概要
頭半棘筋は上背部~下位頸椎から頭蓋底(上項線付近)へ至る深層の伸筋群(横突棘筋系)の一部。分節的に連なるため複数箇所にトリガーポイント(TP)が生じやすく、耳の上を半環状に囲む頭痛や後頭部痛、枕に頭を置けない圧痛過敏の原因となります。僧帽筋のTPと相互作用して後頭神経(大後頭神経など)の刺激を助長することがあり、ズキズキ・灼熱感・締め付けといった訴えを伴うことがあります。
解剖と機能(要点)
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起始:上部胸椎・下位頸椎の横突起
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停止:後頭骨上項線付近(頭蓋底)
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作用:
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両側:頭頸の伸展・姿勢保持
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片側:反対側回旋(横突→棘突の配列により)+軽度側屈
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特徴:深層で長く、持久的に活動。長時間の前方頭位や視線固定で過負荷になりやすい。
症状・関連痛パターン
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TP1(側頭部寄り):耳のすぐ上を半円状に取り巻く頭痛、こめかみ~耳上の圧痛・ピリピリ。

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TP2(後頭部寄り):後頭部中央~帽状腱膜付近の痛み・重さ。

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神経刺激に伴う訴え:後頭部のうずき・灼熱痛・締め付け、枕圧への過敏。
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誘発・増悪:長時間のPC/スマホ、読書・細作業、上方視や過伸展、就寝時の高い枕。
後頭下筋群や僧帽筋上部のTPと同時に活性していることが多く、相互に衛星TPを形成して痛みを増幅します。
よくある原因・背景
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前方頭位・頭部固定(画面が高すぎ/低すぎ、モニターの位置が偏る)
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ストレスに伴う肩すくめ+頭前突
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不適切な枕(高すぎ・硬すぎ・形状不適合)
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寒冷曝露・寝冷えで筋が防御的に短縮
鑑別のヒント
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後頭下筋群:眼窩奥~前頭部に刺すような関連痛、最大回旋終末で上位頸に鋭痛。
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僧帽筋上部:こめかみ痛が主で、肩上の表在TPが明瞭。
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頭半棘筋:耳上半環状+後頭部の2系統が出やすく、前方頭位・枕圧で悪化。
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神経学的所見(広範なしびれ・筋力低下・協調障害)がある場合はまず器質的疾患を除外。
触診のコツ(深層・安全第一)
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体位:座位または伏臥位、軽い頸前屈で表層の緊張を下げる。
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アプローチ:乳様突起後方~上項線に沿って縦走する索状硬結を、指腹でゆっくり圧走。
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再現痛:耳上半環状や後頭部中央へ遠隔の再現痛が出れば陽性所見。
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注意:深層への強圧は禁物(後頭神経・血管への刺激リスク)。
介入(セルフ/臨床)
1) やさしい圧迫リリース
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ポイント圧:索状部に痛気持ち良い程度で30–45秒持続→ゆっくり解除。
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ボール法:壁と後頭/上項線の間にテニス/ラクロスボールを当て、小さく転がす(過敏なら柔らかめから)。
2) ストレッチ(反動なし・呼吸同調)
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反対側回旋+軽い側屈+微前屈を組み合わせ、10–20秒×3–5回。
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痛みゼロ~軽度、めまい・吐き気・視覚異常が出たら中止。
3) 姿勢・環境の最適化
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画面を目線高~やや下に、**前腕支持(肘掛け/デスク)**を確保。
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30–60分ごとにマイクロブレイク(顎引き、肩下制、眼球運動)。
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枕:高さは後頭—背部が一直線になる程度。硬さは圧で痛みが出ないものへ。
4) 再発予防エクササイズ
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深頸屈筋の軽い等尺(顎引きで枕へ5秒×5)。
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肩甲帯の安定化(下部僧帽筋・前鋸筋:壁スライド/Y・T・W)。
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視線の滑走練習(水平・斜めに目だけ動かし、頭の不要な追従を抑える)。
安全上の注意
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強圧・長時間の押圧は逆効果(遅発痛・神経刺激)。
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神経症状、外傷後、夜間増悪がある場合は医療機関で評価。
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椎骨動脈系過敏が疑われる場合は小可動域・低負荷で。
よくある質問(Q&A)
Q1. 頭半棘筋の痛みはどこに出やすい?
A. 耳の上の半環状の頭痛と後頭部中央の重さ・痛みが典型的です。
Q2. どうすると悪化する?
A. 前方頭位の長時間維持、高い枕、上方視や過伸展、ストレスによる肩すくめなど。
Q3. 自分でケアするコツは?
A. 軽い持続圧→反対側回旋+微前屈のストレッチ→姿勢と枕調整の順。毎回短時間で。
Q4. ほかの筋との関係は?
A. 僧帽筋上部・後頭下筋群と相互にTPを作りやすいので、併せて評価・ケアすると再発予防に有利です。
まとめ
頭半棘筋は深層の伸筋で、耳上半環状~後頭の頭痛や枕圧過敏の主要因になり得ます。
深層に優しい圧→反動なしストレッチ→姿勢・枕の最適化→深頸屈筋と肩甲帯の協調という流れを習慣化し、再発しにくい環境を作りましょう。