閉塞性動脈硬化症(ASO/PAD)の概要
定義
末梢動脈(とくに骨盤~下肢の主幹動脈)に動脈硬化性プラークが生じ、慢性的に血流が低下する病態。慢性閉塞性疾患に分類され、閉塞性血栓血管炎(バージャー病)や膝窩動脈捕捉症候群等は別疾患。
疫学・リスク
-
加齢とともに増加。喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病/透析が主要因。
-
病変好発部位:腹部大動脈—腸骨—大腿—膝窩—下腿動脈。糖尿病・透析では**遠位(下腿・足)**の病変が増え、切断リスクが上がる。
症状と重症度(Fontaine分類)
-
I度:無症状/冷感・しびれ
-
II度:間欠性跛行(歩くとふくらはぎ等が痛み、休むと軽快)
-
III度:安静時痛
-
IV度:潰瘍/壊死
進行は「無症状→労作時痛→安静時痛→組織障害」の順が典型。
鑑別:脊柱管狭窄症(神経性跛行)との違い
神経性(狭窄)
-
屈曲で軽快(前かがみ・ショッピングカート徴候)
-
自転車はOKになりがち
-
末梢動脈拍動は保たれる/ABIは正常
血管性(ASO)
-
立位・歩行量で再現性高い痛み、安静で速やかに軽快
-
自転車でも症状が出やすい
-
足背/後脛骨動脈の拍動低下、ABI低下(<0.90)
診断の要点
-
触診:後脛骨動脈の評価は有用(足背動脈は解剖学的に触れにくい例あり)。
-
ABI(足関節—上腕血圧比):<0.90でPAD示唆、<0.40で重症。>1.40は石灰化で偽高値を疑う(DM/CKDではTBI併用を検討)。
-
画像:ドプラ超音波、CTA/MRA、必要に応じて血管造影。
-
組織灌流評価:toe pressure / TcPO₂は潰瘍・壊死例の重症度判断に有用。
※ABIの感度・特異度は高いが100%ではない。石灰化例で偽陰性に注意。
バージャー病(閉塞性血栓血管炎)との鑑別
-
好発:50歳未満・喫煙男性
-
病変:より末梢(指趾)、動静脈ともに炎症性閉塞、遊走性静脈炎
-
所見:指趾末端の潰瘍率が高い、上肢症状も出やすい
-
ASOは動脈硬化性・主幹動脈主体が基本
急性動脈閉塞(合併・別問題)—緊急
塞栓や血栓で急激に閉塞。数時間単位で救肢を争う。
“6P”:Pain(疼痛)/Pallor(蒼白)/Pulselessness(脈なし)/Paresthesia(知覚異常)/Paralysis(麻痺)/Poikilothermia(冷感)
→ 直ちに血管外科へ。遅れると壊死・切断。
治療の柱
1) 生活習慣・内科的管理(全患者が対象)
-
禁煙(最重要)、スタチン、抗血小板薬、血圧・血糖管理、体重・栄養、フットケア。
2) 監視下運動療法(間欠性跛行;推奨度高)
-
トレッドミル/トラック歩行:跛行痛が出てからも中等度の痛みまで継続→休憩→再開を反復。
-
設定:跛行が5分以内に出る速度・傾斜から。週3回/30–50分(初回~35分→段階的に延長)。
-
機序:内皮機能・骨格筋代謝の改善、側副血行の発達など。
3) 血行再建(症状・病変分布・全身状態で選択)
-
血管内治療(EVT):バルーン拡張、ステント留置など(近年低侵襲で第一選択になりやすい)。
-
バイパス手術:自家静脈(大伏在)や人工血管で血流迂回。長区間・石灰化高度などに適応。
-
切断:救命/感染制御/壊死進展で不可避の場合に限る。
※「欧米で切断が第一選択」は誤り。現行は血行再建優先が一般的です。
実地のポイント(理学療法・ケア)
-
歩行処方は脈拍・痛みを監視しつつ**“痛み出現→中等度まで継続→休憩”**で漸増。
-
足部観察:温度・色調・毛量・創傷、靴適合。
-
下腿筋ポンプ活性(カーフレイズ等)は静脈還流にも有益。
-
禁忌:安静時痛/潰瘍・壊死が進行する局面の過負荷、急性閉塞疑い。
よくある質問(Q&A)
Q1. ABIが正常でもASOは否定できますか?
A. できません。**石灰化(>1.40)**や境界例があり、TBIやドプラを併用します。
Q2. 自転車はASOでも楽ですか?
A. 多くは楽になりにくい(屈曲で軽快するのは神経性跛行に特徴)。ただし個人差はあります。
Q3. いつ血行再建を考える?
A. 内科治療+監視下運動で不十分、生活に支障大、安静時痛/組織障害がある場合など。病変部位・全身リスクでEVT/バイパスを選択。
Q4. 歩行は“痛みが出たら中止”が正解?
A. いいえ。中等度の痛みまで継続→休憩→再開が有効。安全域で漸増します。
Q5. 足背動脈が触れません。ASO確定?
A. 非必ずしも。解剖学的に触れにくい例があり、後脛骨動脈の触知とABI/TBIで評価します。
最終更新:2025-10-02