野球肘のリハビリ治療について解説していきます。
野球肘の概要
投球動作が原因で起こる肘関節の痛みの総称であり、別名で『投球障害肘』と呼ばれます。
好発年齢は10〜16歳(ピークは13歳)で、過度な投球や肘に負担のかかる投球フォームが原因で生じます。
障害が発生する部位によって、①内側型、②外側型、③後方型の三つに分類されます。
野球肘の簡易鑑別
投球動作では肘関節に素早い「外反」と「伸展」の動きが入るため、肘の内側には伸張ストレス、肘の外側と後方には圧迫ストレスが加わります。
それにより、肘の内側には肘尺側側副靱帯損傷、外側には上腕骨小頭離断性骨軟骨炎、後方には肘頭疲労骨折などが起こりやすくなります。
最も多いのは肘内側の痛みで、肘尺側側副靱帯が損傷して側方動揺性を制御できない状態で投球を継続すると離断性骨軟骨炎を併発します。
上腕骨内側上顆裂離や肘頭骨端線離開は、まだ骨が成熟していない若年者に発症しやすいといった特徴もあります。
投球動作とストレス
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コッキング期(腕を大きく後ろに捻じる動作)は、肩関節が『水平外転+外旋』の動きをとります。
そこから加速期において、肩関節は急激な『水平内転+内旋』の動きをとり、肘関節には強い外反力が生じます。
その結果、肘尺側側副靱帯損傷や上腕骨内側上顆裂離、上腕骨内側上顆炎、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎などを引き起こします。
ボールリリース期は、肘関節が強い『伸展』の動きをとるため、肘頭と肘頭窩(上腕骨滑車)に衝撃が生じます。
その結果、肘頭疲労骨折や肘頭窩遊離体などの障害、上腕三頭筋の過剰な収縮に伴う肘頭骨端線離開などを引き起こします。
関節鼠について
関節腔内に遊離した軟骨や骨性組織の総称を関節鼠(ねずみ)と呼ばれ、名前の由来は関節腔内をネズミのように動き回るためです。
関節鼠の原因となる疾患には、離断性骨軟骨炎、変形性関節症、骨軟骨骨折などがあります。
関節面に挟まり込むと、激痛とともに関節運動が不能となることがあり、その状態を嵌頓(かんとん)症状といいます。
手術療法
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肘尺側側副靱帯断裂の手術では、骨に穴をあける方法、骨を釘のようにして移植する方法、肋軟骨や膝の軟骨を移植する方法などがあります。
とくに有名なのは、損傷した肘の靱帯を切除し、正常な腱を移植することにより患部の修復を図る『トミー・ジョン手術』です。
メジャーリーガー(大谷翔平、ダルビッシュ有など)、の多くが受けている手術であり、肘の安定性を取り戻せたら球速が上がるケースもあるほどです。
リハビリテーション
野球肘の治療で最も必要なことは患部の安静で、具体的には投球動作を控える、または投球制限をすることです。
しかし、ほとんどの場合は投手という大事なポジションであり、練習を休めないといった発言を聞くことも多いです。
年齢も若い男の子が多く、多少の痛みがあっても無理をして練習を続ける場合も少なくありません。
そのため、治療者は患者だけでなく親にもしっかりと状態を説明し、治るまでは安静にすることの重要性を伝えることが必要となります。
野球肘の多くは肘関節外反ストレスによる障害であるため、外反ストレスを軽減させることが重要となります。
具体的には、内側上顆に付着する筋肉の強化であり、投球前にも軽く筋収縮をいれるように癖付けるようにします。
最後に投球フォームの修正ですが、最もわかりやすく効果的なのは「身体を使って投げる」「手投げにならない」ということです。
関節には『可動性関節』と『安定性関節』の2つがあり、両者は関節ユニット毎に交互となるように構成されています。
肘関節は安定性関節であり、隣接する肩関節や胸椎は可動性関節となっています。
そのため、投げるときに意識すべきは特に胸椎であり、胸椎(身体)からしっかりと回旋させて投げることを意識することが重要となります。
引用画像/参考資料
- http://www.cis.kit.ac.jp/~kida/2010/tokuron/01-79.pdf
- http://tanakamasanori.seesaa.net/article/401567344.html