先日(2019年10月12日)に非公認の記録ながら、人類で初めて2時間の壁をエリウド・キプチョゲ(ケニア)が突破しました。
この歴史的な快挙をみても、世界トップクラスの長距離走者になるためにはいくつかの身体的な条件が必要となることを改めて理解できました。
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理想的な身長と体重
理想的なマラソンランナーの身長は170cm、体重は55kg前後とされていますが、世界記録保持者のキプチョゲ氏の身長は170cm、体重は57kgです。
ちなみに日本の記録保持者である大迫傑選手の身長は170cm、体重53kgと公表しており、理想的な数値に限りになく近いといえます。
170cmというのは標準よりもやや低い身長になりますが、なぜ歩幅が大きい高身長の選手よりも、小柄な選手のほうが速いのか。
考えられる要素としては、ストライドが大きいために急カーブでタイムロスをしてしまうことや全身に血液を効率的に送りやすいことが挙げられます。
身体的特徴
身長と体重以外の特徴としては、①短い胴体(長い脚)、②スポーツ心臓(心腔の容積が大きい)、③細い手足(筋肉量が少ない)、④遅筋線維が豊富が挙げられます。
胴体が短いと必然的に脚は長くなるので、その分だけ体重は軽くなり、長距離選手にとってはエネルギーの消費を抑えることができます。
スポーツ心臓とは心拡大した状態であり、それに伴って1回の拍出量は増加し、少ない心拍数でも大量の血液を全身に送ることが可能となります。
そのため、安静時の心拍数は35〜50回/分といった心拍数で事足ります。
心拡大するためには心腔の容積が大きいことが必要となるため、身体的特徴としては心腔の容積が重要となるわけです。
長距離選手は無駄な脂肪や筋肉が付いていないほうがいいので、太ももやお尻、ふくらはぎ(腓腹筋)の筋肉はあまり発達していないほうが理想的です。
発達していないほうがいいというのはあくまで筋肥大の話であり、長距離選手は遅筋線維(赤筋線維)の割合が多いため、筋肉の形がわかりにくい傾向にあります。
筋肥大するのは速筋線維(白筋線維)であるため、遅筋線維が多いと必然的に脚は細くなります。
筋肉の形状や関節の硬さ
長距離選手は筋肉の羽状角が大きいほうがいいとされています。
羽状筋は筋束が5-25度の角度を持って斜めに走行しているため、筋線維の収縮力は直接に腱へと伝達されず、伝導効率は低下します。
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伝導効率は低下しますが、羽状角があるおかげで筋線維の短縮距離は短くてすむので、結果的に効率を犠牲にして距離を得しているといえます。
羽状筋では移動距離が少ないため、つねに一定の張力を発揮しやすい状態となり、収縮力を発揮し続けることができます。
それに対して、平行筋のように移動距離が大きいと、収縮するにつれて適度な張力が保てなくなるので、長距離選手には不向きな形状といえます。
関節の柔軟性に関しては高くないほうがいいとされており、関節が柔らかすぎると筋肉は伸ばされて適度な張力が保てなくなるからだと考えられます。
それを裏付ける面白いエピソードとして、箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた某選手は立位体前屈距離(FFD)がマイナス40cm以上だったそうです。
このことからマラソンの上りでは関節の柔軟性は低いほうが何らかのメリット(筋収縮を抑えられる)があり、硬いからといって柔軟体操をすることはデメリットにさえなりえます。
以上のことを理解したうえでトレーニングを行うことが大切であり、それ以前にその人に合った種目を選択することがトップになるための条件だといえます。