運動失調症の原因部位とリハビリ方法について

運動失調症の要点(先にまとめ)

  • 失調は「感覚入力の障害(感覚性)」と「運動調節の障害(小脳性・大脳性)」、さらに「前庭障害(前庭性)」に大別。

  • ロンベルグ徴候:閉眼で著明に増悪→**感覚性(後索/末梢神経)**を示唆。小脳性は閉眼での増悪が目立たないのが典型。

  • リハは代償(視覚・前庭・接触入力等)×反復学習が柱。原因別に適切な負荷設定と安全管理を徹底。


運動失調の分類と病態

1.感覚性失調(固有感覚経路の障害:末梢神経・後索など)

  • 位置覚/振動覚の低下で「自分の肢の位置が分かりにくい」。

  • 開眼で代償できるが、閉眼で著明に不安定(陽性ロンベルグ)

  • 歩容:足を強く叩きつけるステッピング様、視覚への依存が強い。

2.前庭性失調(内耳・前庭神経・脳幹前庭核など)

  • 頭部運動で悪化する動揺や回転性めまい、悪心嘔吐、眼振。

  • 暗所・不整地で増悪しやすい。急性期は大きく転倒リスクが上がる

3.小脳性失調

  • 企図振戦、測定障害、分解運動、断綴言語、ワイドベース立位/歩行。

  • **閉眼で著明に悪化しない(ロンベルグ陰性〜非特異)**のが典型。

  • 直立保持は可能でもふらつきが持続し、歩行で顕著。

4.大脳性(前頭葉など)由来の「小脳様」失調

  • 前頭葉障害では**アプラキシー様歩行(磁石歩行)**や姿勢制御不良が混在。

  • 大脳症状(注意/遂行機能・感情変化など)を伴えば鑑別の手がかり。

※「身体感覚のウエイト=視覚10%・前庭20%・固有感覚70%」の数値は固定不変の法則ではなく、状況や個体差で可塑的に配分されます。本文では理解の便宜上の比喩だった点を、可塑性の視点で補正しました。


検査の要点(臨床で使う見立て)

  • ロンベルグ徴候:閉眼で転倒/著明増悪 → 感覚性

  • VOR(前庭眼反射)関連:ヘッドインパルス、視標追従で症状再現 → 前庭性

  • 指鼻・踵膝試験/交替運動不能小脳性を支持。

  • 感覚検査:関節位置覚・振動覚の低下 → 感覚性


リハビリの原則(共通)

  • 安全第一:転倒ハイリスク。監視・歩行補助具・環境整備を先に。

  • 代償と学習:不足するモダリティを他の感覚で補い反復学習で安定化。

  • 課題特異性×漸増:静的 → 動的、単関節 → 複合課題へ段階的に。

  • フィードバック:鏡・動画・触覚・視覚ターゲットで即時修正。


タイプ別リハビリ

1) 感覚性失調(脊髄性・末梢性)

  • ねらい:視覚/接触/聴覚などで固有感覚を代償

  • 介入例

    • 視覚活用:鏡・足元マーカー・床タイル目安。

    • 接触入力:杖・トレッキングポール・軽い手接触(ライトタッチ)で姿勢安定。

    • 足底刺激:テクスチャ付きインソール、足趾把持訓練。

    • バランス課題:開眼→半閉眼→閉眼へ漸増(安全確保)。

  • 家庭課題:開眼での重心移動、線上歩行(壁沿い)、段差昇降の段階練習。

2) 前庭性失調

  • ねらい:**前庭リハ(VRT)**の三本柱

    • 適応(VOR)訓練:VOR×1/×2(頭部を水平/垂直に振りながら視標注視)。

    • 代償/置換:視覚・体性感覚で頭部運動時の不一致を補正。

    • 慣れ(ハビチュエーション):誘発肢位・動作の反復で過敏性を低減。

  • 注意BPPVが疑わしければ耳石置換法(Epley等)を優先。急性前庭神経炎の極期は無理な負荷を避け、段階的に。

3) 小脳性失調

  • ねらい:協調性の再構成・タイミング学習。

  • 介入例

    • フレンケル体操系ゆっくり・正確に・反復。軌跡と速度を視覚化。

    • 分解 → 統合:単関節の指標到達→二関節協調→歩行への一般化。

    • 外的手掛かり:メトロノーム・床ラインでテンポと振幅を一定化。

    • 体幹安定:近位の固定性を高めて末梢の過大運動を抑制。

  • 補助具ワイドベース杖/ロフストランドなどで転倒リスクを下げ、練習量を確保。

4) 大脳性(前頭葉など)

  • ねらい遂行機能の補助姿勢・歩行の外的手掛かり化

  • 介入例:ステップ幅・歩数・速度の明確なルール化、課題の分節化、キューイング(視覚/聴覚)でプログラム化歩行を促す。


現場での処方例(安全枠)

  • 週3–5日/各20–30分(疲労・めまい・疼痛で調整)。

  • バランス:足幅広→狭、固い床→やや不安定面、開眼→半閉眼。

  • 歩行:ポール併用の直線歩行→S字→段差→不整地へ漸増。

  • 前庭VOR:1セット30–60秒×3–5セット、日中に分散。

  • 転倒予防:屋内の段差・敷物の除去、夜間センサーライト、適切な靴。


よくある質問(Q&A)

Q1. 失調は治りますか?
A. 原因疾患によります。可逆的な前庭障害や代謝性・薬剤性は改善が期待できます。変性疾患では機能維持・転倒予防と代償の最適化が主目標になります。

Q2. リハで一番大切なことは?
A. 安全+反復+課題特異性です。転倒を避けつつ、困っている場面そのものを小さな段階に分けて練習します。

Q3. 家でできる前庭リハは?
A. VOR×1訓練(頭部水平/垂直に1~2Hzで小幅振り+視標注視)を短時間×回数分散。ただし強いめまい・嘔気が長引く時は中止し受診

Q4. ロンベルグは何を見ている?
A. 視覚を遮断した時に姿勢維持が保てるかを見る検査。閉眼で増悪→感覚性を示唆。小脳性は閉眼での変化が乏しいのが一般的です。

Q5. 補助具は“甘え”になりませんか?
A. いいえ。転倒回避と練習量の確保が先決。適切なポール/杖の一時的使用は回復を促すことが多いです。


最終更新:2025-09-22