、片麻痺やしびれなどの局所症状が同居しやすい場合はVaDを疑います。確定診断には医療機関での画像検査(CT/MRIや脳血流検査など)と詳細な神経心理検査が必要です。

Q. どんな運動が安全ですか?
A. 平地歩行と軽い筋力トレーニングから始めます。息が上がらず「会話ができる程度の強度」を守り、週3–5回を目安に行います。開始や増量の際は必ず主治医に相談してください。

Q. 薬は効きますか?
A. VaD治療のコアは「再梗塞の予防(血液をサラサラにする薬や血圧管理など)」です。認知機能を直接改善する薬の効果は限定的ですが、うつ・不眠・不安などの随伴症状に対しては薬物が有効な場合があります。

Q. 進行は止められますか?
A. 完全に停止させることは困難ですが、血圧・血糖・脂質・不整脈の厳格な管理、禁煙、そして継続的な運動によって、進行リスクを大幅に下げることは期待できます。

Q. 歩行が不安定で外出が怖いです
A. 杖、歩行器、手すりの活用や、安全な屋内コースの設定などで「歩く機会」を確保してください。恐怖で動かなくなること(廃用症候群)が最大の敵です。

Q. リハビリを嫌がります
A. 短時間で切り上げ、音楽・回想・ゲーム性のある本人の好きな活動と組み合わせてみてください。小さな成功体験を重ねることで、参加が安定しやすくなります。

Q. いつ受診すべきですか?
A. 急な悪化、発熱、脱水、転倒、あるいは新たな手足の麻痺やしびれが出た場合は早急に受診してください。新たな脳卒中の発作や、薬の副作用、感染症などによる「せん妄」の可能性もあります。


最終更新:2026-06-05