ドケルバン病の概要
|場所-1024x649.jpg)
-
発生部位:手首の母指側(橈側)にある第1背側コンパートメント(短母指伸筋腱 EPB/長母指外転筋腱 APL が通る腱鞘)。
-
病態:腱と腱鞘のこすれ(狭窄)が続き、腱鞘が厚く硬くなる。炎症というより変性(肥厚)優位のことも多い。
-
主症状:橈側手関節~母指基部の痛み・腫れ・きしみ、母指の外転/伸展や手関節尺屈で増悪。
好発・誘因
-
手の酷使:PC・スマホ連打、マンガ/ピアノ/編み物、工具作業、ベビーの抱き上げ(“ママの手首”)。
|初期症状-300x206.png)
-
ホルモン変化:妊娠・産後、更年期。
-
解剖バリエーション:**腱鞘内の仕切り(SEPTA)**があると再発しやすい。
簡易スクリーニング(セルフチェック)
-
アイコフ(Eichhoff):親指を手の中に入れて拳を作り、手首を小指側へ倒す→橈側痛で陽性。
-
フィンケルシュタイン(Finkelstein):検者が親指をつまみ受動で尺屈→痛み誘発。
-
WHATテスト(Wrist Hyperflexion and Abduction of the Thumb):手首最大掌屈+母指外転保持で痛み→感度が高いとされる。
※アイコフは偽陽性が出やすいので、2つ以上の一致で判断を。
鑑別(間違えやすいもの)
-
母指CM関節症(母指付け根の関節痛)…グラインドテスト陽性。加齢で多い。
-
インターセクション症候群…痛点は手首より4–8cm近位で軋轢音。
-
橈骨茎状突起の骨折/疲労骨折、C6根障害、橈骨神経浅枝の絞扼 など。
評価の要点
-
圧痛点(橈骨茎状突起直上)、腫脹、腱のすべり、握力・ピンチ力。
-
超音波で腱鞘肥厚・滑液貯留・隔壁の有無を確認できると計画が立てやすい。
保存療法(まずはここから)
1) 活動調整・生活指導
-
NG動作:手首の反復尺屈+母指外転/伸展の組み合わせ(抱き上げ、スマホ片手スクロール、重い鍋を小指側へ傾ける等)。
-
OK動作:前腕ごと体で運ぶ、母指は軽く曲げ気味、手首は真っ直ぐをキープ。育児は両前腕で抱える/体幹で回す。
2) 装具・テーピング
-
母指スパica装具(短~長母指対立副子):手関節と母指MPを固定(母指IPは自由でもよい)。2–6週の相対安静に有効。
-
テーピング(自分で貼れる簡易版)
-
伸縮テープを手のひら側母指基部から背側へ斜めに1巻(母指外転/伸展を制限)
-
もう1本を手関節掌側から背側へ半周(尺屈ブロック)
※皮膚トラブルに注意、痛みが軽くなる角度で張力を微調整。
-
|テーピング方法-300x225.jpg)
3) 物理療法
-
急性増悪:アイシング(10–15分)、軽圧の保護パッド。
-
亜急性以降:温熱→軽い動きで血流/滑走性を戻す。超音波・低出力レーザーは補助的に。
4) 注射療法(整形外科)
-
ステロイド腱鞘内注射は有効例が多く、隔壁があれば“2室とも”に届くようエコーガイドが理想。再発時は回数を重ねる前に評価見直し。
-
それでも再燃・難治なら腱鞘切開(第1コンパートメント解放)。橈骨神経浅枝の保護と腱の前方脱転予防が手技の要点。
|手術-1024x589.jpg)
腱鞘炎の重症度分類-オリジナル –
腱鞘炎の分類法を探してみたのですが見つからなかったので、演奏家のための治療ガイドより一部抜粋して改編分類したので掲載します。
| 症状・処置 | |
| Level 1 | 腕のだるさや指が開きにくいなどの違和感がある。痛みはない。この時点で腱鞘炎と気付く人はほとんどいない |
| Level 2 | 使用中の不快感、瞬間的な痛み、軽度の炎症所見がある。痛みの部位は曖昧。病院に行くほどでもないと考える |
| Level 3 | 使用中や後に炎症所見が出現し、数日間にわたって継続する。特定した圧痛部位が出現する。病院に行こうと考える人が現れる |
| Level 4 | 日常生活での単発的な使用が痛みの原因になる。激しい叩打痛を伴う。消炎鎮痛の注射、テーピングや簡易装具による固定を必要とする |
| Level 5 | すべての動作が痛い、安静時痛の出現、強い炎症所見を伴う。手術による治療、装具による完全固定を検討する |
エクササイズ(痛み段階に合わせて)
痛み強い時期(Level 3–5 相当)
-
等尺性
-
母指外転/伸展:痛くない力で5秒×10回×2–3セット/日(装具外して実施)。
-
-
腱滑走
-
母指IP・MPの軽い屈伸、手関節は中間位で“すべらせるだけ”。
-
痛みが落ち着いてきたら(Level 1–2)
-
可動域:手関節橈屈↔中間位の小振幅往復、母指の内外転(痛み手前)。
-
エセンリック(摩擦に勝てる組織づくり)
-
母指外転エキセン:ゴムバンドでゆっくり戻す8–12回×2–3
-
手関節橈屈/伸展のコントロール:0.5–1kgの軽負荷でフォーム重視。
-
姿勢・上流(プロキシマル)介入
-
肩甲帯後傾・下制、前腕の回内外バランス、握り込み過多の是正(太めグリップ/縦型マウスなど)。
クリニックでの“効く”ポイント
-
痛み再現動作の特定(尺屈?母指外転?握り込み?)→その1つを変える提案から。
-
超音波で隔壁の有無を確認できれば、注射や手術の方針がブレにくい。
-
鑑別(CM関節症/インターセクション)を毎回意識。治りが遅い時は特に。
よくある質問(FAQ)
Q. どのくらいで良くなりますか?
A. 生活調整+装具+運動で数週~数か月が目安。再発の鍵は使い方の修正です。
Q. 注射は怖いです。
A. 正しく腱鞘内に入れば高い寛解率が期待できます。エコーガイドだと確実性と安全性が上がります。
Q. 手術後はすぐ動かせますか?
A. 早期から滑走重視の可動を開始し、瘢痕での再狭窄を防ぎます。医師の創管理指示に従って段階的に。
Q. テーピングとサポーター、どっちが良い?
A. 自分で再現できるならテーピングも有効。長期は着脱が簡単な装具が続けやすいです。
最終更新:2025-10-15