薄筋の概要
薄筋は大腿内側表層を走る細長い帯状筋であり、股関節内転筋群の中で唯一の二関節筋(股関節と膝関節をまたぐ)です。縫工筋・半腱様筋とともに鵞足を形成し、膝関節の屈曲や下腿の内旋に作用します 。また、下腿の外旋強制力に対して拮抗するように働き、膝関節の動的安定化にも寄与しています 。 各運動の主動作筋ではないため単独での寄与が小さく、ACL再建の腱移植(グラフト)に選ばれることがあります。臨床的には鵞足炎の一因になりやすい筋肉として重要です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 閉鎖神経(前枝) |
| 髄節 | L2–L4 |
| 起始 | 恥骨結合下1/2前縁・恥骨弓上1/2(坐骨恥骨枝) |
| 停止 | 脛骨内側面(鵞足) |
| 栄養血管 | 内側大腿回旋動脈 |
| 主な動作 | 股関節:内転・軽い屈曲 膝関節:屈曲・下腿内旋 |
| 筋体積 | 88 ㎤ |
| 筋線維長 | 23.4 ㎝ |
| 速筋:遅筋(%) | 50.0:50.0 |
※薄筋は出力が小さいため、臨床では共同筋とのバランスを評価するのが実際的です。
触診方法

薄筋は大腿内側を走行していますが、周囲の筋(長内転筋や大内転筋など)と鑑別して正確に触診することは意外と難しいとされています。
- 筋腹の触診:患者を背臥位とし、股関節を軽く内旋位、膝を伸展位に保持します。そこから股関節内転に対して抵抗をかけると、大腿内側で緊張する薄筋の筋腹を観察・触知しやすくなります。起始近位は脂肪組織の影響を受けやすいため注意が必要です。
- 停止部(鵞足)の触診:鵞足部には上から順に縫工筋、薄筋、半腱様筋の順で付着します。この部位の触診経験を積むと、主に薄筋腱に圧痛や緊張が多いことがわかります。
評価とストレッチ方法

- 薄筋の伸張テスト(鵞足のトリガー筋鑑別テスト):被検者を背臥位とし、股関節を伸展位のまま最大に外転します。最後に膝関節を伸展させ、薄筋に伸張を加えます。股関節伸展位であるため半腱様筋は弛み、外転により縫工筋が弛むため、選択的に薄筋へ伸張ストレスを加えることができます。この際、鵞足部に疼痛が誘発されれば陽性となります。
- ストレッチのポイント:ストレッチングの際は股関節を内旋・外旋中間位で行います(外旋させると股関節屈筋の活動が大きくなってしまうため)。また、つま先が外を向いてしまう(股関節外旋)と、十分な伸張感を加えることができないため注意が必要です。最大短縮位まで収縮させた後に、再び徒手的に短縮させることで反回抑制を利用した弛緩を得る方法(収縮と短縮の繰り返し法)も有効です。
筋力トレーニング

- 足首にチューブを巻き、股関節を内転させます。
- 下腿をやや内旋しながら行うと、薄筋の選択性が高まりやすいです。
- 10〜12回×2〜3セットを目安とし、痛みがある場合は負荷を下げて可動域を小さく設定します。
歩行時の筋活動

薄筋は前遊脚期(PSw)〜荷重応答期(LR)初期まで長く活動します。遊脚前半は腸骨筋とともに振り出しの補助として働き、後半は減速に寄与します。 変形性膝関節症(膝OA)などの歩行において、膝関節の過度な外旋に伴い、鵞足(薄筋など)や腓腹筋が過剰収縮し、これらのスパズムによる疼痛が膝後面部や内側部の痛みの主な要因となることがあります。
トリガーポイント(TP)

- 主訴:薄筋にトリガーポイントが生じると、大腿内側から膝関節内側に痛みが放散します。鵞足部のずきっとする痛みや張り、膝内側の不安定感を引き起こし、夜間痛の原因ともなります。
- 誘因:長時間の歩行、ランニング、サッカーのインサイドキック、側方ステップ、股関節外転ストレッチのやりすぎなどによって、薄筋が過伸長+反復収縮した際に生じやすくなります。
アナトミートレイン(筋膜連結の機能的ライン)
薄筋はDFL(ディープ・フロント・ライン)に属し、同区画の内転筋群と連動します。大腿内側の深筋膜が硬いと、薄筋に圧痛が集中しやすい特徴があります。
関連疾患と鑑別
関連疾患として、鵞足炎、平泳ぎ膝、ACL損傷後の不具合、変形性膝関節症(膝OA)などが挙げられます。
- 鵞足炎の鑑別:鵞足部に生じる疼痛の引き金となっている筋肉(縫工筋、薄筋、半腱様筋)を判別するため、各筋に対して選択的に伸張刺激を負荷する徒手検査が重要です。前述の「薄筋の伸張テスト」を用いて、MCL(内側側副靭帯)や半月板内側後角の痛み、他の鵞足構成筋由来の痛みと鑑別します。
FAQ
Q. 鵞足炎のセルフチェックは?
A. 膝内側(鵞足部)の圧痛に加え、股関節を伸展・最大外転位にした状態で膝を強制伸展させた際に疼痛が増悪する場合、薄筋が関与している可能性が高いです 。ただし、自己判断に偏らず専門家による正確な評価を受けることが推奨されます。
Q. 痛み期はどう鍛える?
A. 低負荷・小可動域・等尺性収縮から開始します。痛みが残存する場合は刺激過多のサインです。チューブを用いたトレーニングなどは後回しにして問題ありません。
Q. ACL再建に薄筋腱が使われる理由は?
A. 膝関節や股関節における単独の寄与が小さく、腱を採取した後の機能低下が比較的少ないため、半腱様筋腱などとともに移植材として選択されることがあります。
最終更新:2026-08-02

