膝蓋骨骨折のリハビリ治療

膝蓋骨骨折の概要

膝蓋骨は人体最大の種子骨であり、**大腿四頭筋の筋力を効率的に膝関節へ伝えるレバーアーム(伸展機構)**としての重要な役割を担っています 。

  • 受傷機転: 転倒や交通事故(ダッシュボード・インジュリーなど)による膝前面への直達外力や、大腿四頭筋の急激な収縮による介達外力で発生します 。
  • 解剖学的リスク: 大腿四頭筋腱と膝蓋腱の間に位置するため、筋収縮によって骨折片が上下に離開しやすい性質があります 。

治療選択の基準

骨折の形態や転位の程度により、保存療法か手術療法かが選択されます 。

  1. 保存療法の適応: 骨片の転位(離開)が3mm以下、かつ関節面の段差が2mm以下で、伸展機構が保持されている場合 。
  2. 手術療法の適応: 上記を超える転位、粉砕骨折、または伸展機構の破綻(自動伸展不能)がみられる場合 。
    • 代表的術式: Zuggurtung法(tension band wiring法)。これは骨折部に加わる離開力を、金属性のワイヤー等を用いて圧迫力(コンプレッション)に変換する画期的な固定法です 。

画像検査のポイント

  •  X線評価: 正面・側面に加え、**軸写(スカイラインビュー)**を行うことで、縦骨折や関節面の段差を詳細に確認できます 。
  • 予後への影響: 関節面の不適合(2mm以上の段差)は、将来的な膝蓋大腿(PF)関節症や疼痛の直接的な原因となります 。


リハビリテーションの原則

リハビリの進行は、**「炎症の管理」「固定性の確保」「機能回復」**のバランスを考慮します 。

  • 管理指標: 腫脹(0–1+)、疼痛(VAS 2/10以下)、**エクステンサーラグ(SLR時の膝落ち)**の有無を段階移行の基準とします。
  • バイオメカニクス: 膝屈曲角度が増すとPF関節反力が増大するため、初期は低角度(0–45°程度)から開始するのが安全です 。

時期別プロトコル(目安)

医師の指示最優先。骨折型・固定性・合併損傷で変更します。

1) 保存療法(シーネまたはギプス固定)

週数 ROM 筋力 荷重・装具 物理・徒手
0–4週 原則ROMなし(伸展位保持) 四頭筋セッティング・殿筋/下腿の等尺性、足関節ポンプ 免荷。松葉杖/装具ロック 腫脹管理(冷却・挙上)、皮膚管理
4–6週 0–60° SLRは疼痛・離開リスクを見て開始 伸展ロックで部分→全荷重 膝蓋骨・瘢痕の穏やかなモビ
6–8週 0–90° SAQ(0–30°)、ヒールスライド、CKCミニスクワット(0–30°) 装具併用で全荷重歩行練習 軟部組織リリース(周囲)
8–12週 Full レッグプレス(0–60°)・ステップアップ・ブリッジ 0–90°で日常全荷重 バランス訓練
12週〜 Full 負荷・角度を段階増量、プライオメトリクスは疼痛ゼロで スポーツ特異動作へ

2) 手術後(Zuggurtung法など強固な固定時)

週数 ROM 筋力 荷重・装具 物理・徒手
0–2週 0–45° 四頭筋セッティング即日、ハム等尺性 伸展ロックで全荷重可の指示になること多い 冷却、疼痛管理、創部ケア
2–4週 0–60° SLR開始(ラグなし確認)、SAQ(0–30°) ロックで歩行訓練 膝蓋骨モビ開始
4–6週 0–90° CKCミニスクワット(0–30°)、ヒールレイズ ロック解除テスト→段階解除 筋膜リリース(大腿前面)
6–8週 0–110° レッグプレス(0–60°)、ステップアップ 全荷重歩行 バランス(片脚立位)
8–12週 Full ランジ浅め→深め、エキセントリック強化 日常動作制限解除 俊敏性ドリル準備
12週〜 Full 跳躍・ダッシュ・方向転換へ段階移行 競技動作復帰準備

リハビリの重要ポイント

  • エクステンサーラグへの対処: 伸展機構が脆弱なサインです。QSの徹底や、負荷を一段階戻して再評価を行います 。
  • 軟部組織のケア: 術創部や膝蓋下脂肪体の癒着はROM制限の主因となります。愛護的なモビライゼーションや皮膚の滑走性改善が必要です 。

スポーツ復帰の判断基準

  • 可動域: 伸展0°、屈曲健側比90%以上。
  • 筋力: 大腿四頭筋の筋力が健側比80%以上(アスリートは90%以上) 。
  • 機能評価: 片脚スクワットでアライメントが安定し、痛みがないこと 。
  • 動作: ジョギング開始は10–12週以降、跳躍・切り返し動作は12–16週以降、WBI(体重支持指数)などの定量的評価をクリアした段階で検討します 。

よくある質問(FAQ)

Q. いつから曲げていい?
A. 手術で強固な固定が得られれば、術後翌日より0–90°の範囲で動かすことが可能です 。保存療法は通常4週程度の固定後に開始します。

Q. ワイヤーの当たりが痛い…
A. 金属性固定具による皮膚・軟部組織への刺激痛は、再手術(抜去)の主な原因となります。持続する場合は主治医に相談してください。

Q. 膝が完全に伸びきらない(ラグが出る)
A. 腫脹による抑制や四頭筋の機能不全が考えられます。パテラセッティングによる筋再教育を重点的に行います 。

Q. ジャンプやランニングはいつから?
A. 骨癒合の状況と筋力回復(健側比80%以上)に基づき、段階的に許可されます。一般的には12週以降が目安です 。


最終更新:2026-05-05