特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
間質性肺炎の概要
特発性間質性肺炎は、原因不明の間質性肺炎の総称であり、拘束性換気障害をきたします。進行すると組織が線維化し、肺線維症を引き起こします。
閉塞性肺疾患の代表がCOPDであるなら、拘束性肺疾患の代表は間質性肺炎といえます。特発性間質性肺炎に対しては、現在もまだ有効性が確立した治療法は存在しません。
主な症状について
間質性肺炎では、%肺活量の低下が認められますので、運動耐用能が著しく低下しています。また、運動時低酸素血症が著しいほど、予後は不良となります。
特発性肺線維症は、緩徐に進行していきますが、5年生存率は30%ほどと予後が非常に悪い疾患です。
また、急性憎悪を起こした場合は、ステロイドや免疫抑制薬を投与されますが、必ずしも有効とは限りません。
間質性肺炎をわかりやすく理解する
まず間質とは、正常な肺胞の外側にある壁の部分を指します。ここに炎症が起きてしまうと壁が肥厚してしまい、肺が十分に膨らまなくなってしまいます。
例えるなら、風船のゴムが分厚いものが間質性肺炎です。分厚いゴムは膨らませることが難しくなり、ガス交換としての役割も失っていきます。
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間質性肺炎の分類
臨床では、間質性肺炎とまとめられて診断名が書かれている場合も多いですが、大切なのはなにが原因かを把握することです。
間質性肺炎の分類は以下になります。
分類 | 特徴 |
主な特発性間質性肺炎 | |
1.慢性線維間質性肺炎 | |
特発性肺線維症(IPF) | 治りにくい、臨床で頻出、緩徐な進行性 |
特発性非特異性間質性肺炎(NSIP) | 一部ステロイドが効くこともある |
2.喫煙関連間質性肺炎 | |
呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD) | 臨床で出会うことは少ない |
剥離性間質性肺炎(DIP) | |
3.急性/亜急性間質性肺炎 | |
特発性器質化肺炎(COP) | ステロイドが非常に効果的 |
急性間質性肺炎(AIP) | 人工呼吸器を装着するリスクが高い、多くは致死的 |
希少特発性間質性肺炎 | |
特発性リンパ球性間質性肺炎(LIP) | - |
特発性PPEE | - |
分類不能型特発性間質性肺炎 |
間質性肺炎の急性憎悪と急性間質性肺炎(AIP)は別物
少しわかりにくい表現なので補足しますが、急性憎悪とは基礎疾患があって、それが急激に悪くなることを指します。それに対し、AIPは急性に間質肺炎を引き起こした状態です。
どちらも致死率が非常に高く、危険な状態に陥っています。基礎疾患に間質性肺炎があり、SpO2が急激に下がっている場合は急性憎悪を疑ってかかるようにしてください。
呼吸不全の診断基準(厚労省)
- 室内気吸入時のPao2(動脈血酸素分圧)が45Torr以下の場合(Paco2の値によってⅠ型とⅡ型に分類)
- 慢性呼吸不全とは呼吸不全の状態が1ヶ月以上持続するものをいう
Pao2 | Paco2 | |
Ⅰ型呼吸不全 | 60Torr以下 | 45Torr以下 |
Ⅱ型呼吸不全 | 60Torr以下 | 45Torr超 |
Pao2が60Torrとは、Spo2(酸素飽和度)では概ね90%に相当します。そのため、パルスオキシメーターの計測値では90%をひとつの基準として考えます。
検査方法
肺機能検査
%肺活量が80%以下となれば拘束性換気障害と診断されます。また、基本的には一秒率は正常の値を示します。
主にスパイロメーターで計測することができ、以下のような形状を示します。
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画像検査
胸部X線写真では、中下肺、外側優位に両側のびまん性の線上・網状陰影が確認できます。また、肺高血圧の所見として肺門部の血管陰影が拡大します。
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視診・打診・聴診
視診では、十分に肺が膨らまないために呼吸が浅く速くなりやすいです。また、呼吸補助筋の過緊張により、圧迫すると強い痛みを伴います。
打診では、肺が線維化しているために含気も少なく、濁音が聴取できます。濁音とは、響かない詰まったような音を指します。
聴診では、吸気時に捻髪音(バリバリ、メリメリ)という音が聴取できます。これは、呼気時に虚脱した細い気管支が吸気時に再解放することで発生します。
下肺野背側で多く聴取されます。呼吸困難のために換気量が増え、肺胞呼吸音が増大する原因となります。
観察所見
胸郭変形
- 高度の肺気腫では洋樽変形(Barrel chest)がみられる
- 胸骨が陥没した漏斗胸や突出した状態の鳩胸の有無
換気運動パターン
- 横隔膜が働いていない場合は、吸気時に腹部が内包へ引き込まれる
- 重度症例は上胸部の運動が大きく腹部の運動は小さい
- 胸郭の動きに左右差がある場合は一側横隔膜神経麻痺や一側横隔肋骨洞が疑われる
チアノーゼ
- 口唇、爪、耳たぶなどの毛細血管が外から観察できる部位で認められる
- 発生時はO2飽和度が75%以下であることが疑われる
- 貧血があるとHbの絶対量が少なくなるので現れにくい
ばち状指
- 爪の付け根が隆起して側方からみて180°以上になった状態
- 通常では160°程度で陥没している
- 慢性気管支炎、肺気腫、肺癌、うっ血性心不全、肝硬変などにみられる
リハビリテーション
リハビリ内容は、経過や予後を考慮したうえでプログラムを決定することが大切です。また、運動時低酸素血症などのリスクもあるため、こまめに酸素飽和度を確認する必要があります。
基本的にはSpO2が90%を下回らない範囲でADL指導などを実施し、必要に応じて酸素投与量を増減させながら実施していきます。
リラクセーション
呼吸時に過剰な働きをしている呼吸補助筋の過緊張を軽減することがリラクセーションの目的です。主に、斜角筋、胸鎖乳突筋、大胸筋、僧帽筋などに対してアプローチします。
具体的な方法として、まずは呼吸がしやすいポジションに誘導して、そこから対象の筋に軽いマッサージを施していきます。
腹式呼吸の指導
拘束性換気障害では、深い呼吸を意識しすぎると肺活量にちかい深さの呼吸となるため、逆効果となる場合もあります。
なので、あまり深い呼吸を意識するのではなく、可能な限りリラックスした状態で呼吸ができることを重点において練習をしていきます。
胸郭のストレッチ
肺の線維化に伴い二次的に胸郭の可動域に制限が起こります。そのため、胸郭のストレッチは欠かすことができません。
胸郭を拡げる体操は普段から実施することが望まれているため、早期から自主メニューとして運動指導することが推奨されます。
全身持久力/筋力トレーニング
持久力トレーニングは、酸素の使用効率を高めると同時に、呼吸困難を感じる閾値を高める効果もあります。そのため、軽症である初期より積極的な運動が必要となります。
実際によく実施されている方法として、エアロバイク、トレッドミル、階段昇降などがあります。運動強度は、修正ボルグスケールを基準にして決定します。
呼吸筋の筋持久力の向上
呼吸筋の筋持久力を高めることにより、換気運動能力の改善、二次的障害の防止(胸郭の筋委縮、胸膜癒着の予防など)を行います。
横隔膜の筋力は腹部や胸部に抵抗を与えて測定します。
補助具の検討
電動車椅子やシルバーカーなどを使用することで、移動時の酸素消費量を減少させます。また、生活動作に応じてボンベからの酸素供給量を調節します。