ドケルバン病の概要
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ドケルバン病は、手首の橈側(母指側)にある第1背側コンパートメントを通る長母指外転筋腱(APL)短母指伸筋腱(EPB)、およびそれらを包む腱鞘に生じる狭窄性腱鞘炎です 。
- 病態の本態: 腱と腱鞘の間の摩擦が繰り返されることで腱鞘が肥厚・変性し、滑走障害が生じます 。
- 解剖学的バリエーション: 約60%の症例で、腱鞘内にAPLとEPBを隔てる**中隔(隔壁:Septum)**が存在します。この隔壁がある場合、通常の保存療法や腱鞘内注射に抵抗しやすく、再発を繰り返す要因となります 。
好発・誘因と運動学的要因
- 背景: 手の酷使(PC、スマホ、育児)、妊娠・産後や更年期のホルモンバランスの変化が主な誘因です 。
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- 代償動作の関与: 臨床的には、前腕の回内・回外や手関節の可動域制限を、母指の過剰な動きや手関節の尺屈で代償することで、第1区画への摩擦ストレスが増大し発症するケースが多く見られます 。
- アナトミー・トレインの視点: 筋膜のつながりにおける滑走不全が、母指の腱鞘炎を引き起こす遠因となることもあります 。
スクリーニングと評価の要点
正確な診断のために、複数の徒手検査と画像診断を組み合わせます。
- アイコフ・テスト(Eichhoff test): 母指を中に入れて握りこぶしを作り、手関節を受動的に尺屈させます。疼痛誘発で陽性ですが、偽陽性も多いため注意が必要です 。
- フィンケルシュタイン・テスト(Finkelstein test): 検者が患者の母指を把持し、受動的に手関節を尺屈させます。アイコフ・テストより腱への伸張が限定的です 。
- ブルネリ・テスト(Brunelli test): 母指を橈側外転させたまま手関節を撓屈・尺屈させ、腱の摩擦による痛みを誘発します 。
- WHATテスト: 手首の最大掌屈と母指の外転保持による負荷テストで、高い感度が報告されています。
- 超音波評価(エコー): 腱鞘の肥厚、滑液貯留に加え、隔壁の有無を確認することが治療計画(注射部位の選定など)において極めて重要です 。
鑑別が必要な疾患
- 母指CM関節症: 母指付け根の関節変形。グラインドテスト(関節への軸圧と回旋による疼痛誘発)で鑑別します 。
- インターセクション症候群(交差症候群): 第1区画の腱と橈側手根伸筋腱が交差する部位(手首より4-8cm近位)での炎症。軋轢音を伴うことが多いです 。
- 橈骨神経浅枝の絞扼: 手背から母指橈側のしびれや感覚障害を伴います 。
保存療法とリハビリテーション戦略
初期段階では相対的安静と活動調整が優先されます。
- 活動調整(MSIアプローチ): 痛みを引き起こす特定の運動パターン(過度な尺屈や握り込み)を特定し、修正します 。前腕ごと動かす、あるいは肩甲帯のアライメントを整えることで手首への負担を軽減します 。
- 装具・テーピング:
- 手関節と母指MP関節を固定するスプリント(短~長母指対立副子)を2〜6週間使用し、腱の安静を図ります 。
- テーピングは、手関節の尺屈制限や母指外転のサポートを目的に実施します 。
- 物理療法: 急性期はアイシング 、慢性期は組織の滑走性改善のために温熱療法や超音波療法を補助的に用います 。
- 注射療法: ステロイド腱鞘内注射は有効ですが、隔壁がある場合は両方の区画へ確実に薬液を届けるために、エコーガイド下での実施が推奨されます 。
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重症度別エクササイズ
痛みの段階に合わせて組織の耐性を高めていきます。
- 高刺激期(Level 3–5):
- 等尺性収縮: 関節を動かさず、痛みのない範囲で母指外転筋などに力を入れます 。
- 腱滑走訓練(Tendon Gliding): 手首を中間位に保ち、母指の屈伸のみを軽い負荷で行い、癒着を防止します 。
- 低刺激期(Level 1–2):
- エキセントリック訓練: 母指外転位からゆっくりと戻す動きを行い、摩擦に強い腱組織を再構築します 。
- プロキシマル(近位)介入: 肩甲骨の安定化や前腕の回内・外バランスの改善を図り、末梢への過負荷を根本から是正します 。
外科的治療
保存療法が奏功しない難治例や、明らかな隔壁が存在し症状が強い場合は、腱鞘切開術が検討されます。
- 手術のポイント: 第1コンパートメントを完全に開放しますが、術後の腱の前方脱転(浮き上がり)を防ぐための手技上の配慮が必要です 。
- 術後リハ: 早期から愛護的な腱滑走訓練を開始し、瘢痕組織による再狭窄を予防します 。
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最終更新:2026-06-08