この記事では、長母趾屈筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
長母趾屈筋の概要
長母趾屈筋は下腿後面深層に位置する筋肉で、表層はヒラメ筋や腓腹筋に覆われており、筋腹はやや下方に存在しています。
アキレス腱の内側を通過して足底に伸びていきますが、足底部では腱に移行しており、そのまま細長く伸びて母趾の末節骨底に停止します。
長母趾屈筋は内側縦アーチの形成に関与する筋肉のひとつですが、アーチの低下(扁平足)にはあまり関与している場合はありません。
L5/S間(S1神経根)の椎間板ヘルニアでは、足趾屈曲の筋出力が低下するので、診断をするうえで重要な所見となります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 脛骨神経 |
髄節 | S1-2 |
起始 | 腓骨後面の下方2/3、下腿骨間膜の下部、筋間中隔 |
停止 | 母趾の末節骨底 |
栄養血管 | 腓骨動脈 |
動作 | 母趾IP関節の屈曲
足関節の底屈,内反 |
拮抗筋 | 長母趾伸筋 |
筋体積 | 93㎤ |
筋線維長 | 5.0㎝ |
速筋:遅筋(%) | 50.0:50.0 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
母趾屈曲 |
1位 | 長母趾屈筋 |
2位 | 短母趾屈筋 |
長母趾屈筋の触診方法
写真では、足関節を軽度背屈し、第2-5趾を屈曲位に保持した肢位での母趾IP関節の屈曲運動を行ってもらっています。
第2-5趾を屈曲保持する理由は、長母趾屈筋の前方を通過する長趾屈筋腱の収縮を防ぐことができ、触診が容易となるからです。
長母趾屈筋の筋腹がある内果後上方あたりで手を当て、その状態で母趾を屈伸させることで筋収縮が確認できます。
母趾を最大伸展させると足底内側に長母趾屈筋腱が膨隆しますので、腱部はより容易に触診することが可能です。
下腿の断面図
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下腿中央を断面でみた場合、長母趾屈筋は腓骨後面に貼り付いてることがよくわかります。
また、後方に位置するヒラメ筋との筋間中隔にも付着を持ちます。
ストレッチ方法
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坐位にて下肢を屈曲させて踵を椅子の上に置き、両手で母趾を把持します。
その状態から手を引き寄せていき、足関節および母趾を背屈させていきます。
筋力トレーニング
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立位の姿勢をとり、背伸びをするように踵を上げていきます。
その際に、指先(母趾)を曲げるようにして、なるべく足趾で立つように意識しながら実施します。
トリガーポイントと関連痛領域
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長母趾屈筋の圧痛点(トリガーポイント)は筋腱移行部に出現し、関連痛は第1中足骨から末節骨までの足底表面に起こります。
アナトミートレイン
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母趾球筋はDFL(ディープ・フロント・ライン)という筋膜経線に属する筋肉で、足の指先から舌まで続く非常に長いラインになります。
DFLは他のラインとはやや異なり、三次元な構造を呈するために線として考えるには理解が難しいともいえます。
役割としては、①内側縦アーチの保持、②下肢の各区分を安定させる、③腰椎を前方から支える、④頭部のバランスを保つなどがあります。
足底のアーチ
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部位 |
支持する筋肉 |
内側縦アーチ | 前脛骨筋 |
後脛骨筋 | |
長母趾屈筋 | |
長趾屈筋 | |
母趾外転筋 | |
外側縦アーチ | 長腓骨筋 |
短腓骨筋 |
長母趾屈筋は足底の内側縦アーチを支持する筋肉であるため、これらの筋肉に弱化や麻痺が起こることでアーチが崩れる場合があります。
内在筋と外在筋
内在筋は足根骨もしくは足趾骨に起始と停止を共に持つ筋を指し、外在筋は足関節よりも近位に起始を持ち、足趾骨に停止する筋を指します。
内在筋の中でも、趾骨のみに起始と停止を共に持つ筋を中足筋と呼びます。
外内在筋 |
筋肉 |
支配神経 |
母趾 | 長母趾屈筋 | 脛骨神経 |
長母趾伸筋 | 深腓骨神経 | |
他趾 | 長趾屈筋 | 脛骨神経 |
長趾伸筋 | 深腓骨神経 | |
足内在筋 |
筋肉 |
支配神経 |
母趾 | 短母趾屈筋 | 内側足底神経,外側足底神経 |
短母趾伸筋 | 深腓骨神経 | |
母趾外転筋 | 内側足底神経 | |
母趾内転筋 | 外側足底神経 | |
他趾 | 短趾屈筋 | 内側足底神経 |
短趾伸筋 | 深腓骨神経 | |
足底方形筋 | 外側足底神経 | |
短小趾屈筋 | 外側足底神経 | |
小趾外転筋 | 外側足底神経 | |
小趾対立筋 | 外側足底神経 | |
虫様筋 | 内側足底神経,外側足底神経 | |
中足筋 | 背側骨間筋 | 外側足底神経 |
掌側骨間筋 | 外側足底神経 |
関連する疾患
- 長母趾屈筋腱断裂
- 足根管症候群
- アキレス腱断裂
- 下腿骨骨折
- 足関節果部骨折
- 腰椎椎間板ヘルニア etc.
アキレス腱断裂
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アキレス腱の深層(脂肪体を挟んで)を長母趾屈筋腱が通過しているため、アキレス腱断裂後の固定期間中に癒着する場合があります。
癒着を防止するためには母趾の屈曲運動(タオルギャザー)が有効で、下腿三頭筋の強い収縮を伴わないように注意して実施していきます。
足関節前方痛
足関節前方の疼痛は荷重位での背屈で訴えることが多く、長母趾屈筋の短縮もしくは癒着が関与していることがあります。
長母趾屈筋が十分に伸張できない場合は、背屈時の関節運動軸が前方に変位し、足関節前方にてインピンジメントが生じます。
また、距骨の外旋を有しているケースが多いため、治療では足関節軸の前方変位と距骨外旋の制御が必要となります。